極私的・映画ドラえもんランキング!(旧映画ドラえもん編パート1)に続いていよいよベスト10の発表です。いや~これは難しかったな~。旧映画ドラえもんって時期によって方向性がだいぶ違いますからね。冒険や戦争を中核に据えた活劇映画としての初期、環境問題や神の問題に挑んだ哲学的な中期、そして実験的でエモーショナルな後期というわけで…こんなに方向性のバラバラな作品群を比較して順位をつけるなんて無理とくに初期と中期! なのでずいぶん思い切った順位付けをやってみた。また明日になれば変わっているかもしれませんが今のところはとりあえずこれっていうことでどうぞ!
10位『のび太と竜の騎士』(1987)
ネッシーの都市伝説、地球空洞説、UMAビデオ、恐竜絶滅の謎、恐竜生存の謎、そして0点のテストの行方…一つでも映画一個できそうな要素を三つも四つも詰め込みながら無駄なところがなく、すべての要素がF先生のSFマニアとして執念で結合させられた波瀾万丈奇想天外なシナリオは、おそらくSFストーリーとしての面白さならシリーズベスト。タイムマシンでの始原遡行から恐竜族との合戦を経て怒濤の勢いで回収されていく伏線の気持ちよさときたら! 活劇性と冒険感が多少乏しくオリジナルのテーマ曲もないところは残念も、シナリオの素晴らしさを損なうものではないだろう。
『映画ドラえもん のび太と竜の騎士』[DVD]
『映画ドラえもん のび太と竜の騎士』[Amazonビデオ]
9位『のび太のワンニャン時空伝』(2004)
旧映画ドラえもん最終作にして芝山ドラの最高傑作。F先生死後、芝山監督が模索してきた活劇とエモーションと可愛いゲストキャラの融合が最高度に達成されているばかりでなく、芝山ドラの弱点といえたシナリオやストーリーテリングの弱さも漫画版ドラえもんのSF傑作回のひとつ「のら犬イチの国」を原作に得てついに克服、ストーリーも感動的だが旧ドラを終えるに当たってここまで完成度の高いアニメ作品が作られたことに感動してしまう。クライマックスのド迫力のカーチェイスは芝山監督の真骨頂、これを超えるアクションは新ドラでも観た記憶がない。
『映画ドラえもん のび太のワンニャン時空伝』[DVD]
『映画ドラえもん のび太のワンニャン時空伝』[Amazonビデオ]
8位『のび太の海底鬼岩城』(1983)
旅行映画としてなら映画ドラえもんで一番かもしれない。海の底でのバーベキューに回遊する魚の見えるコテージでの就寝、沈没船探検に巨大イカとの遭遇と夢いっぱい。加えてこの映画を特徴付けるのはF先生らしい緊密なシナリオで、とにかく無駄な台詞や無駄な展開がひとつもなく何気ない一言や一見些末に見える描写で巧みに伏線を張っていく、そうして幽霊船と海底旅行とバミューダ・トライアングルとアトランティス文明があまりにもナチュラルに結びついていく展開は魔術的でさえある。ワクワクでドキドキでちょっと怖い、クセ強ゲストキャラのバギーちゃんも思い出に残る名編。
『映画ドラえもん のび太の海底鬼岩城』[DVD]
『映画ドラえもん のび太の海底鬼岩城』[Amazonビデオ]
7位『のび太の日本誕生』(1989)
映画ドラえもん10周年記念作品は映画ドラえもん一スケールの大きな家出が描かれる家さがし物語、自分らしくいられる居場所を探して原始日本にタイムトラベルするのび太たちと肥沃で安全な土地を求めて大陸から日本に渡ってきた縄文人を重ね合わせるプロットは巧みの一言で、のび太が異種混交で神話生物を作るシーンも日本民族の重層性・多数性の比喩と取ることができる。…などと小難しいことを言わなくても原始日本での家作りとユーモラスなひみつ道具の数々(大根にかぶりつくのび太!)はひたすら楽しく日本から大陸への『インディー・ジョーンズ』的大冒険はハラハラドキドキ、土偶をモチーフにした悪役ツチダマも一度見たら忘れられない存在感があるしのび太が夢に見る「ドラえもん裁判」には大笑いさせられる。ラストが少し尻すぼみな点だけは惜しいが、映画ドラえもん10周年記念作の名に恥じない堂々たる名作だ。
『映画ドラえもん のび太の日本誕生』[DVD]
『映画ドラえもん のび太の日本誕生』[Amazonビデオ]
6位『のび太の魔界大冒険』(1984)
まーなんといっても「おしまい」の文字が出て即座に取り消される嘘エンディングの笑撃ですよ。ああいうメタ的なふざけ演出は以降のシリーズ作で一度も出てきていない(メタ的な台詞なら何度かある)。メジューサもすごいですねすごいっていうか怖いよメジューサ夢に出る! あとあと石像の伏線回収の鮮やかさ! あーそれから科学文明がイヤでもしもボックスで魔法文明にしたら科学文明と大して変わらなかったっていう皮肉と風刺! そうだ、それにゲストキャラ美夜子さんの凜としたカッコよさね! 美夜子さんはずっと憧れの人だなぁ…という映画を面白くするアイディアがこれでもかと詰まった思い出に残る娯楽巨編です。
『映画ドラえもん のび太の魔界大冒険』[DVD]
『映画ドラえもん のび太の魔界大冒険』[Amazonビデオ]
5位『のび太の宇宙小戦争(リトル・スターウォーズ)』(1985)
『宇宙小戦争』といえば映画ドラえもん屈指の名曲「少年期」、この哀愁漂うフォークロックなくして『宇宙小戦争』は語れない。戦争ものの自主特撮映画を作っているうちにホンモノの(ただしミニチュアの)戦争に巻き込まれてしまうという映画ドラえもんらしいセンス・オブ・ワンダーも今回は明るさがなく全編を覆う「少年期」のインストアレンジのおかげで痛みと悲しみに覆われている。この暗さは先頃公開された新ドラリメイク版から失われたもので、少年期に戦争と敗戦を経験したF先生の戦争観が窺える。正面切っての戦いではなく知将ドラコルル長官との頭脳戦がメインになるのも出木杉くんやスネ夫にスポットライトが当たるのも他の映画ドラえもんにはあまり見られないこの作品の独自性。映画パロディ満載のオープニングや敵襲に怯えるスネ夫を黙って見つめるしずかちゃんの表情が忘れがたい。
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争』[DVD]
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争』[Amazonビデオ]
4位『のび太と鉄人兵団』(1986)
流行に敏感なF先生は自分では作らないものの『機動戦士ガンダム』がブームになるとガンプラを買ってきて仕事部屋に置いていたらしい。『ガンダム』に対するF先生からの回答といえる『鉄人兵団』は実寸大のガンプラ(的な)を作って無人の町で好きなだけ動かして遊ぶという導入部こそ夢いっぱいでユーモラスだが、そこから展開する物語はロボット軍団とのび太たちの人類存続をかけた戦いというシリーズ随一のハードさで、人間とロボットを分かつものはなにかというテーマも重くロボットものだけに重量級の作品となっている。全編に漲る緊張感は素晴らしく空気砲でしずかちゃんを助けるのび太など映画ドラえもんらしからぬカッコよすぎる決めショットも多数、ゲストキャラのリルルも強烈な印象を残して、しずかちゃんの「ときどき理屈に合わないことをするのが人間なのよ」はシリーズ屈指の名台詞!
『映画ドラえもん のび太と鉄人兵団』[DVD]
『映画ドラえもん のび太と鉄人兵団』[Amazonビデオ]
3位『のび太と雲の王国』(1992)
環境破壊を止めるために地上の浄化を目論む雲の上の天上連邦に対して「力には力を!」の核抑止理論に基づきドラえもんが核ミサイル(雲もどしガス)を持ち出すシリーズ随一の緊迫編。天上連邦と地上人類がどちらも自分たちこそが被害者なのだと主張し相手の主張に耳を傾けない中で全面核戦争に突入していく展開は今でも、というよりも目下のところ(2022年4月29日現在)解決の糸口が見えないウクライナ戦争と新冷戦の最中である今だからこそ鋭く迫ってくる。『アニマル惑星』と『創世日記』の間に位置する映画ドラえもん神様論編の一本でもあり、ここでは争いを調停する神の不在と自らを神に選ばれたと信じる人々の暴走が描かれて、その風刺性もまた少しも色褪せてはいない。どこに向かうのかわからない緊迫感のある展開の中で思いがけない伏線回収はいつも以上に映える。テレビシリーズに一話だけ登場したキャラクターたちの再登場にはファン感涙。
『映画ドラえもん のび太と雲の王国』[DVD]
『映画ドラえもん のび太と雲の王国』[Amazonビデオ]
2位『のび太の創世日記』(1995)
博覧強記のF先生が持てる知識を総動員して人類の過去・現在・未来をわずか100分で描ききったミニマルにして壮大な叙事詩。今回は冒険ではなくのび太が自由研究のために作ったもう一つの地球を観察する物語で、映画ドラえもんにあくまで活劇性を求める向きには少し退屈かもしれないが、F先生が映画ドラえもんを通して描いてきた哲学や世界観の集大成として個人的には超面白い。自由研究を善悪の知恵の実を食べること=世界を知ること=神の正体に近づくことへと持って行く論理展開には唸らされるが、この映画ではその更に先へ、神とは世界の創造を通して世界を知ろうとする者であり、したがって世界には終わりも始まりもなくただこの世界の形を知ろうとする意志と思考だけが先にあった、という驚きの着地点に辿り着く。ただ考え続けることでのみ人間は絶望的な現実から救われるだろう。領土と歴史を巡る破局的な戦争が回避できるとすればただ考え続けることによって。思考することの意義をこれほど高らかに、かつ精緻に謳い上げた映画というのも他にないのではないだろうか。エンドロールの自由研究ノートも気が利いていて最高。
『映画ドラえもん のび太の創世日記』[DVD]
『映画ドラえもん のび太の創世日記』[Amazonビデオ]
1位『のび太のドラビアンナイト』(1991)
俺が一番観てる映画ドラえもん。はっきり言ってここには『創世日記』のような哲学性も『鉄人兵団』のような活劇性も『竜の騎士』のようなシナリオの巧みさも、要するに映画ドラえもんを傑作たらしめている要素がほとんど見られないのだが、だからこそ『映画ドラえもん』という作品の本質的な面白さが浮き彫りになっているとも言える。しょうがないじゃない面白いんだから、ゲストキャラクターのミクジンとレギュラーメンバーの漫才的なやりとりとかさ、ひみつ道具とシンドバッドのコレクションの落語的な使われ方とかさ、絵本の世界をマッシュアップしてオバQまで放り込んだパロディとかさ、本当何度見ても大笑いしちゃうのよ。でバグダッドのバザールの活気とか茫漠たる砂漠風景とか壮麗な黄金宮を見るとうわー夢の世界を旅行してるなーたのしーってなるの。最高じゃん。白鳥英美子の歌う主題歌「夢のゆくえ」も美しくて涙が出るよ。絵本入り込み靴で何度も同じ4D絵本を見てドラえもんに呆れられるのび太みたいにこれからも何度も観たい映画ドラえもんだなこれは。そんなこと言ったら他の映画ドラえもんも全部そうなんだけど!
『映画ドラえもん のび太のドラビアンナイト』[DVD]
『映画ドラえもん のび太のドラビアンナイト』[Amazonビデオ]
楽しく読みました。2位と3位の作品が上位にきたのが意外でした!
全体を振り返ると、キャラクターやアイテムが巨大化するというギミックが便利に使われることが割合多いんだなという印象が生まれました。
ちょっと「創世日記」を観返してみたいと思います。
オチを見ると「宇宙小戦争」でスモールライトの効果が切れて大きくなり、「魔界大冒険」と「夢幻三剣士」で武器を巨大化し、という具合に映画ドラえもんは巨大化ネタをよく使うんですよね。たぶんF先生よ中にはフィクションのひとつの理想形として「ガリバー旅行記」がずっと頭の中にあったんだと思います。
2位と3位の作品は賛否両論なんですが、残念な印象を持っている人も大人になってから見返すとかなり印象が変わるんじゃないか思います。このへんはF先生も「銀河超特急」のあとがきで書いているように少し大人向けなんですよね。だからこそ今でも色褪せない輝きを持っているな〜と思います。