呆れる映画『そして僕は途方に暮れる』感想文

《推定睡眠時間:15分》

イランの児童映画みたいだと思ってしまった。この主人公の男どういう人間かというと基本的に何もやる気がない人で仕事は飲み屋のバイトなのだが夜勤シフトを途中でフケて帰ってきてしまうしトイレの電球が切れていたらそんなもの自分でやれやと思うが同棲してる彼女の前田敦子に後で電球替えといてと言う。コンビニ弁当食ったら蓋も閉めないでテーブルの上に放置しっぱなしでどっか行く。趣味はとくになくテレビのお笑い番組をずっと観てる。そして何か真剣な話し合いが必要と察するや「アイタ…タタタタ…お腹が急に!」みたいな古典的仮病を使い脱兎とはこれのことかという速度で後先考えずに逃げる。俺こういうのキアロスタミの『トラベラー』とかで見た。

そんなことをしてちゃあ前に進めないばかりか余計に事態をこじらせるよという教訓的オチも含めてイランの児童映画っぽいのだがこちらの主人公は8歳とかではなくアラサーの男である。いくらなんでも幼稚すぎないか。現代日本のアラサーなんてこんなもんでしょ的な人間観察に基づくリアル描写の可能性もあるがだとしたら日本のアラサー男どもは相当終わっていると言わざるを得ない。でこの映画はそんな幼稚なアラサー男を嘲笑うこともなく丁寧にそのカスな心情に寄り添ってあげたりさえするのである。いいよそんなやつ、どうせ話しても面白くないし人の善意に甘えるだけの無能なんだからそこらへんで野垂れ死ねとは思わないが万引きでもして刑務所でクサい飯食ってろ。刑務所飯も改良されて今はもうクサくないらしいですけどね。

原作は戯曲らしいが映画版も作られるというぐらいだから知らんがおそらく好評を博したんだろう。こんなシナリオのどこがいいのかわからない。人間的な魅力をどこにも見出せない脳内8歳主人公なのにやたら恋人や友人に恵まれていて夜中に今からそっち行っていい? なんつっても全然拒まれることなくそのままその家に居候してしまう、というのはシチュエーションを作るための戯曲的なご都合主義がありありと見えてまったく白ける。だいたいプロットが弱すぎるだろうこんなものは。主人公が逃避に逃避を重ねているうちに無宿まで転落してそこで生きることや人間社会の厳しさ冷たさを知るというのならまだわかる。ところがこいつは電話一本かければ常に転がり込む先がある。金に困るという描写もない。ナメとんのかお前ら。路頭に迷えや。

主人公の逃避行を物語が始まるまでのモラトリアム/プロローグと捉えラストはここから主人公の物語が始まるぜ! というジャンプ漫画の打ち切り最終回みたいな展開になって大いに呆れるが、そうなんだよなぁ、呆れる、で止まっちゃうんだよなぁ。ゴジラや『素晴らしき哉、人生』のこれ見よがしの引用をこの映画は「センスいいでしょ?」的にやってしまう。そこになんの引け目もないのは監督が映画の人ではなく舞台版の演出をやった人だからかもしれない。映画の人だったら…まぁ人にもよるだろうがそれはいくらなんでもベタ過ぎて恥ずかしいよ~みたいなのがあるんじゃないだろうか。せめてもう一捻りしたがるっていうかさ(※と書いた後に調べたらバリバリ映画やってる人でした。えー)

とにかくそういうのを本当に純粋な感じでやってるのでクソミソには悪く言えない。言ってもいいけど言うと俺がすごいイヤなヤツに見えるからイヤだ。だから呆れるぐらいしか言えない。そうです呆れたんです。俺はこの映画を見て大いに呆れたんですよ、幼稚な日本のアラサー男に呆れたし、戯曲と映画シナリオの違いを考慮しないアダプテーションにも呆れたし、これ見よがしな映画オマージュにも呆れたし、役者を泣かせりゃエモくなると思ってる呆れたし、全面的に呆れた。そして僕は大いに呆れたんです。途方になんか暮れませんよ、呆れてただそれで終わり。

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なんか呆れの方向性が似てた映画。

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4 Comments
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匿名さん
匿名さん
2023年1月15日 5:10 PM

さわださん、こんにちは。ちょっと前さわださんの「わたしは最悪。」のレビューは最高よ!みたいなコメント書かせてもらった通りすがりの者です。私、当該作品を観てないのでわからないのですが、私、当該作品の主人公みたいな奴、リアルで知ってます。ウッカリそいつを好きかも?と思ったくらいに知ってます。だから、さわださんの気持ち、分かるような気がします。私にだったら、この映画の主人公の悪口、思う存分ボロクソに言えますよ\(^_^)/
多分、この主人公は、人に甘えるのが得意なんですよ。イタズラとかも得意だと思う。そんで、ちょっと可愛いと思う。私がそうだったから分かるのですが、必要とされたい病みたいな女は、このテの男はたまらないと思います。この人は、私がいなけりゃダメなのよ、みたいな。
私は、すぐに、バカくせェッ‼️アホらしやの鐘が、ゴンゆうてしまいですわ!って、回れ右しましたけど、出会ったのが若かったら、急な夜這いも泊めたり、貢いだりして大怪我してたかも?女をそんな男から何が救ってくれるかというと、貞操観念でもなんでもない。おそらく、いい思い出だけが、女を救ってくれると思う。

匿名さん
匿名さん
2023年1月16日 10:20 PM

ちょっと違うかもしれませんが、さわださんも「アイ・アムまきもと」のレビューで、自己満足のための献身、みたいな。本人に訊いたわけじゃないので知らないですが、そんな感じじゃないですかね。周囲にいた女たちとか友人とかって。あと、この主人公のこじらせ方はかなり深いかも?本人の性格以前に、父親が父親だから、困ったときや、真剣な話し合いが必要なときとか、とにかく面倒になったらそこから退場っていう思考回路しか知らないのかも?物凄い、喪失感を感じてるような気がする。何もする気がおきないくらいの。音楽の才能とかあればそれも美徳になるかもですが、よくいますよね。売れないバンドマンで、貧乏で、女にどれだけ貢がせたか?が自慢、みたいな。このタイプは呆れても、多分、通じないですよ。次、行きましょう。