なんだか懐かし映画『オカムロさん』感想文

《推定睡眠時間:20分》

あまりにも痛恨の睡眠だった。オカムロさんというのはインターネットでその名を検索すると現れて検索者の首を日本刀で狩っていく怪人なのだが、このオカムロさんに家族を殺され復讐に燃える『ベイビーわるきゅーれ』でお馴染みのアクション俳優・伊澤彩織とオカムロさんが直接対決するらしいクライマックス、ガン寝していた。ボサボサヘヤーに黒のタンクトップでシャドウボクシングならぬシャドウ殺陣を披露する伊澤彩織はアクションジャンルこそ違えど新世代の武田梨奈というべき強烈な魅力を放っており、この、これが、こんな…どう考えても燃える対戦カードを俺は見逃していたのか!!!

比較的どうでもいいこととはいえオカムロさんの正体もわからずじまいだしなんかしょんぼりしてしまう。クライマックスを除いてもまぁまぁ面白い映画ではあるのだが、とはいえ伊澤彩織とオカムロさんのバーサスを見逃してしまったらなんだこういうタイプの映画かぁで終わってしまうところがあるのもそれなりに事実。こういうタイプの映画、とはスシ・タイフーンみたいなやつのこと。井口昇とか西村喜廣が監督してたトロマ映画の日本風アレンジといった趣の映画群で、とくに『東京残酷警察』とはゴアよりもスプラッター寄りの残酷志向や節操のない風刺のセンスなんかがよく似てる。

俺はスシ・タイフーンの映画はそんなに面白いと思ったことはなくて、それは確信犯的な散漫さによるところが結構大きい。こういうギャグがあったら面白いよね、こういうシーンがあったら面白いよね、じゃあそれ撮りましょうよ! みたいな作劇をしていて、シーンとシーンの一貫性はないしストーリーの面白さや役者の芝居で魅せようなんて気も最初からサラサラない。それはスシ・タイフーンが国内よりも海外展開を主眼に置いたレーベルだったからで、海外のジャンル映画ファンはストーリーがどうとか演技がどうとかじゃなくてシーン毎の奇抜さや過激さに惹かれるに違いないという分析に基づくものだと思うのだが、それがまぁどうもそんなに鋭い分析ではなかったらしいことは大きなムーブメントに成長することなく数本製作されたのちにひっそりとレーベルが消滅し、その作品群が少なくとも国内では一部のサブカル層にしか訴求できなかったことが雄弁に物語っている。

『オカムロさん』の監督ももしかしたらそんなサブカル層の一人だったのかもしれない。だから新作なのになんか懐かしかったですよ観てて。あの白ける感じも久々に意識に浮上した。こんなギャグ面白いでしょ、こんなシーン面白いでしょ、ばかりで構成されたコント集のような映画はよほど作り手にセンスがあるならともかく、一般的にはやはりキツイんじゃないだろうか。多くの映画がたとえ陳腐でもちゃんとストーリーを語ろうとするのは、決して理由のないことではないのだ。

オカムロさんを新型コロナと重ねた風刺ははっきり言って単なる思いつきの域を出ず批評性もウィットもなにもない。オカムロさんがポンポンと首を狩っていくのは楽しいと言えなくもないがさすがにワンパターンで飽きる。若者たちがバーベキューに興じる最初のシークエンスにはいやに演技や会話にリアリティがある一方で、オカムロさんを崇める謎の宗教団体の場面やオカムロさんを取り上げるネット番組だかの場面の演出や脚本はずいぶん稚拙に見える。

そうした難点ももう少しストーリーがしっかりしていればカバーできたんじゃないかと思うが、ただでさえ短い上映時間の大部分は「もしオカムロさんが現代社会に現れたら?」のテーマで大喜利的に繰り出される断片的なショートショートなので、互いににオカムロさん事件の数少ない生き残りである吉田伶香と伊澤彩織が協力してオカムロさん討伐に向かうストーリーの方がむしろオマケの観すらある。その理由の99%は俺が映画の後半をゴッソリ寝てたからではあるのだが、こう奇を衒った作りだとバトルウーマン二人によるオカムロさん殺しにカタルシスも得られないんじゃないだろうか。

つまらない映画ではないというのは一応ここらへんで書いておいた方がいいか。つまらなくはないし、これが商業映画初監督の新人の人の作にしてはかなり大胆にチャレンジングなことをしていて好感を持たないこともない(初監督だから売り込みも兼ねて大胆にチャレンジングなことをしているとも言えるが)。でも、その結果がスシ・タイフーンなんだよな。なんだか自由に映画を作ってるようで逆に発想の狭さを感じてしまう。こういうのがサブカル映画ファンは好きなんだろ的なあざとさも感じて白けないでもない。

なんか、あれだね。普通になんか、オカムロさんに仲間とか家族を殺された吉田伶香と伊澤彩織がオカムロさんに復讐するバトルホラーにしたらよかったんじゃないの。そしたら普通の映画になっちゃうじゃんって思うかもしれないけど普通の映画の方が変に奇を衒った映画より面白いことってあるじゃん。その奇だって結局サブカル的にありがちな奇で独創性なんかないんだからさ。つまらない映画ではなかったですけど、そういうことは思いましたね。

【ママー!これ買ってー!】


『東京残酷警察』[DVD]

これもユーモアセンスが寒くてキツイ映画だったなぁ。あと絵作りがかなり安いのも冷めた。

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堕つつ
堕つつ
2022年10月24日 2:50 AM

出た、東京残酷警察!笑
僕の「浅い」映画体験史上、最も期待外れだった作品笑
しかしこれを心底面白がるというか、崇め奉る層も当時少なからず居たのも事実で、僕も当時毎月映画秘宝買ってたのでそのムーブメントに乗れない自分の感性に映画ファンとして失格だ…なんて自信喪失したりしていましたが…意外とその感性も間違ってなかったんだなと最近になって若かった自分を再評価してみたりしてます笑
でも西村善廣さんはその後の監督作もやっぱりつまんなかったですけど、他のサブカル系若手監督さんの動向は今後どうなんでしょう。秘宝という文化圏がほぼ消滅した今では、それに毒されていないサブカル・カウンターみたいな映画撮る人の登場を期待してしまいます。
90年代の三池崇史ってそういう存在だったと思うので…ってまた三池の話になってる。