《推定睡眠時間:0分》
※以下の感想はネタバレらしいネタバレは入れてませんがコメント欄は比較的ネタバレフリーになってますんでまだ映画を観てない人はご注意ください。
どういうわけか雪国では罪が罪を呼び不幸が不幸を招く群像連鎖殺人事件が起こりやすく『ファーゴ』は言わずもがな『松ヶ根乱射事件』、『ビッグホワイト』、堀井雄二初期の代表作の一本『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』もまたタイトル通りに無関係の事件が偶然絡み合った結果無駄な死体が何体も出来上がってしまうものだったしあとそうそう『湯殿山麓呪い村』とかいうのもあったよな、偶然がいくつも重なってみんな不幸になる系の…なんなの? 雪国にいったい何があるんだよ。その答えはどうぶつだけが知っている(原題)偶然連鎖殺人事件映画『悪なき殺人』です。
なんか雪深いフランスの寒村に精神病み気味の畜産農夫がいてこの人がなんか隠してるっぽい。でこの人と肉体関係を持ってる農場主の妻は夫もなにか揉め事に巻き込まれてるっぽい雰囲気を醸し出してるからあの二人なんかあったんじゃねぇかもしかして自分の不倫がバレたとかで…と不安になっていたら夫と農夫ともに失踪。いったい二人に何があったのだろう、何処へ行ってしまったのだろう。時は数日前に巻き戻る。ここから農夫と農場主と謎の死体とコートジボワールの呪術師などのほぼほぼ互いに面識のない連中が数奇な運命の蜘蛛の巣を編み上げていくのであった。
なんかこれネットの評判がめちゃくちゃ良い映画だったんでネットで評判が良い映画ということはそこまでは面白くないだろうと例によって斜に構えて観に行ったわけですが例によってやっぱりそこまでは面白くない映画だったのである意味ネットの評価は信用できるよなとおもいました。よくある、ということもないかもしれないが『ファーゴ』系の事件(事故?)連鎖もの群像劇としてはわりと普通。見所の一つはフランスとコートジボワールがどう繋がるのかっていうところですけどそれも案外想像力のない繋がり方をする。登場人物ごとに章立てされたパズル的な構成を取っ払ってしまえばそんなに面白いストーリーではなかったように思う。
がしかし! その普通レベルのオモシロを複数いる主人公の一人で農場主のドゥニ・メノーシェが何段階か引き上げた! ドゥニ・メノーシェ! 画面にこの人の愚鈍顔とずんぐり体躯が現れた瞬間(うわっ! なんだこれ! どっかで見た…どっかでやばい人だった!)と脳に微電撃走る、そうでしたこの人はフランス製DVホラーの秀作『ジュリアン』でDV夫を超説得力で演じていたクズ夫演技のうますぎるクマさんなのでした!
ドゥニ・メノーシェの章は最高だったよな。そんなにびっくりしないでいいだろっていうところでの迫真の驚愕っぷりとかそんなに真剣にならんでもいいだろっていうところでの力の入り方が尋常じゃなくて笑っちゃう。ここらへんのシナリオは「偶然」が物語のキーになっているとはいえ色々とそれちょっと無理がないかっていう感じなんですけどこの人ならあり得るかもなぁの説得力がメノーシェの肉厚なバカ夫芝居にはあって、この映画の半分ぐらいはメノーシュで成り立ってるなと思った。
メノーシュが加害者でもあり被害者でもあることはまた『悪なき殺人』が何についての映画かということを端的に表してもいる。もしこの映画に「悪」を求めるなら(人によって違いそうですが)俺は最後にちょっとだけ画面の後ろの方に映り込む人が「悪」っていうかすべての元凶だと思っていて、その人はどういう人かというと、一応ボカした言い方にしておくが搾取する人。金や性や命の搾取のヒエラルキーというのがこの奇怪な連鎖殺人事故事件の背景にはあって、事件には直接関わらないけどそのヒエラルキーの頂点に立ってるのが最後に出てくる人なわけです。で英語題『ONLY THE ANIMALS』、東京国際映画祭出品時の仮題『動物だけが知っている』の動物というのはその搾取ヒエラルキーの一番下に位置する存在で、おそらくはだから畜産農家が舞台になる(最初にコートジボワールのヤンキーが背負ってる動物はたぶん儀式の生け贄なのだ)
そう思えばなかなか切ない話ではありますわな。出てくる男どもは基本的にろくでもなくて女を金で買ったり金で縛りつけたりするやつばかり、しかしその男どもも別の男に搾取されていて、男どもに比べればここに出てくる女どもはまだ非搾取的で逆に何かを与えようとする贈与の関係を他者と築こうとするが、経済的な搾取がその関係にも影を落として、あるいは贈与行為が私はこんなに与えたんだからという心理的な負債に転化して相手を拘束する。
搾取される側もする側も搾取しない側も(その頂点を除いて)すべて例外なく各々の関係性に拘束されて、その関係が交錯した時に、あるいは別の関係を求めようとした時に悲劇が起こるというのは、こうした映画が閉鎖的で人間関係の限定された雪国を舞台としがちなことの理由でもあるのかもしれない。お話の全貌の見えない序盤は面白いものの真相が見えてくる中盤は間延びして終盤はちょっと尻すぼみに感じるが、でも物語の下地を成す登場人物の関係性に目を向ければ、なんだかんだかなり練られた面白いお話だったなぁという感じになるのでした。あと、ネットのアニメアイコンの言うことを信じてはいけないのは世界共通。
【ママー!これ買ってー!】
イレブン・ミニッツ(字幕版)[Amazonビデオ]
イレブン・ミニッツ(吹替版)[Amazonビデオ]
ポーランドの怪匠イエジー・スコリモフスキの群像連鎖事件もの。起こる出来事は大したことがないがラストが素晴らしい。
レズカップルの辺りから急に失速して、なりすまし詐欺のシーンも仕込みの辺りは段取り臭くて正直言って退屈だったんですが、黒人の兄ちゃんが相手が上手く引っ掛かってきた時に見せる無邪気で子供っぽい笑顔がよかったです。しかもそんなこの子の方が子持ちで、おっさんの方は子供なしと言う構図も皮肉でした。誰も彼も対象への思いは報われず宙に消えてゆく中で、最後にかろうじて結ばれる関係がチャット上のアレというのも実に切ない。それにしても見知らぬおっさんが夜中に知り合いの体でキャンピングカーに乗り込んできたら超怖いですよね(女性ならなおさら)。
チャットのところ良かったですよね。二人とも本当に嬉しそうにしてるし笑 あそこから本当の愛(?)がネット上に芽生える可能性ももしかしたらあったんだろうかとか思うとそれもまた切ないところです。
キャンピングカーのシーンは怖いんですけど一周してちょっとニヤけてしまいました。いや誰だよ!?って思って。この映画はそういう笑いと紙一重の怖さの見せ方が上手かったなぁと思います。犬のシーンなんかも間抜けなんだけど悲惨で…。
こんばんは。
今年最後の一本でした。貴レビューのタイトルのイミが分かりました。
「犬を殺したのね…」
この台詞にシビれました。そうなんだけど、そうじゃないんだよ…
パリのレストランの女のコ、『ヴェニスに死す』のタージオみたいに綺麗だったな!
こういうカタルシスとアイロニーは好みです。
どうぞ良いお年を!
犬といえばあの犬はかわいそうだった…あの殺犬は悪だと思います!悪ある殺犬!よいお年を!