《推定睡眠時間:0分》
観終わってちょっとガッカリしたことに自分で驚いてしまった。あ俺この映画にわりと期待してたんだみたいな。失って初めてそのことの大切さに気付くものってありますよね。たとえばなにかな。そうだなぁ、あれは中学入りたてぐらいの頃かなぁ。小学校で仲がよかったおてんば女子がいてな、その女子は俺に対して日常的に笑いながらバイオレンスを振るうのでちびっこの俺としてはいややめろってマジでやめろってと思いながらもちびっこであるから反撃などは一切できずにされるがままであったが、まぁ分別のない小学クソガキの暴力愛情表現といえば大袈裟かもしれないがその女子も俺が憎くてそうやっているのではない、俺のリアクションが面白いからついついバイオレンスを振るっちゃうんだねぇ…と今振り返れば理解できるが当時はそんなメンタル余裕なんかあるわけないので卒業前になるとその仕打ちについに泣き叫んだりなんかしておてんばバイオレンス女子を遠ざけるのであった。
しかし別々の中学に進んでもう縁は切れたかと思っていたところ、夏祭りの日にそのおてんばバイオレンス今や中学女子が一緒に祭りに行かないかと一人で俺の家に誘いに来たのであった。それを知った俺はどうしたか。逃げた。近所の本屋で時間をひたすら潰した。諦めて帰るのを待ったのだ。そして彼女はしばらくウチで俺の帰りを待った後、去った。それから彼女がウチに来ることはなくなった…どうしよう泣いてしまう。だって俺その女子好きだったもん! だったっていうかむしろ今でも好きだよね! いやむしろ今の方が好きでしょ! あの日! あの時! 俺が! 本屋に逃げさえしなければ! 俺の人生だって今とは違った形になっていたかもしれなあれごめんなさい何の話でしたっけ?
そうだね映画『ノイズ』の感想だったね。感想のはずだったのに何か変な方向に力入っちゃったね。まさしく、ノイズ…! 全然笑えない。まだちょっと泣いてる。後にも先にも俺が女子と夏祭りに行くチャンスなんかあれ一度きりなので。いや先には分かんねぇだろまだ!? まぁでもぶっちゃけ今更夏祭りとか行ったところでな…もう祭りではしゃぐ歳でもないしだいたい夏祭りの想い出ってあれでしょう思春期のさ…大丈夫? 『ノイズ』の感想を読むつもりだった人ついてこれてます? あれだな、あのおてんばバイオレンス女子がここにいたらこうも俺の筆が暴走する前に腕ぎゅーって捻ってイィテテテテちょっとやめろってお前ふざけんなよ痛いっておい! …的な感じになってたね。なにこれ?
などとたわけた話をしているうちに1000字を超えましたのでいい加減に映画の話に入ろうと思いますがあのねこれ予告編は期待させる感じなんですよ確かに。というのも絵面が良い。一枚絵としてキマってるシーンが多い。性犯罪者がビニールハウスの中で女児サイズの自転車にまたがってるのをカメラがハウスの外からぼやっと見えるか見えないかぐらいの感じで映してるシーンとかえらい不穏でしょう。監督・廣木隆一と撮影・鍋島淳裕のタッグ作ですからそこはこだわりで、寄りの構図をあまり作らずに人物を遠くから平等に眺める構図を多用することで誰が本当に悪いのか分からない、どこに正義があるのかわからない、みんな何を考えているのかよくわからない…そういう不安感を見事に作り出していたと思う。
で、そこは良かったんですけど、同じ効果を脚本上でもおそらく狙った結果として、えーそこでそいつそんな行動する? みたいな嘘くささっていうか、観客をびっくりさせるために登場人物たちが無理に唐突な行動をしているように見えてしまって、それ逆に興ざめだったんだよな。だってプロローグからしてさぁ…ちょっとした殺しがあってこの殺しのシーン自体は怖い感じでよかったんですけど、まぁでもそこに至るまでの背景がなにも描かれないからそれ作為的じゃないって感じちゃうよね。
そりゃ殺しの動機なんて現実でも「いやそんなことで普通殺す?!」みたいのたくさんあると思いますけど見せ方があざといっていうかさ。だって人間心理はよくわからんっていうのは例の絵作りで自然と感じられるようになってるわけですから。その上に天丼でほら人間わからないでしょわからないでしょってやられるとなー。それに永瀬正敏演じる刑事の捜査シーンはありゃないでしょ、令状もなく勝手に人んち入り込むし(鍵も壊す!)全然家に帰らないでずっと島に滞在してるし物証もなにもなしに直感的偏見だけで住民達を犯罪者扱いして「お前らなんなんだ!」とか始末書どころじゃねぇって。お前こそなんなんだっつーの。
そういうわけで最初の方はどこに物語が転がっていくかわからずにグイーっと引き込まれて見てましたけど段々と白けてきて最後は誰が何をしようがどうなろうがどうでもよくなってしまった。ミステリーのトリックも安直だしそれを編集だけで成立させる(つまり「それ」が映っているショットを単に抜いてしまうという)に至ってはいささか稚拙ですよねぇ。っていうわけでガッカリだったわけです…が! でもさ、今こうやって感想書いてて思ったんですけど、今の俺だったらあの夏祭りの日の俺に「いや、行けよ!」って全力でツッコめますけど、当時の俺はやっぱそうじゃないんだよ。
余裕がない状況に追い込まれた時に自分でもなんでそんな愚かなことをしたのか後から考えればわからないような不可解な行動っていうのを人間はやるじゃないですか。だからこの映画の最後に出てくる事の真相っていうのも、あるいは最初に出てくる殺人っていうのも、あれはミステリーとかサスペンスを見せようとしてるんじゃなくて、咄嗟にわけわからん取り返しのつかない行動を取ってしまった人間の後悔みたいのを見せようとしてたんじゃないだろうか。って考えたらさ、ちょっと見直す。それでも捜査パートのリアリティのなさとかの欠点は残るけれども、藤原竜也、松山ケンイチ、黒木華などなどの見事な田舎の人演技もあって結構良い映画に思えてくる。っていうか良い映画だった。前言撤回。
最後にここ良い場面だなーと思ったところ。藤原竜也が島興しのために立ち上げた(全然書いてなかったが離島の話です)イチジク農家がめざましテレビ的な番組に取り上げられたってんで島の人たちが公民館みたいなところに集まってわいわい言いながら見るんですけど、そこで「俺は観光客を呼ぶのは反対だぞ!」ってお怒りの様子で立ち上がったアウトサイダーな島おっさんを隣にいた穏健おっさんがまぁまぁとなだめてですね、それでそのあとにとりあえず的な感じで万歳かなんか町長の号令でやるんですけど、アウトサイダーおっさんそれは一応他の住民と一緒に万歳するんですよね、あんなわかりやすく観光振興に反対してたのに。その感じがなんかよかったんだよな。人間社会だな~って感じで。本当は万歳したくなくてもみんなで万歳するってなったら半ば無意識的に一応やっちゃうところに悲哀もあれば滑稽もあって、なんでもないシーンっていうか本当にちょっとした演技なんですけど響いてしまった。
人間ね、頭で思ってることをいつも手がやってくれるとは限らないんだよ。俺もそうだったけど俺をオモチャにし続けたおてんばバイオレンス女子もそうだったんじゃないかなって思うよ。これは墓場まで引きずっていくから。この俺エピソードは。
【ママー!これ買ってー!】
巷での廣木隆一評価なんてなぜ駄菓子に喩える必要があるのかという疑問は無視して駄菓子でいえばにんじんパフぐらいのランクだろうと思われるが俺は『伊藤くん A to E』を観て以来だいぶ廣木隆一を信頼している。どんどん焼きぐらいは信頼してる。