《推定睡眠時間:0分》
予告編はあまりそっち推しな感じではなかったのでこれ『ロード・オブ・ザ・リング』で観たやつじゃんから始まるファンタジー展開にあ、そういう映画だったの、と小サプライズ。この世界はエルフがいてフェアリーがいてケンタウルスとかマンティコアとかオークとかサイクロプスとかもいてっていう『ロード・オブ・ザ・リング』のような世界。もちろん魔法もあったが魔法は使える人が限られていて使えるようになるためには色々努力とかしないといけないくせに燃費が悪く日常生活ではあまり使わなかったりするのでこんな不便なものより普通に電気の方がよくない? とある日誰かが気付いてしまう(この人はハイパー偉人だと思うが特に物語の中で触れてはもらえない)
このハイパー発明家のおかげで世の中はぐんぐん便利になって魔法が支配していたファンタジー世界はいつしかすっかりそこらの人間世界と変わらなくなってしまった。映画ドラえもんの『魔界大冒険』の逆パターンですな。あの美しかったユニコーンは野良コーンとなってゴミ箱の残飯を漁り、その翼でどこまでも飛んでいけたはずのフェアリーはもう飛ぶことなんかやめて移動とか族車です。マンティコア? なにそれ美味しいの? 懐古復古がひとつのテーマになっている映画だったのでこちらのネット定型句まで古くなってしまう。
主人公くんはそんなうらぶれファンタジー世界に生きる平凡ティーンのエルフ族。そのお父さんが死ぬ前に魔法の杖と魔力を秘めた石と死者蘇生の呪文を残したっていうんで早く死なれすぎてお父さんの記憶なんかろくにないエルフくんはこれでお父さんを蘇らせよー! このようになるわけですが、あれだよね、なんでこのお父さんこの魔法の廃れた世界でそんな超魔法知ってたんだろうって観ながらずっと思ってて、結局最後まで説明されることはなかったのですが、エルフだからだよね。『ロード・オブ・ザ・リング』は知らないですけど『ウィザードリィ』とかのRPGだとエルフはだいたい魔力が高い。
主人公くんの兄貴はスナックばかり食べていてお風呂に入らない『ダンジョンズ&ドラゴンズ』系のファンタジーTRPGマニア。日本だとTRPGなんてどこまでもゲームでしかないわけですが『ロード・オブ・ザ・リング』が空想寄りのヒッピーのバイブルにまでなってしまった欧米ではまぁ大抵の人にとっては単なるゲームだとしても一部のキマッたマニアにとっては自己実現的な意味合いも帯びていたり変身願望を満たすためのものであったりもするらしいってわけで、兄エルフもそんな一人。
あ、突然ですがここからほんの少しネタバレが入ってきます。ネタバレはほんの少しですが物語の核心にはわりと触れているので危険度高いと思います。あしからず。
このTRPGは我々の歴史に基づいて作られてるんだ! この魔法に満ちたTRPGこそが我々のあるべき本来の姿なのだ! さぁ我が弟よ! 汝の真の名を我に明かすなり! 朝から晩までそんなことを言っていて本当に言動も体臭もキツイなと思うのですが、ま、ともかくそういうわけで魔法です。なんでお父さん魔法残したんだろうな~そんな仕事してる人っぽくも見えないしな~と思っていたのですが、これは兄エルフのためにリアル魔法探してきて遺してあげたんだよね。
友達のいなさそうな兄エルフであるから(誰とTRPGやってるんだろう)子供の頃から魔法世界にばかり浸っていたに違いない。まぁ無理に空想世界から引き離すのは酷でしょ、空想の中でしか生きられない人というのも世の中にはいるからね…そんなに魔法が好きなら魔法をプレゼントしてあげようじゃないか、それであいつも魔法エルフとして自信付くだろ。なんだか理解のありすぎる父親である。
しかしそこは子を持つ親の善意の奸智、単に超すごい魔法をプレゼントするだけだと兄エルフはますます引きこもってお風呂にも入らなくなってしまうので「2分の1の」超すごい魔法の出番だ。一分は兄エルフ、もう一分は弟エルフ。二人で協力して冒険したりしないとこの魔法は完成しない。超すごい魔法が欲しくば弟と一緒に外の世界を見て回って仲良くなったりしなさい。ミステリア~スな魔法プレゼントにはそんな思いが込められていたわけですね~。
というわけで実は意外とトリッキーというか、展開はストレートでもその含意や面白味を理解するにはそれなりの読解力や前提知識を要する映画であった。『ゲーム・オブ・スローンズ』が空前絶後の大成功を収めたぐらいなのだからハイファンタジーに馴染みがない人というのはさすがに今どき超々少数派だとしても、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』なんてぶっちゃけリアルにやってる人見たことないし、日本での社会的影響力なんかコンピューターRPGへの影響を除けばたぶん皆無。そのモチーフが物語の核になっていたりするんだからちょっと難しいよね、文化的に。
エルフ兄弟が魔法の石を追いながら色んな種族を巻き込んで覚醒させていく展開も兄エルフが夢見た『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の世界が現実に! の感慨を汲まないとわりと淡泊に見えてしまう。でも英語圏の客ならそれぐらいなんとなく知ってるから盛り上がるだろみたいな、たぶんそういう風に作っているんだよなこれは。殺人寒天とかも俺は知らないですけどあれも知ってる人はあーはいはいそれね! って絶対なってる。フェミリー映画とマニア映画の際を攻めたディズニー×ピクサーらしいいぶし銀の映画だなと思った。
あと面白かったところ、下半身だけ蘇ったお父さんの扱い。足だけだとコミュニケーションを取るのも一苦労だからハーネス着けて犬みたいに引っ張ってくんですけど、どうせ足だけだからと置き石に活用したりして扱い雑。そこ、エルフ兄弟のお父さん大好き描写とのギャップで笑っちゃったよね。足とはいえもう少し大事に扱えよ足とはいえ!
※科学文明を採用したファンタジー世界という発想は面白いもののさほど掘り下げられることはなく、やはりこれは世界観を楽しむ映画というよりTRPGオタクのエルフ兄の成長物語なのであった。
【ママー!これ買ってー!】
レビュー見たらスターターって書いてあるけどこんな文字だけの分厚い説明書じゃルールわかんねぇよみたいなことが書いてあって、トレーディングカードゲームのマジック・ザ・ギャザリングを第5版ぐらいから始めた俺はあの頃のマジックの説明書も全然書いてあることの意味わかんなかったなーとなんだか懐古。カードサイズの小さなモノクロ冊子にぎこちない翻訳文が延々載ってるだけなんだもんなー。