睡眠鑑賞映画『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』感想文

《推定睡眠時間：80分》

監督とマックス・リヒターの目論見通りぐっすり眠ったので気持ちよかったがどんな内容だったかは基本的にわからないという斬新な映画である。とにかくすべてが眠い。コンサートの映像と録音をバックに観客とかマックス・リヒターとか主催者とかのインタビューを入れていくという作りのようであるが音楽のリラックス効果もさることながらこのインタビューもなんかダラダラと日常会話のトーンで喋ってるし繰り返しとかが多いので眠い。会話の内容もよくわからないが断片的に聞く限りではなんかやさしい感じである。眠い。

感想が終わってしまった。どうしよう。『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』、寝る映画です。気持ちよく眠れます。みんな映画館で寝よう…ま映画の感想としてはそれぐらいしか言いようがないのだが映画館で眠るとはどういうことなのかとちょっと考えさせられてしまうところはないでもないです。俺は睡眠鑑賞者なので二回に一回ぐらいは映画館で寝てますがそれは単に眠くなったら睡魔に逆らわない方がいいよねっていう素直マインドの結果でもあるが偶然の睡眠によって完成された、つまりは言い換えるなら死んだ映画を観客の側から解体することで映画に個人的な生を与えようという意図もあってのことなのだ。

すべてのシーンを眠らずに観ればそれはいかに真面目に観ようが消費者として商品をただ受け取っているに過ぎない。そして映画はこうした一方通行のノック的キャッチボールが大の得意であるからして戦前戦中戦後に至ってもプロパガンダ装置として活用されたのである（むろん今でもそうである）。そのときに一つの疑問が生じる。はたしてわれわれは映画を観ていると言えるのかということである。

たとえば、恋人と食事をしていたAさんが「オウム真理教は松本サリン事件後の強制捜査に際して化学兵器を一斉に破棄したわけだけど、サリンの中間生成物だけは手が回らずに残ってしまってこれが地下鉄サリン事件で使われたサリンになったんだよね？ この件に関して中川智正は井上嘉浩が中間生成物を隠匿したと証言しているし一方の井上嘉浩は中川が隠したんだと真逆の証言をしているけれど、どちらが正しいのだろう？」と言ったとして、恋人のBさんが「オウム真理教は松本サリン事件後の強制捜査に際して化学兵器を一斉に破棄したわけだけど、サリンの中間生成物だけは手が回らずに残ってしまってこれが地下鉄サリン事件で使われたサリンになったんだよね？ この件に関して中川智正は井上嘉浩が中間生成物を隠匿したと証言しているし一方の井上嘉浩は中川が隠したんだと真逆の証言をしているけれど、どちらが正しいのだろう？」

と、オウム返しにしたら、Aさんはきっと（この人わたしの話をちゃんと聞いているのかな…それともサリン隠匿と再生成の経緯には興味がないのかな？）なんて思うのではないのだろうか。これでは会話と言えませんね。Aさんの話をちゃんと受け止めるならBさんは「確かに中川の言い分には説得力があるし井上証言は後年の変節もあっていささか信憑性に欠く。しかし逆に言えば中川証言はあまりにも理にかない過ぎてはいないだろうか。中川は自らも実務を担った化学兵器破棄の中心人物、中毒しながら自ら解毒して作業を続けたという過酷な状況をそこまで冷静に記憶できたか疑問が残る」と言うべきだったのです。

つまりそれが睡眠鑑賞の効果で…えっ！？ いや、つまりね、映画の内容を観客はそのまま受け取ってはいけないのです。映画に映し出されたものとは違うものを見、映画が語ったこととは違うことを言わないといけないのです。それが映画と観客のオウム返しではないキャッチボール。映画をより豊かに観るためのコミュニケーションです。なにも無理に眠る必要はないにしても、睡眠はそのための一つの手段と言えましょう。

逸れたねー。今日も元気に本題から逸れました。とはいえ豊かなコミュニケーションや快適ライフには睡眠＝減速・逸脱が必要だというのはこの映画の（おそらく）メッセージの核心を成すところでありましょう。寝ろよ生きよ。坂口安吾をもじろうと思ったけど全然モジれ感なかったね。もうダメです睡眠不足で頭がダメになってますからじゃあぼくは寝まーす。みんなも『SLEEP』でレッツ睡眠！ あぁこれさっき書いたね。

【ママー！これ買ってー！】

Newton別冊『睡眠の教科書』

世には睡眠本がごまんとあるがニュートンならば間違いなし。