映画感想『ジオラマボーイ・パノラマガール』(悪口注意)

《推定睡眠時間:0分》

『ホットギミック ガール・ミーツ・ボーイ』は暇と苛立ちを持て余した豊洲の高校生たちが生と性を求めて豊洲周辺と渋谷駅周辺のみを徘徊する映画でしたが観てびっくり『ジオラマボーイ・パノラマガール』も豊洲と渋谷でした。またかよ! それでだいたい風景も同じっていうか風景の思想が同じような感じで。『ホットギミック』は豊洲一帯の再開発地域を舞台にしているのであっちでもこっちでも工事やっててすごいノイジー。で『ジオラマボーイ』もやっぱそれをこれ見よがしに撮るんだなこれが。工事とあと高層マンション。どっちもそれ。

なんなんすかね。いや、マジでなんなんすかね。いいけどさ…なんか、『ホットギミック』観てる映画好きに向けた内輪ネタだったりしたらめちゃくちゃ嫌じゃない? いや別に嫌じゃない人もいると思いますけど俺は嫌でしたね。そんなのどうでもいいよって思うもん。映画好きとか若手映画監督同士の内輪とかいいから単品でちゃんと勝負しろよみたいな。そうじゃなくて万一偶然にもロケ地被っちゃったんならそこは多少工夫しろよってなるでしょ。でもそれもないと思うけどな渋谷はともかく豊洲は「とりあえず豊洲で撮るか~」ってならんだろう普通。一般的に認知されてるアイコン的なものとかタワマン群ぐらいしかないんだから。

豊洲、豊洲ね~。ひとまずそこに込められたあらゆるメタファーやアナロジーやアレゴリーなどなど批評的な広がりのすべてを脇に置くとして、表面的には高校生男女の成長の物語と言えるわけじゃないですか。色んなものを発見したり、同じものの違う面を見たり、橋渡ったり電車乗ったりして。でバラバラになりそうな自分をラストに置かれた象徴的な「誕生日」で再統合するわけじゃないすか。そのための物語上の移動が西と上なんですよ。キャラクターが豊洲を起点に西か(建物の)上に動くとグラっと物語動く。

たぶん1回だけ月島らへんの古ぼけ住宅街行ったんじゃねぇかと思うんですが、いやもっと南北移動とかすればいいじゃんって思いましたよ。豊洲、せっかくロケ行ったのにもったいないじゃん。そりゃ別にお台場海浜公園とか行っても泳げたりとかはしないだろうけど一応海な感じじゃないすか。海はあるし、あのへんは広大な空き地も多いし、なんか西海岸風の建物とかもあるし、謎のパリピバスとかも走ってたりするし(男の子の方がバイトしてたホテルはこのへんだろうか)、背景に豊洲PITとか映り込ませてるんだから冒険がしたかったらいちいち渋谷まで行かなくてもPITとかZeppとかでライブ観りゃいいじゃんいやもちろん渋谷という街に意味があることはわかってるんです! わかって言ってるんです俺は!! だけどさぁ…なんかそのいかにもシンボルとして街使ってます感が嫌でさぁ…。

で豊洲から勝ちどきの方に向かってもっかい橋を渡ると築地銀座、北上して別の橋を渡ると月島ですけれども、月島だってねぇ何ももんじゃだけの町じゃないんですよ。とくに町に思い入れのない俺の月島観は汚ぇ家が並んでんなぐらいなものですけれども月島といったらゾウガメを散歩させてる謎のおっさん。びっくりするよ普通に散歩させてるんだもん。で近所の子供とかが乗らせてっつって乗る。なにその平和な光景。

月島といえば最近は再開発でそこそこ綺麗になりましたけれどもここから眺める橋向こうの勝ちどき・月島タワマン群というのは本当にこう…格差社会! という感じでこれも得がたい。『ランド・オブ・ザ・デッド』かってリアルに思いますよ実際観たら。そういう風に豊洲からちょっと南北に行くだけで面白い風景はたくさんあって、自分の再発見・世界の拡張の契機だってあるのにこの映画はですね…いや一応付け加えておきますけれどもタイトルのパノラマガールというのは要はそういう意味なんです。狭くて同じ風景ばかり見ていてなんか行き詰まった主人公ガールが高いところから町を一望することで違う風景・違う自分を獲得するっていう映画なんです。

だからこの映画が終わった後も彼女の物語が続くとすれば銀座でウィンドウショッピングをするようになるかもしれないし月島を超えて門前仲町のコーヒー屋に通うようになるかもしれないしあるいはお台場周辺でパリピな感じになるかもしれない。新木場にはとくに何もマジで何もないが一応夢の島公園とSTUDIO COASTはあるから…でも本当に牛丼屋ぐらいしか飯屋とかないのでライブ終わりにとりあえず腰を落ち着けて感想などを言い合う場所がないのはあれなんとかなんないんですか! ここは個人的な願望を述べる場じゃないだろすいません。

まぁだからですねそういう物語上の意図はわかるけれども、おそらくそのためにあえて広がりを感じさせない閉塞感のある画作りをしているのだろうけれども、でも私的な物語のためだけに風景を使うなよなーとか思うんですよ俺は。だって人間より風景の方が面白いじゃないですか。ましてや人間ドラマと風景だったら風景の方が面白いに決まってますよ。決まってないけれどもこのブログでは俺が法律だから断言しますけれども。

それがとにかく嫌だったなぁ。渋谷の撮り方もつまんないしね。あの偽善的な工事フェンスに覆われていた時期のミヤシタパークの前で撮ってみたりさ、たぶんまだオープン前の新生パルコの前で撮ってみたりさ、まぁ要するに主人公男女の心情に呼応する形で街の発展途上の風景を見せたかったんでしょうけれども…それもなんか腹立つよな。どうだっていいんだそんなもん。これは『ホットギミック』でも思いましたけれどもなんでお前らの撮る渋谷はそんなに薄っぺらくてつまらないんだ。路地に入れ路地に。わけわかんねぇワクワク風景いっぱいあるんだよ渋谷は路地一本入れば。謎ジジィも謎ババァもおるんだ。

ていう感じでなんかいかにも嫌味な都会のシネフィル映画って感じでしたね俺には。あぁ、こんなに書いてまだほとんど映画の内容に触れてない! 内容ねぇ、うーん内容内容。そうだなぁ、まぁ、面白い人には面白いんじゃないすか? いや別に悪い映画だとは思わないすよ嫌味だってだけで。嫌味っていうのと、あとなんだろうな、内輪ウケきついわーっていうのを除けば。だって主人公ガールがオザケンをレコードで聴く人でそれで友達と盛り上がるんですよ。俺やだよオザケンをわざわざレコードで聴く(っていうかそんなのあるの?)サブカル女子高生とか。ヴィレヴァンでも行ってりゃいいじゃんって思う。知らないけどお台場のダイバーシティ行けばたぶんあるだろヴィレヴァン。

あとなに、えーとね、ロマンポルノみたいな話なんですよ。悪く言ってるんじゃないの本当にそうなのこれは。濡れ場のないロマンポルノなんです。何をしたいかはよくわからないけれどもとりあえず枠から抜け出てみたい衝動に駆られた童貞処女の高校生男女が織りなす性と実存の云々みたいな。それもきっついなー俺にはー。その昭和末期&平成初期型ティーン感、2020年の今やる? そりゃ別にやるのはいいよ自由ですからねそんなのは。でもきっついでしょー。

人間がその人生の中で解決すべき最重要課題をセックスに置く物語というのが俺は基本的にどれも苦手なんですが、これはまた独特なきつさがあるというか、なんか、映画評論界隈で話題を呼んだりしてる若手の女性監督がやってるっつーのがさ、そんなのおっさんの価値観じゃんていうか。結構実験的な表現もあるんですけどそれがたとえば寺山修司風だったりさ、小沼勝風だったりさ、あるいは神代辰巳風だったりして…だから要はおっさんなのよ。それも昭和おっさん。俺は小沼勝も神代辰巳も好きですけど今の若い人が同じようなことをやってたらそれはちょっと…ってなるよ。

なんか納得はしたけどね。だって日本の映画評論とか臭いおっさんばっかやってるわけじゃないですか。そしたらおっさんがおっさん受けする映画撮ってくる若い女性監督を持て囃すのは当たり前なんですよ。これは作家の問題じゃなくて構造的な問題だよね。だって評論家もおっさんばかりですけど映画学校で講師をやってるのもおっさんばっかなんだもん。そりゃそこで学んでそこで評価される作家は自然とおっさん的価値観を内面化します。そこが問題。作り手の問題じゃないし映画の問題でもないんです。でもその問題に邦画ギョーカイはどれだけ気付けているのだろう。単に女性監督増やしゃいいって話じゃないと思うんすけどね俺は。増えるに越したことはないけどさ。

あぁ脱線また脱線。今日はもうやめだ! 中止中止! これ以上書いても悪口と文句しか出てこないから感想を中止しろ! あのでも最後に一応よかったところも書いておきますが高校の場面に出てくるモブ女子生徒たちのある種ミュージカル的な動きとか、それを格子状の建物構造を利用して複数画面を一画面に落とし込んでしまう画面構成の妙とか、そういうところはよかったです。

だからなんか、あれじゃない? 変に深刻な話ぶらないでよかったんじゃないの? 学校でずっと踊ってりゃ面白かったのに。岡崎京子の原作があるのでそんな改変はできないだろうが…っていうか岡崎京子原作を気鋭の女性監督に撮らせるっていう企画屋のいかにも安易な発想が俺はもう嫌なんだよ! 監督本人も思い入れがある原作なのかもしれないですけど!

あといつもエロい成海璃子は今回もエロすぎるのであるがあのコケティッシュな人工的エロがこの映画ではとくに強調されていて興奮するどころかむしろ引いたというのが正直なところである。弟(男主人公)とのやたらと近い距離が近親相姦ムードを醸したりもしてね。そこらへんもロマンポルノなんだよなぁ。

別にロマンポルノを否定するわけじゃないですけどロマンポルノっぽい演出を今の映画でオマージュ的に(いやオマージュなのか知らないけどさ。違うかもしれないけどさ…)やるっていうことの意義は俺にはあんまわかんないすね。ロマンポルノっぽいだけ濡れ場はないわけだし。そういうのが映画っぽい演出なんすかね? 別にいらないんじゃないかなぁ、映画に映画っぽさとか。

【ママー!これ買ってー!】


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同じような(?)豊洲-渋谷映画といってもこっちは力業で押し切った感があるので嫌いな映画ではあるがすごいなぁとは思った。

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