ハートマン軍曹実は善人説映画『キル・チーム』感想文

《推定睡眠時間:0分》

去年のマイ読書トレンドはオウム真理教であったので安易といえば安易ではあるのだが砂漠の閉鎖環境で次々と巻き起こる陰惨な事件に「これってオウム真理教じゃ~ん」とか思ってしまった。なにもオウムだけではないのだが実際オウムとの共通項はそれなりにあって、上官が理由も告げずに隊員同士を競わせて半ばお互いに監視させて、で微妙な脅しなんかかけたりしつつ一人ずつ徐々に犯罪に加担させていく、そうして一人一人の自我を組織と同化させて犯罪行為に対する善悪の感覚を麻痺させていく…なんていうのは地下鉄サリン実行犯の林郁夫が回顧録『オウムと私』に綴っていた麻原のマインドコントロール術とよく似ている。洋の東西を問わず人心掌握にこういう手法は有効ってことですね。真似するなよ!

でね、『キル・チーム』っていうタイトルじゃないですか。戦争映画じゃないですか。戦争ってもイスラム過激派ぶっ潰すためにアフガニスタンの辺境に派兵された10人ぐらいの部隊の話ですけど。まぁでも、そしたらガンガンの凄惨な戦争アクションとかなんとなく期待しちゃいますよね。もうバンバン人なんか死んじゃって肉片飛んじゃって。

それね、3割ぐらい正解。バンバン人は死ぬし凄惨に死ぬ。でもアクションとかは全然なかったね。だって相手民間人だもの。民間人だし殺しやすいように子供だったりするもの。それは盛り上がらないわ~むしろ盛り下がるわ~たしかに『キル・チーム』には違いないけれどもさ~。

ま、でもそういう映画として面白かったですよ。一種の密室劇なんですよね。密室の中で人がどう狂っていくかっていう実験ドキュメントのようなもので…最後、何人も丸腰の民間人ぶっ殺してたくせに「俺は人殺しじゃないよな?」って怯えた子供のような目で主人公に訴えかける兵士、切なかったね。兵士っつっても学費払えないマイルドヤンキーっぽい若者だから出来上がってないのよ兵士として。

で、その出来上がってないところで異文化に対する恐怖心と憎悪を上官に植え付けられてさ、罪のない民間人殺しは他の人間を救うための善行なんだって教わって、他の考えを教えてくれる人は孤立した部隊だからいないし、そう思わなかったら他の連中に裏切り者扱いされてリンチされるかもしれないし、なによりそう思わなかったら民間人殺しの罪悪感から逃げられない。このへんオウム犯罪者とよく似た心理って感じですね。

悪いよね~上官。でも上官も上官で敵味方もわからんような戦争状況でおかしくなってるんですよ。おかしくなってるけどそれを相談できる人はいないし、まぁちょっとおかしいぐらいが異教徒ぶっ殺すにはちょうどいいだろみたいな冷酷な打算も配属する側にはたぶんあってさ…あるいはちょっと頭おかしいから辺境部隊に左遷されたのかもしれないですけどそれはそれで酷い話で…世界の最先端の米軍ですからゆーても今はこういうのある程度は改善されてると思うんですけど、でもまぁなんか、結構、軍隊の本質的なところだよなーって思うよね。

淡々とした地味な映画ですけど緊張感溢れる密室ドラマって感じで良い映画でしたよ。まぁそれにしても、こんなの見ちゃうと『フルメタル・ジャケット』のハートマン軍曹が超善人に見えちゃうね。ハートマン軍曹はゆーても訓練生の憎悪を一応自分に向けましたけど、アレキサンダー・スカルスガルドが演じるこっちの軍曹は決して自分には隊員の憎悪を向けようとしない。それこそ麻原的なズルさでもって隊員たちに自分から民間人殺しをするよう仕向けるし、その責任は隊員たちに負わせてしまうんだよ。実話がベースだそうですがムゴイ話。この軍曹はリアルでは無期懲役になったらしい。

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酷いことをするなぁと前半の訓練風景を観ると思うわけですが訓練でちゃんと酷いことをしておかないと前線でもっと酷いことになるというウンコ味のカレーかカレー味のウンコかみたいな選択肢しかない地獄。まぁ現実には通信技術の向上によるサイバネティクスの深化とか監視・記録システムの強化とかメンタルケアの拡充とかでそんな地獄の二択にはなっていないのだろうが。

↓その他のヤツ


オウムと私

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