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イケてるファッションに身を包んでイケてるダンスでイケない怪人をちゃんとした人にする正義のガールズ怪盗たち、それがファントミラージュなのだ! 今日も今日とて良いことをしようとしていたがためにダンディ坂野率いる逆逆警察によって心を逮捕され怪人イケナイヤーにされてしまった人をキラッキラのダンスで更正するファントミ、そこに現われたのはなんと世界的映画監督・黒沢ピヨシ!
これだあ! これなんだあ! 俺はファントミちゃんたちの映画を撮るぞー! 燃え上がる世界的映画監督・黒沢ピヨシ。ファントミたちも憧れの映画撮影にわっくわくだ。だが人々のわっくわくを邪魔するのが悪の組織のお仕事。逆逆警察に目を付けられた世界的映画監督・黒沢ピヨシは心を逆逮捕され怪人ヘンナエイガトルヤーになってしまう!
さっきまでは人々を元気にするための娯楽アクション映画を撮ろうとしていた世界的映画監督・黒沢ピヨシは突如としてブチ切れながらゴダール風の怪演出を連発! 「そうだぁ! それでいいいい! うへへへ! はいカット!」ファントミの物知り担当は「でも世界的映画監督の黒沢ピヨシ監督ならやりそうだな…」とゴダール風の怪演出に理解を示すがこんな男を放っておいたら映画界があぶない! 世界的映画監督・黒沢ピヨシを取り戻し観客のみんなが元気になれる楽しい映画を撮ってもらうためにファントミは立ち上がるのであーった!
思いも寄らないところで三池崇史(※シリーズ総監督)による黒沢清イジリです。やっぱ共に90年代ノワールVシネで名を上げた同期みたいなところはありますからね。作風は違えど二人ともJホラーに新たな方向性を示した監督でもある。クロキヨは『CURE』で、三池は『オーディション』で。国内よりも海外でその芸術性が評価されたというのも同じだな。違うのはクロキヨが堅実にキャリアを固めて世界的映画監督の座を手にしたのに対して三池は来た仕事は全部受ける方針(今はどうか知らないが)により結構貧乏クジも引いてしまったところぐらいだろう。
その三池が! これは偶然であろうがクロキヨの最新作にして集大成とも言われる『スパイの妻』の公開を控えたこの時期に映画館でクロキヨいじりですよ。これはアツイね。ファントミを応援するキッズたちはそんなことどうでもいいだろうけれどもアツイでしょ。そうか~クロキヨが『叫』みたいな変な映画を撮る時はヘンナエイガトルヤーになっていたんだなぁ~。疑問解決! ちょーだいしました!
でもそこ以外もちゃーんと全部面白かったですよ。あんま闘わないんすね~女児戦隊ものは。殴ったり蹴ったりする代わりにダンスで敵の心を入れ替えたり衣装チェンジで敵の目を欺いたりします。ははは、平和平和。ぼくこういう戦隊ものの方が好きですよ。自己肯定の塊って感じでね。イケてるファントミのキラッキラなダンスを観ればイケない心もすっとほぐれてイケてる人に戻るのだ。女児向けだがむしろ心の枯れたおじさんに優しい映画である。
そのダンスが思いのほか本格的だったのは嬉しい誤算、いやぁもう運動量の多いちょっとストリート入った激しいダンスで、中でもファントミ青とファントミ紫の動きのキレはすばらしい。主人公格のファントミ赤のダンスはそれと比べればイージーなものであったがこれはたぶん女児視聴者はファントミ赤に感情移入するであろうからそこらへんの女児でも真似して踊れるようにという配慮だろう。クールな青と紫にはああなりたいなの理想的なダンスをさせておいて赤にはある程度誰でもできる身近なダンスをしてもらう。う~ん手抜かりがない。
バトルがダンス&歌唱なのでざっくり『プリティーリズム』をコミカルな実写映画にしたみたいな構成なのだが映画作りを題材にした映画とあって案外ネタが盛りだくさん、クロピヨがニンジャ映画を撮ることにしたのでファントミは京都太秦の撮影所を訪れるのであるが、女児レベルにダウンコンバートされているとはいえ映画作りの裏側をちょっとだけ覗けて楽しいし、ニンジャと闘う展開は太秦映画村のイベントみたい、「映画作り」のテーマが綺麗にオチるラストは敵も味方も黒沢ピヨシもみんなハッピーで和気藹々。映画って楽しいね! 泣くとまではさすがに言わないが幸せには浸れる。
実際のクロキヨは穏やかな人柄で知られるが(そのくせ人でなし映画ばかり撮る)映画の中のクロピヨもまたニンジャ役のアクターに飛び降りアクションを振りながら「大丈夫?」と声をかけるのを忘れない心優しき映画監督であった。リスペクトなのだろうか。見た目は中尾明慶なのでそんなに似てないが服装はクロキヨっぽい。その事務所(なぜか銭湯)には『人間失敗』とかいうクロピヨ監督作のポスターが置かれているがこれはクロキヨ監督作『ニンゲン合格』のパロディだろう。ここには他にも『忍びの忍者』(同じだろ!)とか『はらへり一等兵』とかのポスターが置かれてたりする。どんな映画なんだ『はらへり一等兵』…『野火』か?
歌と踊りとファッションとギャグとかわいい生物、あとちょっとしたアクションと映画賛歌。いやはや女児向けとはいえ堂々たる王道娯楽映画だ。せっかくなんだからファントミ先生的なポジションの関口メンディーにも踊ってもらいたかったがそれは求めすぎ。いかにも三池が好きそうな暴走ナレーションも着ぐるみギャグも邪気のないはちゃめちゃ感で幸せでしたよ。面白かったっていうか幸せだったっていう映画だね。ファントミ~(IKKO的な発音で)
※芋洗坂係長とかダンディ坂野が出てくるあたりはちょっと『クレヨンしんちゃん』的かもしれませんな。おしりぷりっぷり~とかやってるし。
【ママー!これ買ってー!】
ファントミで三池に好感を持った初学者を地獄に突き落とす。