《推定睡眠時間:15分》
原作が伊坂幸太郎といっても監督が『デッドプール2』のデヴィッド・リーチ(脚本は『フィアー・ストリート』の人)で殺し屋がたくさん出る映画なら悪趣味ギャグ満載のバカアクションに改変されているのだろうと思ったらさにあらず、原作未読の身で言うのもあれですが伊坂幸太郎の持ち味をしっかり生かした軽妙な群像ミステリーになっていたというサプライズ。いつものことだがあの予告編からこれは想像できなかった。
ブラッド・ピット演じるレディバグはとにかく運の悪い殺し屋で大事なときにはだいたい想定外の邪魔が入って台無しになる。その殺し屋の最新の仕事は東京発京都行きの新幹線のようで新幹線ではない日本高速鉄道に乗ってブリーフケースを奪ってくること。目的のブツはあっさり見つかり俺にしては運が良いななんて思ってしまうレディバグだが、その列車には『きかんしゃトーマス』好きの殺し屋コンビやら子供の復讐を胸に誓うヤクザやら女子高生ファッションの陰謀家やらとやたらアクの強い面々が乗り込んでいたので案の定殺し合いに巻き込まれ、品川で降りるつもりが京都まで行ってしまうのであった。まぁいいんじゃない観光できるし、結果的に。
主演はブラッド・ピットだが映画は復讐ヤクザのアンドリュー・小路のシーンから始まる。実はこの人知名度的に予告編などには名前が挙がらないのだが準主役的ポジション、身も心も血に塗れた一癖も二癖もある乗客連中の中では例外的に穢れていないヒーローみたいな人なのであった。しかしポイントはそこではない。アンドリュー・小路…といえばサイバーにせジャパンで遊びまくった快作『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』のニンジャ若頭を演じた人ではないか!
あの謎看板とネオンに溢れた無国籍無時代のサイバーパンク東京の街並みなどを見るに『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』とこの『ブレット・トレイン』、一部セットを共有してるんじゃないだろうか。共通点は他にもある。新たな登場人物が現れるたびに画面にでかでかとネオン風にデザインされた名前テロップが出るのだが、これが英語と日本語の両方で出る。レディバグなら「LADYBUG」と「てんとう虫」という具合。これが『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』のテロップ演出と似ている。エンドロールでは主要スタッフの名前が表示される背景にその役職が大きな漢字で描かれていたが、『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』ではスタッフ・キャスト名の日本語表記が通常の英語表記の背景として…というわけだから、おそらくテロップデザインは同一人物なのだろうと思われる。
というわけでかなり楽しい映画だったのにセンスもないしジョークもわからないオタク的日本人たちから「勘違い日本www」みたいな扱いをされて(勘違いじゃねぇよこんな日本はねぇってわかった上でこっちの方が面白いからこうやって作ってるんだよ!)せっかくサイバーにせジャパンとはいえ日本を舞台にしているにも関わらずヒットしなかった『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』の姉妹編の趣がこの『ブレット・トレイン』にはあり、こちらの方はどうやらちゃんとヒットしてくれているようなので俺としては雪辱が果たされた気分である。うれしい。
やっぱねこのサイバーにせジャパン楽しいですよ。新幹線に似ているが新幹線ではない高速鉄道が主な舞台であるからサイバーにせジャパン大冒険という感じではないが車内装飾のコレジャナイけどコレ感がなかなか絶妙で笑えるし時折見える車外風景や停車駅のホームとか…なんだあのものすごい霧はあれ駅じゃなくて冥府だろ! 富士山超でけぇしそのへんから見えんのかよ! と愉快愉快。いいじゃないですか、もももんとかいうらしい東京五輪2020公式キャラクターのピンクの方を人相悪くさせたゆるキャラが着ぐるみで車内を闊歩するサイバーにせジャパンの高速鉄道。ちなみにもももんはももんがファミリーという幼児アニメのキャラのようで、ももんがファミリーのラッピング車両もこの高速鉄道にはある。乗りたい!
バカバカしいが伊坂幸太郎の描くパズルじみた人間関係や偶然の連鎖の物語には普通の日本を背景とするよりもむしろこの方が合っているんじゃないだろうか。原作はどうか知らんがこちら映画版の方はホームに置いてけぼりにされた殺し屋が高速鉄道の最後尾に飛び移って(掴まるところないだろ)無茶な戦場復帰を果たしたり最終的には殺し屋どもの潰し合いなんかでは済まない大惨事になったりするので、この脚本にしてこのサイバーにせジャパンありという感じでなんというかこう、リアリティとか世界観の釣り合いがちゃんと取れてたりするわけです。
群像ミステリーゆえ序盤から中盤にかけては説明台詞や描写が多く、なにせ高速鉄道車内ばかり映るので絵的な変化にも乏しくやや冗長に感じられるところはあるが、一度走り出せば高速鉄道は早い。とぼけたキャラクター、軽妙なやりとり、意外とバイオレントなアクション、ジョークみたいな展開とサイバーにせジャパンが渾然一体となって弾丸特急は一路京都へ疾走する。だいぶ人が死ぬ、それもわりと軽い感じでぶしゃぶしゃ血を吹きながら死んでいく版の『オリエント急行殺人事件』とでも言えそうな、あっはっは、ま、楽しい映画でしたね。運の悪いブラピが事の真相を知った瞬間に浮かべる情けない表情も最高!
※歌謡曲や有名曲の日本語カバーの挿入も味わい深い。冒頭に流れる”ステイン・アライブ”を歌っているのは女王蜂のアヴちゃん。
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ニンジャ映画のケッサクなのでみんな観てくれ。
東京駅のビアードパパ(現在は閉店)だったり米原駅の寂れ具合だったり、部分的な解像度が妙に高いので意図的であることは明白でしたが、それを踏まえたうえで今時あのセンスは「ダセえな」と思いましたよ。
ただ監督を擁護するなら、コロナ禍で日本ロケが出来なかったが故にああいう日本描写になったようです。
にせジャパンに対する賛否両論はあると思うんですが、事実から言えば記事中でも触れております昨年公開の『漆黒のスネークアイズ』、昨年ネットフリックスで配信の『ケイト』、またこれはメイン舞台ではありませんが『マトリックス レザレクションズ』でもにせジャパン新幹線が登場しておりまして、今時…と言われるような古いセンスの映画ではなく、むしろ今こそサイバーにせジャパン映画の全盛期なのです(おそらくシティポップブームの影響だと思います)
作品としての質はさておき、こと日本描写においては『G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ』向こうの方が誠実さとバランス感覚の良さを感じました。
というか一部のセット撮影箇所以外は大して「サイバー」でもなかったですよね。
まぁ、この手の映画の日本イメージソースは基本的にサイバーパンクの元祖『ニューロマンサー』なのでということで…。
『漆黒のスネークアイズ』は確かに日本描写のバランス良かったですよね。荒唐無稽なところは徹底的に荒唐無稽のファンタジーなんだけど、リアルなところはちゃんとリアルで、その二つの世界をニンジャ側とヤクザ側の世界観の違いとして描き分けてる。巧いなぁとおもいました。ニンジャ側もわりと日本のニンジャものをよく見ているなという描き方でしたし。『ブレット・トレイン』がこんなにヒットしているのに『漆黒のスネークアイズ』がガラガラだったのは本当に悔しい…。
ブレットトレイン、とても面白かったですね。日本人の視点から見てもあの “勘違い日本” に行ってみたいと思えるセットでした。外国人が考える日本って馬鹿にされがちですけど、日本人が考える日本よりも遥かに面白いと思っちゃうことがありますね。不気味に整地された “古き良き日本の観光地” を作るより、この映画のセットぐらい振り切ったものを建築してくれないかな〜と思いました。
意外にもというか、日本を舞台にした海外の低予算ホラー映画とかってぽつぽつあって、そういう映画はセットを組む予算がないので普通に日本の民家とか寺とかでロケしてて、すごいリアルな日本の風景が映ってたりするんですよね笑
だから外国人は日本をわかってないからハリウッド映画に出てくる日本がこうなるっていうよりかは、ハリウッド映画は予算があるからゴージャスな虚構の映像世界をちゃんとセット組んで作ろうとしてて、その結果がこの “勘違い日本” なんだと思ってます。
不愉快に感じる人もいるとは思うんですが、こっちのが普通にどっかの民家とか寺とかで撮るより面白いじゃんって個人的には思いますね~。
ウェ~イ!ワタシ、ニンジャ大好キ”ジェント(紳士の)”ディック・バチェラー、デース!日本ノ皆サン、ニーハオ~!
映画にかうさんのおかげで、日本語も堪能になりました。そんな私はエセ日本と言うより、タランティーノっぽさを感じましたね。原作の伊坂幸太郎はタランティーノリスペクトだそうなので、原作に忠実に作ったらそうなるのかな。音楽のチョイスもオールディーズや邦楽使って、割とタランティーノっぽさを意識してたと思います。監督はブラピのスタントしてたとのことで、ワンハリ感もあるかも。
しかし、それゆえになんか見てる間ずっとこっ恥ずかしかったっスよ。昔のタランティーノファンだった自分を思い出しちゃってね……でも90年代の日本はみんなタラにかぶれてましたよね、アド街とかね。もちろん映画秘宝もね。
しかし……ラストのサンドラ・ブロック、美容整形でもしたのかメイクなのかCGなのか、なんか不自然な気がしたのは私だけでしょうか。映画にかうさんはどう思いましたか?
ぼくニカウさんじゃないですよ!コーラの瓶捨てに地の果てまで行かないです!!
それはさておき、タランティーノ感は確かにあったと思います。今はもうタランティーノの感覚って一般化してるので、この監督は『デッドプール2』の監督ですけど、あれなんかもとくにそのつもりはなくてもタランティーノ感覚の映画になってたんじゃないかなぁと思いますね。俺はタランティーノのファンじゃないし『キル・ビル』も別に好きじゃないので、逆に楽しめたのかもしれません笑
サンドラ・ブロックは拘束時間が他キャストと比べて極端に短いですしメイクでしょう。どんなに過酷な物語内状況でも絶対にメイクを落とさないことをおそらく出演の条件にしているような役者さんっているみたいで、ミーガン・フォックスなんかもすごいですよ、鉄壁のメイク。