《推定睡眠時間:15分》
えっそうなの? って思ったところがふたつあって、一つはこれ日本ではR18指定でその理由を映倫サイトから引くと「極めて刺激の強い性愛描写がみられ」ということだったんですけど、どんなエロ描写があるのかと思ったらたったワンシークエンス時間にして十秒程度、しかも音声なしで、カメラは引きで、接合部も映らずに全裸の男女がセックスしている…だけ。映倫の基準だと全裸でセックスするシーンがあるとR18の指定理由になる「極めて刺激の強い性愛描写」扱いになるみたいなんですけど、いやいやそこは! いやそれぐらいは融通効かせろやっていうか、せめてR15で良しとしろよそこは! というものなんで、もしR18だから相当キツイ描写があるのかな~と思って観るのをためらってる人がいたら全然もう全然観に行って大丈夫だと思います。俺劇場でずっこけました。むろん心の中で。
もうひとつのえっそうなのポイントはこれフェイク・ドキュメンタリーで、予告編はそんな風に編集されてなかったからそれは多少ズルいわ~って思ったね。俺フェイク・ドキュメンタリーそんなに好きじゃないんですよってついこの間の台湾ホラー『呪詛』の感想で書いたばかりですけどさ、劇場公開とNetflix配信の違いはあるとはいえ夏のホラー話題作が二本連続でフェイク・ドキュメンタリー形式だったらそりゃフェイク・ドキュメンタリーが嫌いじゃなくてもちょっと冷めるでしょ。いわんや元から好きじゃない俺においてをや。
っていうわけでなんか体温下がったよ。怖くて背筋が寒くななったんじゃなくてあんま盛り上がれなくて淡々と観る感じになったから。といって別につまらないわけでもない。これはどういう映画かと言いますとタイの辺鄙な村になんとかという女神を宿した巫女がいるんです。で取材班が巫女に密着してたら巫女の姪の様子がどうもおかしくなってくる。これはもしや巫女が降ろしている女神が姪の身体に移りたがっているんじゃないかということで巫女の世代交代の瞬間が撮れるかもと取材班は被写体を姪に変える。
さてそれが恐怖のはじまり、これはホラー映画でかつ『哭声』のナ・ホンジンが原案・プロデュースを担当した映画なので当然穏便に事が済むはずはなく事態は周囲の人間を巻き込んでどんどん悪化、何が姪に憑いたのかはわからないがとにかく祓わなければどえらいことになるぞということでみんな頑張るのですが…さぁどうなるんでしょうね! ちゃんとみんな元気になるかな! 『哭声』のナ・ホンジンが原案・プロデュースという時点でもう結果はだいたい見える気がしますが!
いやだから面白いは面白いんですけどなんで俺がフェイク・ドキュメンタリーがそんなに好きじゃないかってカメラワークも構成もどれも似たような感じになっちゃうからで、これもさ、観ててやっぱ「普通に撮ればいいのになぁ」って思ったんですよ。だって取材班が撮ってるっていう設定だとそれ以上踏み込めないところってあるじゃないですか。俺それがすげぇもったいないなって思うんですよね。たとえばこの憑かれた姪がトイレに入ってダラダラ流れる経血を処理するっていうシーンをこれはフェイク・ドキュメンタリーの縛りがあるからトイレのドアの隙間から覗き見するわけですよ。こんなの無理矢理な構図じゃないですか。しかも面白くない。
フェイク・ドキュメンタリーの縛りを解けばカメラをトイレの中に入れてありえない量の経血をおどろおどろしく色んな構図で撮ることができるわけで、明らかにそうした方がこのシーンは怖くなる。更に言えばですよ、このシーンで取材班はドアの隙間から覗き見していることが姪にバレちゃうんですけど、普通そんなことがあったら姪もうこいつらに取材させないだろ。だけどそこで取材中止になったら映画終わっちゃうからそういうことにはならない。フェイク・ドキュメンタリーに拘泥することで展開にも無理が出てきて怖いムードが高まっていかないばかりでなく、あぁこれ作り物なんだなって逆に白けちゃうんだよ。
だからですね、これ個々の場面の恐怖描写っていうよりも、それはむしろそんなに怖くなくて、シナリオで怖がらせるっていうか嫌な感じを醸し出す映画なんですけど、そんなに本気で嫌な感じになれなかった。フェイク・ドキュメンタリーの利点って嘘の映像を本物みたいに見せることにあってシナリオの面白さを表現するにはどちらかと言えば不向きだと思うんですよね。なのでこれは撮影スタイルの選択をミスったんじゃねぇかなと思った。ポスターに映ってる女神様の像とか様々な呪術的小道具もフェイク・ドキュメンタリー形式だから背景的にしか機能しないですけど、あれだってせっかく怖そうなもの作ったんだから普通の撮影スタイルで怖いぞ怖いぞ~って撮ればよかったんですよ。村の風習だって舞台設定的に見せるんじゃなくてもっとしっかり撮れば湿ったムードが出てよかったのにさ。
なんかそういう不満ばっか出る。ただ不満ばっか出るのは題材もシナリオも面白かったからで、つまらないわけではないっていうのは強調しておく。あと映倫はこんな程度でR18付けるなよっていうのも強調しておきます。
【ママー!これ買ってー!】
ナ・ホンジンの名前しか挙げないのは監督に失礼な気がしたので監督バンジョン・ピサンタナクーンの代表作っぽいホラー映画のリンク貼っときます。
アジアンホラーにハズレ無しと思い込みのもと見たけどこれがまた大ハズレ登場人物に魅力がないので誰視点で見たらいいのかわからず仕舞い。ちなみにあのシーンは腰振ったらレーティングが上がるらしいですよ。
腰の動きでレーティング変わるんすか!なんという無駄な…いやまぁ、審査してる人たちにも理屈はあるのでしょうけれども…でもたったあれだけでR18はちょっと可哀相ですね。