《推定睡眠時間:0分》
この映画東京では新宿バルト9でやっててバルト9でやる中規模アクション映画といえばそうですねなんというか午後のロードショーでめちゃくちゃやりそうなやつばかり、それは言うまでもなく褒め言葉なのだが『ザ・コントラクター』なんてレンタルビデオ屋の片隅でヴァンダム映画とかセガール映画とかの横に並ぶのが似合いすぎる枯れた邦題を持つこの映画、意外や全然午後ロー映画ではなかったのでひっくり返った…というのはどう考えてもさすがに嘘だが、ちょっとだけびっくりはした。
だってもうオープニングからして午後ロー映画ではない。主人公の特殊部隊隊員クリス・パインが解体した拳銃を組み立て、ジョギングに出、傷めた膝の治療でステロイドを注射し、教会で米兵の奮闘を讃える牧師の説教を聞く…そのカットバックがオープニング・シークエンスなのだが、どのシーンも「これ!」という単純にして的確な二三のショットから構成され、ごく短いシークエンスの中で主人公の立ち位置やキャラクターを見事に、しかも説得力のある形で提示している。これはなかなかできることじゃないと思った。
職を失った特殊部隊の隊員が陰謀に巻き込まれ的なあらすじを読んでもやはり頭の中に広がるのは午後ロー的B級活劇だが、そんなわけで実際に観ると方向性はだいぶ異なり、終始シリアスで温度の低い、そして乾いたバイオレンスと銃声が谺するミリタリー・ノワールという方がしっくりくる。音もなく糸が切れた人形のように死んでいく人々と人肌を感じさせないメカニカルな特殊部隊の所作、突然始まりあっけなく終わる銃撃戦、真実を見失って下水の闇に逃げ込む男…なんとも渋いノワール映画である。
脇を固めるのがベン・フォスター、エディ・マーサン、キーファー・サザーランドというのもまた渋い。この名オッサンらが長い兵隊仕事の末に帰る場所を喪失した精神の亡命者を哀感たっぷりに演じていて…もうどこにも自分の居場所なんかないことを知っているのに、それでも居場所を求めて殺し合う、殺し合うことしかできないし知らない、そんな絶望感漂う終盤は最高でしたな。ラストのあれも中盤に出てくる主人公の心象風景と対応する現実ではない光景なのだろう。父親のために星条旗のタトゥーを入れて、アメリカ合衆国に人生を捧げた兵隊に、心安らげる場所はない。
あまり一般受けしそうにない映画だが俺は好きな映画だったのでみなさんも是非是非観てやってください。観てやってくれないとこの手の渋映画が公開されなくなってしまうので…。
【ママー!これ買ってー!】
とくに関連性はないがタイトルも似てるし空気感もなんとなく似ていないこともない政治ノワール。なんでもノワールと呼べばいいものではない。
観てきました。キ〇旬のレビューで点数低くて候補から外れてたんですが、こちらで褒めてて、かつ近所で適当な時間にやってたので、じゃあ、と思い直して行ってきた訳です。超絶よかったです。時代に切り捨てられる素朴なマチズモや誠実な理性(殺された学者)が、暴力に寄生された知性(ネオリベ的な)に踊らされて殺し合いをさせられる痛ましさが全編を包んでいて切なかったですねェ。アメリカ的マチズモの末路と言う点で「ステイルウォーター」と根っこを共有している様にも見えました。お勧めありがとうございました!
え、これキ○ネ旬で低評価だったんですか…センスないなぁ今の評者は。編集で誤魔化そうとしない大胆で緻密なショットの数々は大したものですし、やや陳腐ではありますが確かなアメリカ批評の視点もあり、何より殺ししか知らない(あるいは使途もなくただただ金儲けすることしか知らない)オッサンたちの抱える深い孤独が本当に胸に迫ってくる、とてもよくできた映画だと思ったのですが。最後はちょっと『ローリング・サンダー』みたいだし…。
ともかく、観てもらえて、しかも楽しんでもらえてよかったです!