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へぇ一作目ってもうそんな前の映画だっけ続編公開されるくらいだしと思ったら一作目の公開は今年2月、2月に公開して続編が同じ年の12月公開は早すぎる。このフットワークの軽さ、低予算映画ならではって感じよね。そりゃ映画は基本的には予算が大いに越したことはないが、低予算だからこそできることだってないわけじゃない。このシリーズの売りであるゴア描写だってその一つだろう。全国のシネコンで公開された本家『事故物件』なんてゴアのゴの字もない全年齢対象ぬるホラーだったわけだから。
ただそのゴア描写が今回はなんか響かなかった。血糊内蔵は前作よりも増量しているはずで前作は途中まで心霊ホラーだからゴアもほとんどなかったが今回は冒頭から人体四散ゴア、その後も『地獄の門』オマージュな内臓吐きゴア、頭部めり込み引っこ抜きゴア、腕引きちぎりゴア、人間ハンバーグゴアなど様々な趣向の凝らされたゴア描写がたくさん出てきて楽しいのだが、楽しいだけで響かない。
それなぜかって考えたんですが今回はホラー・コメディーになっているというのもあるんですけど大きいのはやっぱりタメが足りないってところじゃないですかね。前作って途中まで心霊ホラーだからそれがゴア描写のタメになってた。幽霊出るぞ~幽霊出るぞ~ってずっとタメの演出をやっていてそれがついに現れた幽霊によるゴア呪い殺しで爆発する。こういうの痛快じゃないですか。びっくりもするし。前作はゴアシーン自体は少ないんですけどその少ないゴアシーンが生き生きしてたんですよね。
翻って今回はどうかというとタメの演出や展開がなくなってしまった。前作は心霊ホラーにゴアが付いてくる感じですけど今回はゴアに多少のドラマが付いてくるという感じで、ゴア描写から逆算して脚本を組み立てていったのではとさえ思ってしまう。別にそれでもいいのだがその弊害は確実にあって、ゴアがもう怖いものではなくなっちゃう。俺そういうところがホラーは好きだけどいわゆるゴア映画にはそんなに興味がない理由で、ゴア映画って怖くないんですよ。怖くないっていうか怖がらせようとしない。
チャップリンの台詞じゃあないけれども人が1人死んだらそれはホラーで、でも100人死んだらそれは怖く感じられなくて、ホラーとはちょっと違うじゃないですか。ゴアも1つあったらそれは恐ろしく見えるけど、10個も20個もあったら賑やかしだよね。怖がるというより観ているこちらの受け取り方としては良く出来てるなー見事だなーとかってゴアを愛でる感じになる。それはたぶん作り手もわかってて、前作でホラーはやったから今回はお祭りだみたいなつもりだったんじゃないかと思う。それをどう捉えるか。ゴア祭と割り切ってノレる人にはいいだろうけど、俺は正直ホラーが見たかった。
それは別に両立不可能なことではないじゃないですか。ルチオ・フルチの『地獄の門』は独創的なゴア描写の嵐ですけどちゃんとホラーとして成立してますよね。それはフルチが一つ一つのゴア描写をこれはどうせ見世物なんだなんて軽視してなくて、ちゃんとそれで観客を怖がらせるためのお膳立てをしているからだと思うんですよ俺は。フルチの映画ってタメがすごい。幽霊とかゾンビが出るぞ出るぞ出るぞ~っていうのを窃視症的なカメラワークや細かいカットの技巧的な組み合わせで表現したり、音響の見事なコントロールで怪物登場の緊張感を高めていく。
出るんだろうとなと観ているこちらには分かっているけれどもまだ出ない、まだ出ない、まだ出ない、そして…出ると同時にゴア! ぎゃあ! これなのです。この緩急。このダイナミズム。これがあるからフルチ映画のゴア描写はまあ見世物として楽しい面もあるけれども同時にちゃんと怖い、ホラーになってる。俺はそういう丁寧なサスペンス演出をどんなに予算のない映画でも丁寧にやってるからフルチは巨匠なんだと思ってる。
そういう意味で『真・事故物件2』は元から期待もしてないし別にガッカリしたというわけではないけれども、サクサク進んでたくさんゴア描写があって愉快な映画ではあるんだけれども、でも、それ以上のものには俺の中でならなかった。そうなると粗ばかり目立って、どうせゴア要員だからと登場人物のドラマらしいドラマを描かないのはいかがなものかと思うし、そのせいでシーンとシーンの繋がりが希薄になって物語がよくわからなくなっているのもどうかと思うし、前作に比べると格段に展開に面白味がない(そして独りよがりになっている)
所々に顔を出す風刺も最近では『オカムロさん』もそうだったが社会に切り込むというより単なるオタク的立ち位置の表明程度のものにしか思えないし、それらはまぁまぁ好みの問題だとしても、音楽トラックと音声トラックが被ってしまって台詞が聞き取れない箇所が一箇所や二箇所ではないとか、このへんはちょっとダメだろうとさすがに思う。年内公開の突貫作業で思うようにならないところも多々あっただろうけれども、劇伴を多少削ってでも台詞を立たせるぐらいの決断はやろうと思えばできたことじゃないだろうか。
とはいえ真つながりで『真・女神転生』で言うところのレギオンみたいな能面オバケはカッコよかったし、勢い任せの終盤はなにがなんだかわからなくて呆れるところもあるがやはり楽しい。要するに、これはネクロストーム映画みたいなゴア・コメディであって俺の好きなホラー映画ではなかったという、ただそれだけのことなんだろう。ネクロストーム映画とか山口雄大映画が好きな人はとても楽しめると思います。
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なんか公開時はわりとボロカスに感想書いたような気もするが今となってはこっちの方はよく出来てたなーと手の平返し。