《推定睡眠時間:0分》
近年の幸福映画に欠かせない幸福バイプレーヤー希島凛、ついに堂々の主演作である。これはちょっとした事件ではないだろうか。スタア主義の幸福映画ではこれまで僅かな例外を除いて大川宏洋や千眼美子といった教団外にも知名度のある顔が主演を務め、時には雲母(きらら)なる教団アイドルをゴッド隆法がプロデュースし幸福映画初出演にして初主演そしてエンドロールには雲母の歌って踊る映像付きという往年の角川映画を思わせる売り込みを大々的に行ったものの何があったのかは教団部外者には知る由もないがその一作以外に雲母が幸福の顔として活動したことはなく幸福アイドル雲母の存在はあっさり教団黒歴史として抹消され今はどこで何をやっているのかまったくわからないがまぁ普通に信者やってるんでしょうね細々と、という惨事もあった。
その幸福がついに幸福映画を観続けている人以外には誰も知らないと思われる希島凛を長年の功績を認めてか主役に抜擢したのである。塩子とかいう隆法のゴッドギャグセンスが爆発したクソダサい役名で。ようやくの単独主演作なんだからもうちょっと映える感じにしてあげてほしかったと思うが、これもきっと隆法の親心、意外と知られていないような気がするが隆法は同時代の新宗教教祖仲間の深見東州に倣ってかユーモアを大事にする人であり、何作か前までは幸福映画にMCUにおけるスタン・リーのポジションでカメオ出演を果たしちょっと面白い芝居をしているのに観客の信者たちはシーンと静まり返り誰も笑わないし驚きもしないということもあったぐらいなのである。塩をまいて除霊するから塩子。もちろん今回も全然客席は笑ってなかった(一人だけちょっと笑ってる人はいた)
脚本はいつもと同じ大川咲也加、ということで我が薄くゴッド隆法の教えを忠実に映画に落とし込むことにしか関心がない咲也加らしく、今回はオムニバス構成で正体がなんなんだかわからなんしぶっちゃけどうでもいい除霊師・塩子(儀式で召喚すると出てくるが人間)が中には普通にプラズマ科学の授業をしてただけの人なども混ざっているいろんな幸福的悪人に憑いた悪霊や鬼のたぐいを祓っていくが、各エピソードに連続性はなく、あくまでも見るゴッド隆法説法本という感じになっている。
それでもラストに置かれた無駄に感じの悪いプレイボーイのエピソードにだけやたら力が入っていて尺も長いあたりは宏洋時代の幸福映画とは明らかに異なる咲也加作品の特質。恋愛への興味とその煩悩の断ち切りを咲也加はこれまでも『画皮』などで描いてきたが、なんか切なくなるな。
幸福映画はその時々でゴッド隆法が宣伝や主張したい事柄が盛り込まれるのが常であり、銀座の元幸福支部にブックカフェを開けた時にはロケ使用料がゼロで済むブックカフェでロケを行ったのみならず「ブックカフェっていいよね」みたいな台詞まで脚本に書き込まれたくらいなのだが、今回は最近完成したものなのか幸福鎌倉精舎に鎮座するゴッド隆法の黄金像が何度も無意味にインサートされる。信者の人には意味のある映像だろうが俺みたいな一般人にとってはどうだろう。一応、塩子の能力は黄金ゴッド隆法像によって授けられたみたいなことを言いたいらしいが、脚本が下手なので何も説明できていないと思う(信者なら見ればわかるだろうが)
ちなみに幸福映画といえば隆法作詞かつクレジットはされていないが毎回判別不可能なほどにメロディが似ているので作曲に関しても一枚や二枚は確実に噛んでいると思われる珍曲の多用が特徴だが、今回の珍曲は輪をかけてすごく「もう~私は~大仏しか愛せない~」みたいなやつが塩子が鎌倉巡礼をするたびに流れる。すごいのは曲だけではない。塩子が幸福的悪人の前に現れる時には必ず「来るぞ! 来るぞ! 来るぞ~! 来たぞ! 来たぞ! 来たぞ~! そろそろ塩子がやってくる~! 恐れよ~!」書いている俺がなぜか恥ずかしくなってくるキャラソンが流れるのである。監督の赤羽博はもともとプロの(幸福外の)ドラマ屋さんなのだがプライドとかないのだろうか。そういう問題でもないのだろうが。
今回はゴッド隆法の現世での妻・大川紫央が企画者としてクレジットされているのも注目ポイントだろうか。といった具合に幸福映画を何本か観ている人にとっては見所盛りだくさんと言えるが映画的には終わってるので観て死んだ。見る説法であるから悪霊と塩子の戦いなんてマトモに戦いにすらならず塩子が塩(カメラがズームするとその結晶に塩と書いてある。意味がわからないとおもう)を振ったら悪霊とか鬼とか妖怪はう~わ~といって浄化されこれまでの行いを反省するのである。幸福は絶対正義だからどんな悪が相手でもピンチになど陥りようがないということの表現だが、最終的に勝てばいいんだからせめてバトルはちゃんとやれ。ちなみにこの鬼とかのキャラクターデザインはなんと『樹海村』などの怪異デザインで知られる百武朋であった…。
バトルはやらないしギャグはおそろしく滑っているし曲がダサすぎるのはもちろんのことストーリーも当然なにひとつ面白くない。幸福実写映画のストーリーがちょっとでもおもしろかったことなど宏洋時代を除けばないが、今回は幸福映画史上最大級にストーリーがカスだった。ストーリーを語るつもりがそもそも作り手にないのだから当たり前だが、説法をしっかり信者に聞かせるためにもやはり面白いストーリーは必要なのではないだろうか。この映画の問題は明らかにストーリーだけではないとしてもである。
というわけでね、つらかった。今回の幸福映画はとてもつらいかったです。いつもつらいんですが。
※あと塩子は塩をまくときに「呪い! 返し! 守る!」とか言いながら十字を切るような感じでZの文字を宙に描くんですがZといえばウクライナに侵攻したロシア軍のシンボルマーク。ゴッド隆法が反米の観点からロシアのウクライナ侵攻に際してロシアを支持していることを思えばなにやら意味深である。
【ママー!これ買ってー!】
『呪い返し師』は那須にある幸福学園のオカルト研究会が狂言回しになるのだがこのオカルト研究会の部員が読んでいるオカルト雑誌の名称がオリハルコン。本当はヒヒイロカネにしたかったんだと思うが一応世間の反応を考え変更されたのかもしれない。