人間どうぶつ映画『MONOS 猿と呼ばれし者たち』感想文

《推定睡眠時間:15分》

観に行くまでタイトルを社会的な慣習とか掟を意味するノモスと勘違いしており正しくはスペイン語で猿の意らしいモノスであったが内容的にはノモスでもそう間違いではないような感じなのでもしかすると言葉遊びなのかもしれない。猿の掟。この猿と呼ばれる山岳ゲリラの少年兵たちはスモールサイズと見くびっていると筋肉がものすごかったゲリラ指揮官から兵士の掟を叩きこまれ現実離れしたお山の上で愉快に身代金目的で誘拐したアメリカンの人質と暮らしているのだったがどうも敵の攻撃を受けて下界に移動、ジャングルに拠点を移し指揮官から離れて暮らしているうちに兵隊の規律を失い猿の掟に飲まれていくのであった。

『蠅の王』とか『アギーレ 神の怒り』とか『ウォーカー』とか『地獄の黙示録』の山岳ゲリラMIXと言ってしまえば身も蓋もないがでもまぁそういう感じの映画。面白かったがかなり個性的な内容であるはずなのにこれといった読後感が残らなかったのが自分でも不思議。いや、面白かったんですよ本当に。でもこれに関して何か思うことがないっていうか、ここがこうでああでみたいに言いたくなることがないっていうか。寝てるからだろっていう説も有力ですけどでも寝てるのはいつものことだからね。いつもは寝ながら映画見ててもなんか言いたくなる。

あれかな、なんか、このあいだ同じ映画館でやってた『ジャッリカットゥ』っていう牛を追うインド映画(深刻な説明不足)もすごい変な映画なのかなぁと思って観に行ったら変は変だけどあくまで理路整然と丁寧に変をやってる結構堅実な作りの映画で、予告編の方がインパクトがデカかったから変な映画なのにわりとスルっと脳みそを通り抜けてしまって、面白かったんですけどそんなに強い印象が残らなかった。

『ノモス』も一つ一つのシーンがフォトアート的に撮られているからそのシーン自体はおおーって思っても、そこから逸脱することの決してないミニマルな作劇のおかげでこぢんまりとまとまってしまって最後までおおー、おおー、おおー、の連続でへぁ!? うむむ…? とかはならないんですよねっていうこの稚拙な表現は自分でも書きながらさすがに恥ずかしさがあるわけだが、まぁこれがこのブログのノモスだと強弁してそれは脇にどけておくとして、そういうミニマリズムに加えて『蠅の王』だろ『アギーレ 神の怒り』だろ『ウォーカー』だろ『地獄の黙示録』もしくは『闇の奥』だろっていう、とくに『蠅の王』は例の豚の頭が出てくるので明確に意識しているわけですが、先行作品のコラージュのようなところがあるので、なんかギャラリーでそういうビデオアート鑑賞してる気分になる。

一個のアート作品として洗練されていても、というよりも洗練されているからこそ視線が上滑りしてしまうっていうのがあるかもしれない。どうぶつとしての人間の行動観察映画として観ることもできるが出てくるのは人間の知らない側面ではなく知ってる側面ばかりなのでその点でも意外性はないし、意外性を捉えようとした映画でも別にないだろう。カオスでもコスモスでもなくこの映画はあくまでノモスの映画なんである。

【ママー!これ買ってー!】


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円環構造(なのか?)も含めて似ていないこともないアート系ジャングル映画。

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