《推定睡眠時間:20分》
もう身も蓋もないんですが本の価値がそんなによくわかんないので酔狂な人もいるものだなぁとかそんな感じで知らない世界の映像観光を楽しみはしたわけですがよくあるナビゲーション映画だなぐらいな感じでこれ観たときずっと頭痛かったしそれ以上のものはとくなくなんかあの、まぁ、そんな感想。
ニューヨークの有名な古本フェアがあってこれは古本つっても稀覯本とか中心の骨董市に近いものなんですが、そこに出品したり買い付けに来てるブックセラーの人たちのお仕事とか美学を紹介していくという作り。いろんな人いますよね本業界。なにそのざっくりした書きっぷり。まぁでもいろんな人がいるっていう映画だからさ…それを眺めるのは楽しいですよね素直に。本業界にも当然ある男女格差とかの話が入ってくるのは今風。あといろんな本が出てきますよ有名本の初版とかでっけぇ装飾本とか。それもたのしい。いろんな個人書店も出てきてたのしい。
…いや、たのしいんですけどさ、こんな風に感想にも身が入らないのは白けるってことはないですけどそんなに書店文化とかを美化してもなぁみたいなところが俺の中にあってですね…そりゃ本は好きですけどなんていうか、稀覯本とかの世界になると本末転倒な気がしちゃって全然目が輝かない。本はそこに書かれた情報を読むためにあるメディウムなわけじゃないですが。身も蓋もないがって最初に書いたから書いちゃいますけど大事に大事に保管されて読まれない本とか、そこに書かれた情報以上の価値の付与された骨董品としての本とかどうでもよくないですか?
別に本の歴史的価値を否定したいわけじゃないですけど中世の写本とかならまだしもこの映画に出てくるような稀覯本とかは基本的に印刷技術を活用して製本された本なわけじゃないですか。モノによってごく少数しか刷られなかったとかそういう事情もあるとしても、原理的には複製可能なモノなんだからそれを芸術作品みたいに扱ってもさぁっていうか。なんか随分ねじれているような気がするんですよね。だけど映画を作ってる側にも出てくる本屋の人にもそんなねじれの意識は全然なくてストレートで。それがなんか表面的だなぁっていうか。いやそういう問題意識を出さないのがナビゲーション映画なんですけど。
なんか論点も浅いじゃん。ネット通販VS町の古書店みたいな構図が出てきたりして、でもまだまだ町の古書店も地域に根付いた形でやれます! っていうなんかそういう展開になるんですけど、それは町の大手チェーンじゃない古書店とかはあった方がおもしろいのであってくれたらいいなとは思いますけど、でも俺の個人的な経験でいえばネットのおかげで読めた本っていうのはリアル書店よりも多いですからね。そんなもん町の本屋とネットだったらアクセスできる情報量は比べものにならないですから。
量じゃねぇんだ質なんだみたいな話かもしれないですけど本ってぶっちゃけ量じゃないですかね。だって量こなさないと質なんかわかんないし。いやいいんですよいいんですよそういう考え方も素敵だねって思うんですけど、思うんですけど! なんかさ、結局さ、ネット時代にどういう形なら町の古書店が生き残れるかって考えるとさ、一つは完全に余興として本業とは別にやってるとかがあるだろうし、もう一つはセレクトショップ的になったりして本に付加価値を付けるっていうのもあるでしょうけど、どっちも要は本をアンティークとかファッション的に取り扱って書かれた情報とは別の面で勝負するってことじゃないですか。
あとコーヒーショップを併設するとか最近の流行っぽいですけどそうなると本じゃなくて空間を読む感じになっていよいよ本の情報から離れていくよな。それは別に映画の中には出てこなかったので映画とは完全に関係ない単なる愚痴ですけど(でもサイン本とかサインボールとかを扱うコレクターズショップを併設してるところは映画に出てきた)同じものを大量に行き渡らせて読ませるための印刷術を用いた現代本を使って同じでない体験をある種アトラクション的に提示するっていうのなにそれ? って思いますよ俺は。
なんで俺こんなに冷めた目でこの映画観てるんだろうって考えたらそういえばこの映画って本の装丁とかはたくさんカメラに映すしその市場価値であるとかブックセラーの人となりなんかは語られますけどその人たちが扱ってる本の具体的な内容を紹介する部分は無きに等しくて俺にしたら本は中身じゃんって思うんでそこでああ、これは俺の興味ある方の本の世界じゃないやって、たぶんそんな感じになったんです。
これは皮肉なことだと思うな。ある意味では体験を欠いたネット書店の本の方が読者は純粋に情報を読んでいるわけだから本に忠実と言えて、一方で体験を売り物にする町の本屋さんで本を得ようとする時に、俺もそうだなって思うんですけど客は純粋に情報を求めてるわけじゃなくてその空気に酔っていたりするので、むしろリアル書店の方が本に対して不誠実っていう面はあるんですよ。
ただね、エンディングでタフな女性ブックセラーが「デヴィッド・ボウイに本貸したらあいつ返さなかったんだよ!」って言ってるところはボウイそういうのルーズそうだからなぁって笑ってしまったし、また別の女性ブックセラーがジョイ・ディヴィジョンの「アンノウン・プレジャーズ」ジャケット絵の波立った部分が猫の顔になってるパロディTシャツを着ていてこれ可愛いから欲しいな~って思ったりして、そこは素直に面白かったです。本、全然関係ないところなんですけど。
【ママー!これ買ってー!】
ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(字幕版)[Amazonビデオ]
こういう本ドキュメンタリーならもう全然大好きですよ。こっちは本は何よりも情報なんだっていう視点があるので。読まれるためにあるんだっていう。図書館なので当然なんですけど。監督は米国ドキュメンタリー界の大賢人フレデリック・ワイズマン。