《推定ながら見時間:全9エピソード合計5分》
先端クオリティ3DCGアニメの『ラブデス』もシーズン3ということでついにプロデューサーのデヴィッド・フィンチャーも監督として参戦、サイバーパンクの立役者ブルース・スターリング原作のエピソードをもう一人のプロデューサー、ティム・ミラーが監督するなど盛り上がって参りました的な感じです。ちなみに全エピソード観終わってクレジット放置してたらシーズン2のエピソードの再生が始まったのでたぶんこれがラストシーズンだと思います。
『ロボット・トリオ 出口戦略』
シーズン1の『ロボット・トリオ』の続編。人類滅亡後の世界を仲良しロボット三人組が巡る風刺編で今回はアメリカの貧富の格差と分断がネタ。ブラックユーモア満載でまぁまぁ面白いがオチも含めてもうこういう風刺って今のアメリカ映画とかドラマで散々やられちゃって陳腐だよなぁ。三人のキャラクターとか会話の面白さで見せていた前作よりもその点が控えめなので、平凡な印象に。
『最悪な航海』
人食い巨大蟹と闘いながら決死の航海を続けていた船員たちがついに船倉に巨大蟹を閉じ込めることに成功した。だが放置しておくわけにもいかずくじ引きで選ばれた気弱な男がケリをつけるために船倉に放り込まれ…。フィンチャー監督エピソードは巨大蟹バトルものと見せかけて巨大蟹の存在が船員たちに相互不信と暴力を生み人間関係を崩壊させていくダーク人間ドラマ。思えばフィンチャー初監督作『エイリアン3』もそんな映画だったので本人的には話したくもない過去(※DVDのコメンタリーを拒否)なのかもしれないがあれやっぱフィンチャーのやりたいことが詰まった映画だったんだろう。
と、作品の背後にある監督の思想を読む楽しさはあるものの、クセモノ揃いのこのシリーズの中では飛び抜けたところがないというか、アニメならではの表現であったりSF的な興奮があまりないのも事実。水や風、曇天の表現は素晴らしくサスペンスフルなシナリオも面白いので完成度は高いが、相対的に地味な印象の一編だった。
『死者の声』
メビウスみたいな絵柄のトリップ・アニメ。木星の衛星イオを探査していた二人の宇宙飛行士が事故に遭い片や死亡、片や宇宙服破損に伴う酸素漏れという絶体絶命状況に。生き残った方の宇宙飛行士は生を繋ぐために死んだ方の宇宙服と酸素チューブを繋いでなんとか延命するが、死体付き宇宙服を引きずって歩いているうちに死んだはずの相棒の声が聞こえてきて…。こういうワンシチュエーション&一人芝居系のSF映画ってわりとあって、それを観るたびに短編でやればいいのにとか思ったりしてたんですが、いざ短編で観ると最後の決断に至るまでの主人公の心理描写がかなり不足しているように感じてしまうのでやっぱ90分の長編とかでやった方がいいのかもしれません。これもまぁまぁ面白かったですけどね。
『小さな黙示録』
カップルが墓場で不謹慎セックスをしてたらゾンビ発生世界崩壊。その一部始終をミニチュア・ストップモーションアニメ風の早送りダイジェストでお送りします人体ぐちゃあ血がドバァ! シーズン3のネタ枠エピソードだなこれは。シーズン1にもミニチュア風のアニメはあったがこれはもっと極端、風景をミニチュア風に撮る撮影技術とか加工アプリってありますけどその質感で血まみれゾンビ黙示録をやる。知らんがミニチュア・ストップモーションアニメ風のミニ動画ってわりとネットの世界でポピュラーみたいっすね。だからこれはそのパロディでもあるしゾンビ映画のパロディでもある。ミニミニ規模でゾンビと人間が千人ぐらい死ぬのが楽しいし人を舐め腐ったオチも良し。
『絶体絶命部隊』
アメコミ風の絵柄で綴られる米軍特殊部隊と謎の生体兵器のブルータルな血みどろバトル! 勝つのはどっちだ! どっちでもいいぜ! ストーリーなんかほとんどないのでこれは血みどろバトルと兵隊たちの汚いジョークを楽しむエピソード。景気が良くておもしろかった。
『巣』
地球外生命体との貿易を始めた人類は次なる一歩として高度に発達したアリ的社会を築く生命体に目を向ける。その「巣」に潜入した主人公が見たものは…。原作ブルース・スターリング×監督ティム・ミラーの、その名前だけ見ればシリーズ指折りの大物エピソードは、しかし意外にもあんまり冴えない。アニメ的な飛躍は少なくレジェンドクラスの原作短編をあくまでも忠実になぞることを目的にしたエピソードと見えるが、原作の発表された1980年代ならまだしも2020年代の現在ならここで描かれる「巣」の秘密はありふれたもので、そこにセンス・オブ・ワンダーを持たせられるか否かはおそらくストーリーテリングにかかっているのだと思うが、ティム・ミラーのそれは平板でSF的な面白味に欠ける。期待が大きかった分だけガッカリ感もちょっと大きめのエピソード。
『メイソンとネズミ』
逆にこちらは何一つ期待していなかったので思ったよりも面白く観られたエピソード。農場主のジジィは納屋のネズミが進化を遂げて弓矢で武装するようになったことを知る。ネズミアーミーを一掃すべく業者からハイテクネズミ皆殺し機器をレンタルしたジジィだったがネズミたちの抵抗は思いのほか強く…。いいなぁこれ、ユーモアとウィットと残酷に富んで。大人の寓話。演出もセンスある。最後ちょっと泣けましたね。シーズン3のマイお気に入り。
『地下に眠りしもの』
特殊部隊が洞窟に入ってみたら激ヤバそうな殺人蜘蛛が大襲来。とりあえず洞窟の奥へ奥へと逃げる部隊だったがそこで目にしたのは…。タイトルおよびネットフリックスの公式あらすじで察しがついてしまう人もいるだろうが、あえてどういうエピソードかは言わないでおく。面白かったかつまらなかったかで言えばそんなには面白くなかったっていうか、あぁそれ系ねとわかった瞬間がピークでそこからはとくに驚きもなく、オーソドックスとも言えるが捻りが足りないとも言える。フォトリアルな3DCG人体表現は暗いシーンが多いこともあってところどころ実写と区別がつかないレベル。そのリアルなCG表現と「驚異」のCG表現の対比にもう少しダイナミズムがほしかった。
『彼女の声』
湖畔を訪れた騎士団は舞い踊りながら悲鳴を上げて人々を狂わせる妖精のような女に壊滅させられた。ただ一人生き残ったのは耳の聞こえない男。彼に興味を抱いた叫び女は寝床に忍び寄り彼と交わろうとするが…。こちらもフォトリアル路線の映像で監督はシーズン1の目玉エピソード『証人』を手がけたアルベルト・ミエルゴ、『証人』が観る者を現実と非現実の狭間に突き落とすようなアニメーションであったのに対して『彼女の声』はその過剰性で眩暈を起こし現実から遊離させる。過剰な装飾、過剰な舞い、過剰な叫び、過剰な殺し、過剰な濁流。過剰な世界と騎士の男が見る静寂の世界の対比が凄まじい。
見事なアニメーションで評判も良いがなんかビヨークのミュージックビデオみたいとか思ってしまったところもあり、個人的にはそこまでの驚きは感じられなかった。この映像で『巣』をやってくれていたらすごい傑作になっていたのになぁ…。ちな謎の叫び女ですがこれは騎士が出てくることからスコットランドの民間伝承にある死の妖精バンシーをモチーフにしているかもしれません。バンシーのものすごい叫び声を聞くと近く死人が出るのだという。
【ママー!これ買ってー!】
スターリングの『スキズマトリックス』の方はジュンク堂渋谷店だかの限定とはいえ復刊したのでこちらも復刊希望。
『地下に眠りしもの』と『彼女の声』のリアル3DCGは凄まじいテクノロジーとアート。
このCG用のコンピュータも凄まじいスペックなんだろう。日本には輸入されて無いのかな。あと少しでCGによる完全実写風が可能になる。
3DCGアニメの大作は日本のファイナルファンタジーなんだけど、日本は進化出来なかった。
『攻殻機動隊 SAC_2045』シーズン2の3DCGアニメにはガッカリだ。この手のCGはピクサー・アニメーション・スタジオのトイ・ストーリーやモンスターズ・インク以下のCGだ。
フォトリアルCG+セルルックCGで製作された画期的なアップルシード アルファなら日本初オリジナルだけど。
『攻殻機動隊 SAC_2045』を『彼女の声』のリアル3DCGで製作されたら凄いのかキモいのか知りたいねw 制作費はどのくらいかな?100億円はかからないかな。
ハイパーリアルなタチコマは見てみたいかも笑