田舎テネット映画『コントラ KONTORA』感想文

《推定睡眠時間:10分》

そういう教科書でもあるのかよっていうぐらいに日本の(だけではもしかしたらないのかもしれない)インディーズ映画の野心作的な売り方をされる映画の人物描写は画一的で事業に失敗した感じの金のないオッサンが基本的に何らかの犯罪行為に携わっていて鬱憤や鬱屈を心にため込んだ女子高生が基本的にあぜ道とかでうわーって叫んだり放火とかに手を染めてそれを晴らそうとする。自傷としての暴力行為/犯罪行為、もしくはモラルの逸脱というパターンが多い。

なんなんですかね。それ面白いんですかね。まぁ面白いと思っているからやっているに違いないし自主系コンペの審査員とかもこういうのは面白がるらしーですよよく知らないのですが。この映画もなんか賞っぽいの取ってるらしいですし。あぁあと身体を張ったロケ撮影っていうのも非常に多いですよね。だいたい長回しでカット割らない。俳優泥だらけになって叫んだりする。また叫びか。なんで君たちはそんなに叫ぶのが好きなんだ…。

好きな人にはたまらんのだろうが俺そんな感じだったなー。なんかさ、地方の田舎町にメンタルため込み系の一匹狼女子高生がおるんですよ。学校行く途中でチャリのチェーン外れてちくしょうって自転車ぶっ倒して土手下に蹴飛ばすような人。いねーよって思うけどまぁいるんですよ。チェーン外れたぐらい多少は指がグリスに塗れたりはするだろうがその場で直せるだろとか思いますけれどもいるんです。チャリ停める時にスタンド使わないで昔のアメリカ映画みたいに直に地面に倒したりしてていくらなんでもおらんだろと思うがいるんですこの映画の中には!

でこの人が慕ってるっぽい祖父が死んでしまいます。遺品として残したのはパイロットゴーグルと戦時中の日記帳とその他もろもろ。祖父は元ヒコーキ乗りなのでした。さて祖父が死んだ翌日かは知らないが死んですぐに町に謎の男が現れます。この男、逆走オンリー。とにかく後ろ向きに歩く。走るときも後ろ。車道を渡る時も後ろ。電柱を見つけると後ろ向きでぐるぐる回って通行人のおばさんに「危ないですよ」とか心配してもらったりする(俳優かもしれないがリアル地元の人だったのかもしれない)

鬱憤女子高生のお父さんはシングルファーザーです。娘には優しいし家事もちゃんと自分でやるしそんなに悪い親父ではないがシングルになってからどこか現実から目をそらすようになってしまってそれが娘こと女子高生は気に食わないらしい。その親父が逆走マンを轢いてしまいます。どーしよ! 逃げよ! 躊躇なく轢き逃げを提案する親父であったがそんな後ろ向きの姿勢に女子高生激怒。放っておけるわけねぇだろが! かくして逆走マンと女子高生とその親父の奇妙な共同生活が始まるのでした。

ちなみに逆走マンは言葉は話せないしこっちの話も聞いているんだかいないんだかよくわからないが祖父の日記には興味を示すし祖父が歌ってったっぽい昔っぽい歌っぽいものの断片的な何かを風呂とか入ると口ずさんだりする上に祖父が死んだ直後に町に出没しているので祖父の化身的な何かであろうということはわかるようになっている、らしい。

らしいというのはそれだと映画としてストレートすぎるので正体を微妙に伏せた感じにしてドラマを引っ張る意味がわからんくて祖父の逆行体と思わせておいてやっぱ違う何かなのかなと思ったらいやでも違くねーんだよそいつラストでなんか、いやネタバレになったらあれですから一応伏せますけどぶわぁってなるんだよ、ぶわぁって。ぶわぁなっちゃったって! って思ったよね、ぶわぁってなった時。じゃああの無駄な焦らしはなんだったんよって気もするんですが。

おそらく。この映画の言わんとすることは…まぁ人間二つの方向があるじゃないですか。前に進もうとする意志と後ろに戻ろうとする意志みたいな。どっちが正解とかないよね。状況によって後ろに戻ることが正しいこともあるし前に進んだ方が正しいこともあります。本当は後ろに戻りたいのに前に進まざるを得ないこともあれば前に進んではいるけれども心の中では後ろに戻りたいこともあります。

その順行心理と逆行心理の葛藤なるものが逆走マン・女子高生・親父の三人の衝突と共同生活に仮託されていたのでしょう。戦争というのは前進を命令されますがみんな心の中では平和なあの頃に逆走している状況のことです。戦後というのは戦争を生き延びた人がその傷を忘れるために前に進みながらも死んだ仲間たちの留まる過去に常に引き戻される状況です。女子高生は息苦しい地元から逃げるように自転車を漕ぎますがチェーンが外れたり逆走マンを発見したりしてそのたびに家に戻ってしまうので一向に目的地にたどり着けません。親父は過去に留まって未来に前進することを拒否しているので生活とか諸々が傾いていきます。あるいは亡霊というモチーフもまた逆行を表現するものでありましょう。

と、それが正解かはともかく頭の中で整理はできるが、整理できたからと言って映画がおもしろくなるわけではない。この手のインディーズ映画ではよく感じることだがある状況や関係性を作り出すための駒っていう風にキャラが見えてしまって俺はそれがつまんないんだよな。逆行マンはそのまんま駒キャラですけど主人公もなんかそんな感じしたもん。本当こういうキャラが尖りたい系のインディーズ映画には多いものだから…それはまぁこの映画の責任ではないのかもしれないけれど。

モノクロ映像もいや別にそんなの普通にカラーで撮ればいいじゃんとか思うし。逆行の映画だからモノクロってんなら安直もいいところじゃないの。登場人物の心情を反映してとか色々複合的な理由はあるんだろうけどさ。その作為が人間の営みや心理をいかにも嘘っぽく記号的なものにしてしまうってところもあるんじゃないのかね。身体を張った系のロケ映像もほらほら張ってますよーって言ってる気がして逆に物語から一歩引いて見てしまうしな。

そんな感じ。そんな映画。つまらなくはないと思うが俺は好きではなかったですねぇ。逆行マンとの共同生活はちょっと笑える感じでそこは面白かったけど。あと映像はキレイだったけど。女子高生と親父の演技もよかったけど…わりと良いとこ多いじゃねぇか。

【ママー!これ買ってー!】


レトロアーケード 魂斗羅

まぁでも俺が好きな方のコントラはこっちなのでそうなると今までの感想の信頼度もだいぶ落ちる感じがしますね…。

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