《推定睡眠時間:0分》
持ち前の頭脳で学生の身分にして原油流出事故の被害をあっさり解消してしまった主人公フレディ・ハイモアは当然大手石油会社などから引く手あまた、初任給数千万とかいう破格の条件を提示されたりするが「僕の出した企画どうっすか? ほら、砂漠に井戸を作って貧しい住民を救うっていう・・・」「ああ、あれね。あれは検討中で・・・」「そっすか、じゃいいっす」と片っ端から蹴ってしまう。あまりにも大物かつ主人公すぎるハイモアさんが食いついたのはどこの馬の骨とも知れん連中が送りつけてきた謎ショートメールであった。なになに、服についたソースを拭いてレストランの外に出ろ・・・? アッ! 本当だ! ソースが服についている!
普通そんなことがあったら「気持ち悪っ! ストーカー?」とかなるんじゃないかと思うがハイモアさんは主人公すぎる人なのでかなり怪しいメールの指示にホイホイ従い辿り着いたのは謎の大物海底ハンターの待つパブ。なんでも彼らは難破船の残骸からドレイクの秘宝を発見したのだったがせっかくのお宝がスペイン政府に没収されてしまい強奪を狙っているのだという。さすが海底ハンター、地上の法律なんか関係なしだ! まぁサルベージの取得物とかは結構法的に難しいところもあるみたいですけどね。
そんな無法者がなぜハイモアさんをかなり回りくどくスカウトしたかといえば没収されたお宝が保管されているのがスペイン銀行の地下金庫だから。この地下金庫、作られたのは百年ぐらい前らしいが今でも世界で最も安全な保管場所と言われるほどの難攻不落、これを落とすにはなんとしてでも学生の身分にして原油流出事故を解決してしまったハイモアさんの頭脳が欲しかったのだ。面白いじゃないか・・・さっきまで砂漠に井戸作りたいとか言ってたから聖人キャラなのかなと思ったらそんなこともなくあっさりと泥棒計画に乗ってアウトロー航路に踏み出すハイモアさん。果たしてハイモアさんと海底ハンターたちはちゃんと法律に則って奪われた秘宝を取り戻すことはできるのであろうか!
・・・という導入部から脳内検索エンジンが「もしかして?」を弾き出したのはトム・ホランドが天才泥棒を演じた『アンチャーテッド』であった。『アンチャーテッド』の主人公は自称ドレイクの子孫なので導入部の展開や元子役的俳優にちょい悪ヤングを演じさせる配役だけではなくドレイクネタまで被っておりたぶんこれはパクリという名のインスパイア。だが! しかし! お、面白かった・・・。趣味の問題だが俺にはぶっちゃけパクリ元の『アンチャーテッド』より面白かったぞ『ウェイ・ダウン』!
いいよねこういうB級ケイパーもの。だって整合性とかあんまり考えずにサービス精神満点だもの、銀行の地下金庫っていうけどその入り口のところとか『スターウォーズ』の帝国軍の基地か『インディー・ジョーンズ』の秘宝の隠された遺跡みたいになってたりするからね。それでその地下には百年前テクノロジーで作られた百年前を超えた大仕掛けがあるんだよ。いくらスペインの地下空間が歴史的にも地理的にも広大ったってそんなわけないじゃないですか! でもそうだった方が夢があって面白いからそういうことにしちゃうんだよね。その姿勢はすばらしいの一言。
でそういうオモシロ舞台を地下から地上からそしてお馴染み天才ハカーの座する遠隔地から同時進行で攻めるわけですが、B級であるからしてちゃんとした人間ドラマやめんどくさいラブロマンスなどはバッサリ切り捨て漫画的キャラたちの織りなす泥棒模様に焦点を絞っているのがたいへんよろしい。時代設定は2010年スペインW杯優勝の年ってことで泥棒計画と決勝戦をリンクさせるのも気が利いてるよね。決勝戦の時はみんなテレビ見てるから泥棒に入ってもバレないとかいう大胆すぎる泥棒作戦にスクリーンの向こうからイニエスタも意図せず協力!
監督は『REC』シリーズのジャウマ・バラゲロとあって一難去ってまた一難の大連鎖を息もつかせぬハイテンポの編集で見せる。これがもうハラハラドキドキ。子供じみた表現でわりと書いていて恥ずかしさがあるがでもハラハラドキドキはハラハラドキドキです。秘宝を狙う海底ハンターズの前に立ちはだかるのはサッカーに興味がなく何一つジョークの通じない超カタブツ警備主任っていうか秘宝警備のために派遣された軍の人? コイツの一存で軍も動くらしいってわけでいつバレるかな~ってこわかった~。海底ハンターズの知力が場面ごとにコロコロ変わるのに対してカタブツの知力は一定なのでそこらへんは(も!)わりと考えられているんだよ。敵の知力にブレがあると主人公側が危機を回避してもそんなのご都合主義じゃんってなっちゃうけどこれはそういうのあんまなかったもん。全体がご都合主義だからだとも言えるけどな!
誰だ! と思ったら鳩ぽっぽ、びっくりしていつも一人で食ってるお菓子を人にあげる天才ハカー、秘宝なんかよりも断然ワールドカップ決勝戦の方が大事な銀行の人々とカタブツの噛み合わなさ・・・などなど、泥棒作戦の合間合間を埋めるちょっとしたユーモアもまた楽し。ケイパーものを超えてアドベンチャーの域なアクションも全部どこかで(主に『インディー・ジョーンズ』で)見たことがあるやつだが迫力があるし、銀行VS海底ハンターの戦いにMI6も絡む存外でかいスケール感はあくまでもスケール「感」でしかないとしてもワクワクさせられるもの、最初の方でさんざん主人公の天才をアピールしておいて天才らしいことは結局ほとんどしないハッタリもこのさい味だ。いやぁ、おもしろいB級映画でしたよ!
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最近『インディー・ジョーンズ』テレビであんまりやらなくなっちゃったなぁ。