《推定睡眠時間:20分》
映画ドラえもんの『雲の王国』は環境汚染のせいで雲の上の世界に住む天上人たちが地球に住めなくなってしまい大洪水を起こして人類文明を根こそぎ洗い流してやろうとする物語なのだがそのラストでドラえもんがカメラに向かって「環境を守ろ!」と言うシーンがあり説明するまでもなくこれは視聴者の俺含むキッズたちへの啓発メッセージなのだが、この『サイレント・ナイト』にも同じようなシーンがあった。
吸ったらめっちゃ苦しんで死ぬ地獄ガスが地表に吹き荒れてどうもこうもしようがないこの世の終わり。生きてても苦しいだけなので苦痛なく自殺できる安楽死ピルを飲んで一家+友人たち心中をするつもりの人たちの中に大人たちの勝手な決定に異を唱える利発キッズがいる。彼はカメラに向かって精一杯叫ぶ。地球環境が悪化したから地球は怒って猛毒を吐くようになったんだ、グレタが国連で訴えたって大人たちは誰も聞きやしなかった!
別のシーンでは大人たちがこんな会話をしてる。緑の党に入れておけばよかったよ、保守党なんか最悪だ! 選挙では常にリベラル政党に票を投じ環境汚染対策はそれなりに優先度の高い政策項目として位置づける日和見エコ派の俺ではあるがこれはいくらなんでも、いくらなんでもそのまんま過ぎて白けてしまう。作り手の問題意識はわかった。それを訴えることの重要性もわかる。でも啓発動画じゃなくて娯楽映画なんだからもうちょっと気の利いた感じでスルッとメッセージを潜り込ませられなかったんでしょうか。
リリー=ローズ・デップなんて「お年寄りもそうでない人も命はみんな平等じゃん!」とか言うんだぞ。どうなのよそれは。いやその意見には賛意しかありませんけれども表現としてそれはちょっと稚拙ってもんじゃないかな創作に携わる者として。もしかして子どもに観せる用の映画なんだろうか。それならまぁわかりやすさを優先するのも理解できるけど…だったらなんかもっと楽しい感じのアニメとかにしたらよかったんじゃない?
子どもが観ても面白くないだろうがかといって大人が観ても大して楽しめるものでもないので困ってしまう。内容的にはクリスマス心中を選んだ一家+の家の中オンリーの会話劇だがー、その言葉のチョイスはなにせ前述のようなメッセージ台詞が頻出するぐらいなのでセンスに乏しく、なにか驚きの展開があるかといったらそういうこともない、淡々と死に向かう人々の心理に鋭く切り込むこともなければ、それを捉えるカメラが美意識を発揮することもない。
なにもローランド・エメリッヒみたいにやれとは思わないが世界の終わりというならその終末風景をしっかり絵で見せてほしいもの。じゃなかったら安楽死を選ぶ人々のドラマに迫真性も生まれないだろう。しかしそれもここにはない。逆にというか死に瀕した人間はなにか大袈裟に騒いだり狂気に走ったりすることなく案外この映画のようにホームパーティやあの頃話に興じるぐらいしかしないものなのかもしれないが、そのあの頃話にあの頃話としての面白さが全然ない。そもそもそれ以前に、登場人物の会話や選択に興味を持てるだけのキャラ立てがあまりされていない。いないというか、キャラ立ては一応されているが全員平凡な人なのでどうでもよくなってしまう。
おそらくこの映画の作り手は環境保護のメッセージを伝えることにしか関心がなかったんじゃないだろうか。すべてが甘いこの映画では猛毒ガスで人類死滅の終末設定も甘く、それは物語の書き割りの背景として用意されただけで深く掘り下げられた形跡はまったくない。ジャンル的には一応SFヒューマンドラマとでもなるだろうが、そういうわけでSF映画としては全然面白くないし、ヒューマンドラマとしてはまぁまぁ楽しめなくもないとしても、面白いとまでは言えない。それはメッセージ伝達を優先した結果のように思えるが、そのためにかえってメッセージが説得力を失っているのでなんだか皮肉なことである。
『サイレント・ナイト』というが心中の夜はさすがに穏やかには過ぎることなく小さな口論があちこちで勃発しているし最後の楽しみと歌えや踊れやで結構賑やか、どちらかと言えばサイレントなのはスクリーンの中のクリスマスじゃなくて客席の方だったね。どんな反応すりゃいいんだよこんな映画観て。子どもは可愛いしキーラ・ナイトレイやリリー=ローズ・デップは綺麗だったんじゃないすか。あと何書けばいいの? ああそうだ、ドン・チードルに顔の作りが似てる人が出てて似てるなーって思いましたね。こんなヤケクソな感想を書いたのは久しぶりなのでそのへんから映画の内容をなんとなく察してください。ああ、もうちょっと面白いと思ったのになぁ…。
【ママー!これ買ってー!】
『ブラックバード 家族が家族であるうちに』[DVD]
『ブラックバード 家族が家族であるうちに』[Amazonビデオ]
こちらは一家心中ではなく難病に冒された母親の安楽死当日を描いた家族ドラマ。地味な映画だが適度に捻りと皮肉を効かせた脚本が面白かった。