《推定睡眠時間:15分》
15年前、地球に出現した宇宙船は、青い光を放出し大量の人間を吸い上げていった。彼らエイリアン〈ハーベスター=収穫者〉の目的は、人類を資源に使うこと。捕らわれた人々は、脳を人造人間〈パイロット〉に移植され奴隷として使われた。母親が妊娠中に捕えられ、青い光の影響で特殊なDNAを持って生まれたローズは、父親代わりのマークらと抵抗軍を結成。10年後、リーダーに成長した彼女は、青い光のパワーの源コアドライブを積んだアルマダ艦を打ち破り〈ハーベスター〉は地球から姿を消した。
日本版公式サイトのあらすじが良すぎるだろ。でも宣伝担当者の創作じゃないからねこれは。映画の内容にきわめて忠実なとても丁寧に書かれたあらすじですから。抜粋とはいえ丁寧に書いてこれっていうね。素晴らしいな。元気になる。小学生でも熱意さえあれば映画監督になれるんだって感じで。小学生じゃないけど! 大人のおじさんだけど! でも脳は絶対小学生でしょこれ! 宇宙人に脳みそ改造されたのかな。
いやもうね、前作もすごい映画でしたけれども今回もまたすごい映画でなんと言ったらいいか真剣に悩みますよ。びっくりしたよー開始5分のダイジェスト展開で前作から15年経ってその間に対エイリアン戦争が勃発して終結して地球ポストアポカリプス化したもんね。このシリーズそういうことやっていいみたいです。アメリカ上空にいた宇宙船がカンボジアに墜落してたまたまそこに居ただけのイコ・ウワイスとヤヤン・ルヒアンのインドネシアの格闘超人二人がエイリアンを引きちぎりまくる前作も想定外の展開に驚きましたけれども今度は想定外が開始5分でもう来るので『マッドマックス2』オマージュを感じないこともないがちょっとやることが早すぎないか。
それでそのポストアポカリプス化した地球にまたエイリアン攻めてくるんかなと思ったらエイリアンによって脳と肉体を改造された元地球人たちがこれまでは血清の力で人間の心を取り戻していたものの徐々にまたエイリアンの心に戻る病気が流行っていてエイリアンと人間のハーフとして人類再生の鍵を握る主人公は軍部の命令でワープのできる宇宙船を使って何億光年かとか離れた星に保管されてる病気退治の切り札的なエイリアン装置を取りに行くがその間にもエイリアン回帰病は着実にまん延し元地球人たちが暴れ回りついには数千数万数十万単位の元地球人が合戦みたいな感じで平原をウワーってやってくるっていうあの自由だね!? すごいなんか、自由にのびのび好きなようにやってるね!?
ちょっと反省しましたよ。「映画ってだいたいこんなのでしょ」的な既成概念に囚われていたことを。そうだよね、どうせ映画だもの。宇宙行きたかったら宇宙行けばいいじゃない。モビルスーツ出したかったらモビルスーツ出せばいいじゃない。ポストアポカリプスも疫病パニックもやりたかったら一緒にやっちゃえばいいじゃない。前作で死んだと思われたヤヤン・ルヒアンもエイリアン腕を移植されて生き延びていたし今回も一言も台詞を発さず突然現われてエイリアン心に染まった改造人間を千切っては投げ千切っては投げていましたけれどもいいじゃないか、そのデタラメが自由できるのが映画じゃないか! …そのデタラメが自由にできるのが映画か? まぁでも、小学生の心で撮られたとしか思えないこの無邪気さに免じてそういうことにしておきたいですね!
デタラメなわりには面白くないのはこの映画の場合むしろ魅力である。ふざけて撮ってないですから。全編ガチもガチ、とにかく本気でこれカッコイイよな! とか思って撮ってるからテンポは鈍いし繋ぎはグチャグチャだし基本的にわけわかんないがその熱意に心を打たれる。書きながら映画を思い出してちょっと涙ぐんでしまった。アッガイみたいなエイリアン・モビルスーツで惑星から跳び立って宇宙遊泳、とくに意味はないがカッコいいから武器はレーザーブレード、エイリアンは従来のタイプに加えて着ぐるみタイプと陽炎みたいに揺らめく二足歩行獣タイプも追加されてテレビ特撮感がエクスプロージョンした。
エイリアン装置奪取のために同行したカンフーのできそうな中国系のクルーはエイリアンの星に着いても船内に残っていたのでとくにそういうのはしないのかなと思ったら終盤に入って突然船内で人間相手にカンフーバトルを始めたので思うに「どこかにカンフーバトルも入れなければ」という作り手の強い意志があったのだろうがいやそこでなんだ、エイリアンをカンフーで倒すとかじゃなくて。この劇的なアンバランスも小学生魂が本気であることの証左だろう。泣ける。
宇宙の彼方で主人公一行がなんかゴチャゴチャやっている間に規模のえれぇ小さく見える疫病パニックに陥った地球ではヤヤン・ルヒアンに加えて医者役のはずのローナ・ミトラもタバコをくわえて二丁拳銃で頑張っていた。ローナ・ミトラ! この地球パートの舞台はロンドンということになっているのでロンドンに疫病がまん延しローナ・ミトラ演じる女版スネーク・プリスケンが血清を求めて疫病禍で封鎖された禁断の地スコットランドに潜入するオタク監督ニール・マーシャルの趣味が大★爆★発した夢の最強パッチワーク映画『ドゥームズデイ』が大きな影響を与えたことはほぼほぼ間違いないだろう。全体的なシナリオ構成とかキャラクター造形とか好きな映画の好きな要素を全部入れるところとか『スカイライン 逆襲』ぶっちゃけめちゃくちゃ『ドゥームズデイ』である。
好きなんだろうなぁ『ドゥームズデイ』。隠す気とか差別化を図る気とか一切ないのでその好きがダイレクトに伝わってくるのがイイですよね。作ってるのはええ歳したオッサンのはずなのに本当に心が綺麗。これがそんなにおもしろくはないということはオリジナリティっぽいものとかがあって物語にちゃんとした整合性とかがあってなんでそこなんだというタイミングで唐突なカンフーバトルを入れてきたりはしないし肝心のエイリアンの秘宝みたいなやつがダサいっていうか安いっていうかそれで最後まで押す通すつもりなのかよっていうデザインにはなっていない普通におもしろい映画を作る人はみんな心が汚れきっているに違いない!
でもそんなにおもしろくないっていうのはバカみたいな話なのに筋運びがすごい真面目でそのくせそれが壊滅的にヘタっていうのに由来するものなので監督のやりたいことが宇宙で地球で同時多発的に展開される終盤は色々と壊れているがちょうおもしろい。だってヤヤン・ルヒアン戦ったらおもしろいわけじゃないですか。ローナ・ミトラも二丁拳銃スタイルで一緒に戦ったらダブルでおもしろいわけじゃないですか、衣装がノースリーブで逞しい二の腕を画面に刻みつけてくれますし。それで宇宙のあっちの方ではビーム・ウィップがメインウェポンのエイリアン親玉と超身体能力を持っていて(スタントダブルの人がめっちゃ頑張る)左手がサイコガンみたいになってる主人公リンゼイ・モーガンが人間の心になったりエイリアンの心になったり落ち着かない(目が青くなるとエイリアンで赤くなると人間なので青くなったり赤くなったりする)元地球人の兄弟分と一緒に戦っているんだ! 勢いで思わず感嘆符を付けてしまう小学生夢想、否、小学生無双っぷりだ。
最終的な解決の仕方もあんた大人なのに本当にそれでいいと思っているのかと言いたくなるが思っていると言われたら返す言葉がないのでこの監督、この映画は強い。強すぎる。敵わない。これはもうつまらないとしたら映画じゃなくて我々ちゃんとした大人の方がつまらないということなのではないだろうか。唯一欠点があるとしたら前作には巨大ロボットバトルがあったのに今作では戦闘性能低めのモビルスーツが一機しか出てこなくてロボットバトルもないっていうところかな。次はモビルスーツもっといっぱい出してスーパーロボット大戦だ!(なんか続きそうな終わり方をした)
【ママー!これ買ってー!】
今年は『新感染半島』も『ドゥームズデイ』の影響下にあるような気がしたので『ドゥームズデイ』再評価イヤーです。
↓小学生が監督した映画といえば