《推定睡眠時間:0分》
濃厚接触確実な今まで通りの現場じゃ映画作れないしあとそもそもロックダウン中(日本は罰則なしの準ロックダウンだが)だしっていうんでコロナ禍の2020年には日本でも『カメラを止めるな!』の監督がキャストスタッフ全員在宅で撮った『カメラを止めるな!』のスピンオフ的リモート短編を皮切りに高橋洋が『彼方より』、岩井俊二が『8日で死んだ怪獣の12日の物語』、そして俺は観てませんが発想としては『ズーム』と極めてよく似ているであろう『真・鮫島事件』などなど…商業/非商業問わずあまたのリモート映画なるものが制作されたわけですが、そのイギリス版かつちゃんと面白い版がこれです。
でも面白いっつっても「リモート映画」の時点でもう限界見えとるからね。高橋洋の『彼方より』にはリモート映画なんて映画の死を早めるだけだなんて厭世的な台詞も出てきましたが、そもそもこういうPC画面とかスマホ画面のみで作られた映画と言ったらコロナ禍以前に『search サーチ』とか『アンフレンデッド:ダークウェブ』とかっていうのが公開されているわけで、この手の映画を両方に製作で入ったティムール・ベクマンベトフは「スクリーン・ライフ映画」と呼んでいるが、必要に迫られてそうせざるを得なかった映画よりも、不要時にあえてそう作られた映画の方が、(予算も時間もかけられるのだから)同じスタイルの映画といっても面白いに決まっている。
スクリーン・ライフ映画で可能なアイディアは既に『search サーチ』と『アンフレンデッド:ダークウェブ』で出尽くした…とまで言うには時期尚早だろうが、でもまぁ常識的に考えてもうそんな面白くなる可能性ないでしょ、ぶっちゃけ。だからそんなスクリーン・ライフ映画なのに(日本で作られた様々なスクリーン・ライフ系リモート映画と違って)『ズーム』はちゃんと面白かったのでよくできてるなぁと思いましたけれども、新味とかは別にないし恐怖シーンもたまに映り込む悪霊的な何かの他はポルターガイストをPOVで撮るっていうのがほとんどで…そのポルターガイストをPOVで撮るっていうのも2012年のPOVオムニバス・ホラー『V/H/S シンドローム』で家全体揺らしてかなり激しくやってたしねぇ。
まぁそれも逆に、そこまで見慣れた(あるいは見飽きた)ものしか出てこないのに面白いし怖いんだからすごいっていう風にも言えるんですけど。
そこらへんは作り手も重々承知の上で作ってるっぽいんで上映時間は68分と短い。しかもこの中にはプチメイキング? が含まれていて、このプチメイキング的なシーンが10分ぐらいと案外長い。本編の方は実質60分切ってるんじゃないだろうか。なんか否定から入ってるみたいな感想になってますけど俺そういうところでかなりこの映画に好感持ちましたよ。できないことを無理にやり通すんじゃなくてできることを可能な限り面白く撮るっていう感じで、その限界の設定がプロだなーって思って。
どんなに大したことのないお話でも60分ぐらいならまぁなんとなく集中して観てられるじゃないですか。しかもオンライン降霊会のお話でしょ。5人ぐらい参加者がいて各人異なるパターンの怪奇現象に襲われるわけだからそれ観てたら映画終わるよね。これは暇つぶしとして完成度高いですよ。かつ、ここは結構大事なところだったと思うのですが、俳優の演技とかキャラクターもどうせ客はオバケしか見ないからとおざなりになっていなくてだいぶ良かった。
その秘密はエンドロール(このエンドロールもスクリーン・ライフ仕様で、惨劇の後に何者かがZoomの連絡先を開いてスクロールしていくのだが、その連絡先がスタッフ・キャストになっているという拘りよう)後のメイキング的な映像で判明し、なんでもこのスタッフ・キャストは映画を作るに当たって実際にみんなで集まってオンライン降霊会を開いてみたらしいということでその映像が流れるのだが、その時のキャストのキャラと本編でのキャラが台詞も含めてだいたい同じ。
まフェイク・ドキュメンタリー的な演出の可能性もありますが、仮にこれをホンモノのメイキング(的な)映像とするなら、恐怖シーンとか喧嘩のシーンなんかを除けば脚本家はこれを基にアテ書きでシナリオを組んでいって、俳優はみんな素のままのキャラで素のZoom飲み会の空気で演技してることになるわけじゃないですか。
そういうキャラ作りの薄さが芝居にリアリティを与えていてそれが心霊ドキュメンタリー的な迫真性を生んでいて…っていうの、災い転じて福と成すを地で行ってたよな。さすがに自分の家でという人は少数でしょうがリモート映画だから基本的にはどっかの家の中に最少限度のスタッフと俳優だけ入れて俳優本人はずっとカメラに向かって演技してるわけじゃないですか。そしたら俳優も素の自分を出しやすいですよね。制約を逆手に取った見事な演出。
最後のリアルオンライン降霊会の映像も別に何も起こりはしないんだけれどもガチめの心霊ドキュメンタリーの空気を醸し出していてなかなか怖かったし、怖いといえば悪霊の見せ方がこの映画怖くてウェブカムが一瞬だけ角度を変えた時に宙に浮いた青白い素足がスゥ…って画面に映り込むの、あそこヤバさあったなー。
PCのウェブカムに貼った覗き防止用のシールを剥がすオープニングとか、頼んでもいないのにいちいち恋愛アドバイスをしてきそうなうざったいオモシロメガネ女の実物とのギャップが激しすぎるアイコン写真とか、細部が語られないだけに色々と想像して怖がれる悪霊とか、悪霊から逃げるために家を飛び出す時も律儀にマスクを着用する場面のユーモアには笑ったし…単に恐怖描写を見て終わりみたいなインスタントなホラーにはなってなくて結構細かいところまで作り込まれてて、なんか、結局、しょせんリモート映画だろみたいなこと書きましたけど、すいませんやっぱおもしろい映画でした。
【ママー!これ買ってー!】
90年代Jホラーの雛形的な一本。これも本編終わった後に水野晴郎のハリウッド怪談語りみたいなのが入っててそれがイイんだよな。