こんなだったかなぁ映画『映画 かいけつゾロリ ラララ♪スターたんじょう』感想文

《推定睡眠時間:0分》

俺が子供の頃に好きで読んでた児童書といえば『地獄堂霊界通信』とか『ズッコケ三人組』とか『学校の怪談』とかで児童書界の小学館ことポプラ社のものが多かった。ポプラ社の児童書が面白かったのは果たしてそれが全般的な傾向なのか俺が好きだったものが偏っていたのか、一時期の傾向なのか今も昔も変わらない傾向なのかはわからないのだが、説教臭いところがない。『学校の怪談』シリーズなんて本の目玉が投稿実話怪談コーナーだしそういうのは子供が書いてるわけだからそりゃ教育的要素なんかないですよね。もうウソばっか書いてあるんだよ、二宮金次郎が4時44分に歩くのを見ましたみたいな。それがたのしい。

で『ズッコケ三人組』と並ぶポプラ社の看板児童書シリーズといえば『かいけつゾロリ』ですよ。俺はクソ生意気なガキだったので小学生の分際で『ゾロリ』は子供向けとでも思っていたのかあんまり読んだことはないけれども、まぁこれもやっぱり好きで。理由は他の愛読児童書と同じ。説教臭いところがなかったし、『ゾロリ』って「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」みたいなことをやる。とんちなんですよね。大人には屁理屈の一言で一蹴されてしまうようなとんちで問題を解決しようとする。

まぁ基本的には『ドラえもん』と同じで最後にしっぺ返しを食らったりするんですけど、そういうのって良いじゃないですか。少年ヤング時代の俺にとって『ゾロリ』やポプラ社の児童書は大袈裟に言えば想像力を解放してくれるもので、こうでしかありえないように見える現実の別の見え方、在り方を提示してくれるものだったわけですよ。そういうイタズラ精神を子供の頃にしっかり培っておくことって過酷な現実に押しつぶされないために大事なことだと思うね本当。

でこの映画版の『ゾロリ』ですけどオープニングで驚く舞台が新宿西口。いや『ゾロリ』の世界って新宿とかあったの!? 俺の頼りない記憶では公園とか遊園地とか町とかは原作の『ゾロリ』に出てきてたと思いますけどこんな風に具体名を伴ったものではなくて抽象化されたものだったし、具体名を伴うにしても新宿西口ってなんだよ。渋すぎるだろ場所のチョイスが。働く大人しかピンとこないよ新宿西口。俺でさえピンと来ないもん新宿西口なんか、東口に比べて娯楽施設が少なくて飲み屋とかばっかだから…。

その場所チョイスがしかしこの映画のなんたるかを的確に表していたのかもしれない。新宿西口を拠点にする自分に自信が持てないストリートミュージシャンの少女をゾロリが鍛えてアイドルデビューをさせるというストーリーは…なんだかとても俺の記憶にあるゾロリと違っていたのである。まずこのゾロリはとんち的な問題解決をせず真面目な努力を重んじる。まずの時点で既に根本からシリーズの本質が切り崩されているような気がするが続けよう、そしてこのゾロリは「ばっかモーン!」と言ってすぐに怒る。ふざけない、笑わない、当たりがキツイ、結構スパルタ…これが本当にあの『ゾロリ』であろうか?

確かに弱気少女の成長物語としてまぁまぁ楽しめるのは間違いないが、少女がゾロリ先生指導のもと実力でアイドルオーディションに挑むなんて『ゾロリ』として邪道なのではないだろうか。俺が読んだことのある『ゾロリ』はもう二十年以上前のものだから今の『ゾロリ』とは作風が若干違っている可能性もあるが、ゾロリ先生ならあの手この手のとんちで努力なくオーディションに挑むのがやはりあるべき姿なのでは。その目的も少女を成長させるためなんかではなくあくまでも少女をオーディションに合格させることで自分が儲けを得るためなのでは…俺の記憶の中のゾロリ先生どんなろくでもないヤツなんだ。いや、でも、セコイことばっか考えてる憎めないろくでなしだからゾロリ先生好きだったわけだからさ…。

っていう感じでなんか俺の想像してたものとは違ったなー。いいのかなぁ、『ゾロリ』がこんな教育的に正しい物語になっちゃって。まぁでも最近のこのシリーズはむしろこっち路線なのかもしれないしね。テレビアニメ版とか前の劇場版は観てないからそっちを観てる人にはこの方が自然だったりするのかもしれない。一応最後に面白かったところを一つ挙げておくと、妖怪学校のシーンで河童に混じって池から出てくるのが原作者の原ゆたか先生。笑った。

【ママー!これ買ってー!】


かいけつゾロリのチョコレートじょう (6) (かいけつゾロリシリーズ ポプラ社の新・小さな童話)

超久しぶりに読んでみようかしら。

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8 Comments
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りゅぬぁってゃ
りゅぬぁってゃ
2022年12月23日 8:28 AM

神谷明が声を当てたゾロリのアニメがあるんですけど、どっかで復刻しないかなあ…。

りゅぬぁってゃ
りゅぬぁってゃ
Reply to  さわだ
2022年12月24日 10:27 AM

神谷明版、監督が出崎統の弟子筋なので
「出崎演出」が多用されてたのが時代を感じました。

りゅぬぁってゃ
りゅぬぁってゃ
Reply to  さわだ
2022年12月24日 2:01 PM

・93年ごろ、アンパンマン映画の前座として公開された30分作品。「魔法使いの弟子」と「大海賊の宝探し」の二本立て。
・キャラデザを原作初期に寄せてる。
・イシシが緒方賢一(阿笠博士)、ノシシが千葉繁 ってオッサン声。

って山寺版のイメージが強い人だとギャップを感じるかも?

匿名さん
匿名さん
2022年12月23日 1:27 PM

20年ぐらい前のアニメ一期から追っているファンですがもう本当にめちゃくちゃ仰る通りだと思います…
今回の映画版はEテレ放送版を受けての映画化なのですが、Eテレ版になってからもう明らかに道徳的なんですよね内容が。
原作付きの話もまあまあそんな感じなので、アニメのスタッフと放送局がどうのというより原作者の意向も大きい気がしますが…
初期の頃の、にわかさんが仰るようなとんちの効いた作風はもう見るのは難しいかなぁという印象です。
とはいえ一番面白かった頃の原作を映像化した一期のアニメは制作会社のいざこざで配信には乗らないので、もう現状の…この道徳的で説教くさいゾロリがスタンダードになっていくのかもなぁと思うと残念です。