《推定ながら見時間:70分》
現在ディレクターズカット版の『ロッキーVSドラゴ』が上映中の名作『ロッキー4』の中でソ連の超科学力が生んだボクシング・サイボーグのイワン・ドラゴはいくらパンチを打っても一向に倒れないロッキーに驚きを隠せずセコンドにこうこぼしていた。「あいつは人間じゃない…まるで鉄を殴ってるみたいだ!」
鉄、それは『サマリタン』でスタローンが演じるジョーという男を形容するにぴったりの言葉である。この男は隠居したスーパーヒーローなのかそれともスーパーヒーローじゃないのかわからないという体で物語が進むがスタローンのスーパーヒーロー映画という触れ込みで宣伝されているのでそんなの無視して書いてしまうがスーパーに鋼の肉体を持っているのである。ナイフで刺してもビクともせず悪漢を振り払えばその勢いで悪漢は3メートルぐらい漫画的に飛ぶ。
だが過度なダメージを受けると形状記憶合金のように元の身体に戻す過程でオーバーヒートし全身から煙が! すぐに水を浴びたりアイスクリームを食べまくれば(そのためにアイスを買い込んでいるという萌え設定がにくい)過熱は収まり無事に済むが、冷却ができなければ心臓に負担がいき死ぬ。というわけで水を浴び浴びシューシューいわせながら戦うスタローンの姿はまさしく鉄、熱された鋼鉄である。ヒーローパワーの込められたハンマーを鋳造するシーンもあるので鉄が映画全体を貫くモチーフになっているのは間違いない。そういえば『ランボー:ラスト・ブラッド』においてもスタローンは武器を鋳造していたから、鉄と鋳造というのはスタローンの好むモチーフなのかもしれない。
ジョーは鉄のように無骨な男だが映画自体もまた無骨であった。スーパーヒーローものと言いつつ近所の商店街が暴徒に荒らされたりしてるので戦うというスケール感、スーパーヒーローにも関わらずトラックで敵のアジトに突っ込むという昔ながらのカチコミスタイル、そしてスーパーヒーローが戦うにも関わらず『コブラ』を思わせる大して強くない敵! なんだかあんまり現代の映画に見えないっていうか80年代のスタローン映画を午後ローで観てる気分になってくる映画である。
それを物足りなさと感じる人もいるだろうが、というかそっちの方が圧倒的だろうが、でもスタローン映画ってやっぱこれだよね。自分が戦える範囲の敵と戦って自分に守れる範囲の平和を守る。世界平和なんて大それたことは言わないし大袈裟な理想だって持ってやしない。けれども自分が守ると決めたものはなにがなんでも守り切る、それがスタローンという男だ。シビれますよ、表の仕事はゴミ収集人で暇なときの裏の仕事は町のゴロツキ退治なんだから。
それスーパーヒーローじゃなくてもできるだろ! と思われるかもしれないが自分たちの住む町を少しでも平和にするために誰の助けも求めず黙って危険な戦いに身を投じてくれる善意の人をスーパーヒーローと呼ばぬなら、スーパーヒーローとはいったい何なのだろうか。『サマリタン』はそんな問いも観客に投げかける。
「とりあえず生で」的な定番展開の安心感、疲れた心と体にちょうどいい上映時間102分、いくら倒れようと身体から煙を吹こうと決して戦うことをやめようとしないスタローンの姿からは明日の仕事に向かう活力をもらい…なんだか見るサウナのような映画だが、そうした今の主流から明らかに外れた泥臭い作りがヒーロー映画に対する机上の空論ではなく生身の批評ともなっており、なんとも渋みの効いた大人のヒーロー映画となっているのであった。
【ママー!これ買ってー!】
スタローンのヒーロー映画といえば『ジャッジ・ドレッド』だが、ここはあえてロッキー最大の敵イワン・ドラゴを演じたドルフ・ラングレンのヒーロー映画『パニッシャー』を推したい。ドルフもドルフで自分に守れる範囲の平和と復讐できる範囲の復讐のために泥臭く戦っていたのだ。