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原作は読んだことも読む気もない上に前作から3年くらい開いているはずなので場面場面ではわりに覚えてはいるもののストーリー的なものはほとんど忘れており、よって佐藤信介の新作アクション映画としてのみ観に行くという一周したスノッブ映画オタクみたいな見方をしてしまい、かなり不本意である。
しかし前作の超ざっくりおさらいは冒頭についているので俺みたいな不届き者にもやさしい映画であった。なんでも古代中国には5つぐらいの国があって主人公は秦という国の人でこの国は隣の魏という国と仲が悪いので主人公も戦争に行くことになったのだという…おそろしく解像度の低い俺の古代中国理解および『キングダム』理解だが、とはいえそれでまったく問題はなかった。なぜなら今作ドラマ的なものはアクションの間を埋める幕間劇のようなもので後はもうアクションアクションアクション、ひたすらアクションが続く映画だったからだ。
おそらくこの構成は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を参考にしたものじゃないだろうか。といっても俺は世間で言われるほど『怒りのデス・ロード』がアクションばかりの映画とは思わないですけど、まぁでも一般的なアクション映画に比べたらアクションの比率は多いし舞台が荒野だからアクションぐらいしかやることがないっていうのはあるわけじゃないですか。荒野といえばこれも古代中国の戦争の話だから最初の10分ぐらいを除けばほとんどずっと荒野で撮っててなんか画面黄色い。そのへんも『怒りのデス・ロード』っぽさを感じますよね。
というわけでアクション、もうアクションに尽きる映画なわけですが一応ストーリーを書いておけば、山﨑賢人演じる…ところで知ってました? 山﨑賢人の﨑って少し難しい方の﨑なんだよ! はいどうでもいい。山﨑賢人演じる主人公の信は魏が攻め入って来たっていうんで一兵卒として出陣します。道中いろんな兵隊と知り合って仲良くなったりする。これが濱津隆之とか清野菜名とか。それでこの人たちと小隊を組む。5人で一小隊なのでこれは伍と呼ばれるらしい。そうか伍長ってここから来た言葉だったんですねぇ。
で戦場に着くと聞いてはいたものの見てびっくり魏の軍隊超大軍! しかも戦いに有利な丘の上に陣を構えられてしまって平地から攻めなければいけない主人公たち超不利! うわこれもう絶対死ぬじゃんというところで渋川清彦演じる勇猛果敢だが思考力はあんまりなさそうな将軍みたいな人が冷酷な命令を下す。歩兵は全員、突撃! はたして主人公たちはこのインパール作戦in古代中国を生き抜くことができるのであろうか…。
なんかさ、こうやって書くと結構悲惨だよね。少年漫画原作のアクション史劇だから戦争は悲惨だなぁなんてことはやらないで戦闘のたのしさだけをゲーム的に追求して結局主人公たちも生き残るわけですけど、モブ兵士とかは画面の後ろのほうで超バンバン死んでくからね。でまた主人公サイドだって戦争だからガンガン敵兵殺していくわけじゃないですか。たぶん山﨑賢人ひとりで100人ぐらい殺してるんですけど、俺これ楽しく観ましたけどなんか可哀相だなぁって思っちゃったよ。キャスト全員現代日本人が演じているとはいえ古代中国に人権の概念とかないだろうから戦争に行く人も戦って死ねて幸せだーぐらい思ってるかもしれないすけど、まぁ今の目で観るとね。
日本史とか好きな人は何を言ってるのかわからんだろうが俺は戦国時代とかも単に野蛮な時代としか見れないつまらない人なのでなんかこういう戦争ヒロイズムには惹かれないんですよ。武勲を上げて成り上がるぜーみたいな。俺だって花の世話とかしてたいもんこの時代に生きてたら。王宮のなんか花の世話とかする係みたいのあるだろ一枠ぐらいは。戦争で武勲を上げるよりはそこを狙いたいですよね。いいですよ出世とか別に、平和に生きましょうよ。その平和が敵国の侵略で奪われてしまうんだーと言われたって俺みたいなヘナチョコ一匹戦場に増えたところでなんの戦力にもなりませんから。敵が侵略してきたら身の振り方はそのとき考えるからいいよ別に。そんな話はいいから映画の話をしろ!
まぁだから思ったのはね、佐藤信介って本当にドラマを撮るのが下手っていうか撮る意志がない監督で、持たざる者のルサンチマンみたいのは描けるし漫画的に誇張された面白いキャラクターも描けるんですけど、そのドラマっていうのは本当に定型的でつまらないしディテールも粗い。だから今回もう割り切ったんだと思うんですよね。ドラマは撮れないけどアクションなら撮れるから、だったらもう全編アクションアクションアクションだけにしちゃえばいいじゃんみたいな。前だったら「そんな映画ダメだよ!」ってお金を出す人も怒ったと思うんですけど『怒りのデス・ロード』が成功して前例が出来たからこういうのでも許されたんじゃないですかね。
そういうわけでドラマ部分は佐藤信介映画の中でもトップクラスに酷く、王宮で最初から最後まで突っ立ってるだけの橋本環奈とかマジで真面目に演出する気がなさすぎるだろとか思うんですけど、まぁでもカメラワークは平面的でちょっと工夫がないとはいえアクション監督は下村勇二ってことで殺陣自体は本格的、剣戟だけじゃなくて騎馬戦もあったりして迫力満点でたのしかった。あと前作では大した活躍をしなかった大沢たかおの王騎将軍が今回は一応ちゃんと物語に絡んできたのもよかった。よかったといえば清野菜名のアクション表現力はすばらしい。山﨑賢人くんのヤンチャ少年っぷりもキュートでした。
だから良く出来た映画とは言いがたいところはあるんですけど面白いは面白い映画で、だいたいこういうアクションバカの映画は仮につまらなくても悪くは言えない。前作とどっちが好きかと言われれば良く出来ているのは前作でも好きなのはこっちかもしれない。なんか、そういう映画でしたね。
※ちなみに言うまでもないでしょうが実写版『キングダム』はこれが完結編ではなくバリ続編あります。ストーリーの進み具合でいえば2時間超の上映時間を使ってコミック一巻分ぐらいの超低速進行だったのでこれあと何本作れば完結するんだよって不安になってます。
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めちゃくちゃすごいアクションをやっているはずなのにあんまりそうは見えずむしろ『マッドマックス2』の方がすごく見えるのは『怒りのデス・ロード』はアクションをアトラクション的に撮ってるからだと思ってる。『マッドマックス』と『マッドマックス2』はドキュメンタリー的に撮ってるんですよね。