【TVer】『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』感想文

《推定ながら見時間:45分》

怖いやばいとツイッターで評判になったものなんかたまに本物も混ざっているとはいえ大抵の場合は大したことがない。観た結果その思いを新たにしたのでこの番組は当然後者。ただつまらなかったわけではなく単に怖くないということなのでそのへんは先に書いておこうと思う。俺ねこれ観て思い出したの人気ドラマ『TRICK』に出てくるいかにも胡散臭いテレビ番組だったんですよ。『TRICK』面白いですけど怖くはないじゃないですか、不気味なムードは少しあっても。だから、そういうことだよね。『このテープ』も怖くないけど面白いっていう、そういう感じ。

でどういう内容かっていうとこれ俺ごときが改めて説明する必要あるのかよって思うんですが一応書くと二重の入れ子構造になったフェイク・ドキュメンタリー。テレビ局は案外昔の番組テープなんかは保管してない。っていうんで昔の番組を録画したテープをまだ持ってる方がいらっしゃいましたら番組に送ってくださーいスタジオのいとうせいこうと井桁弘恵とアナウンサーの人がツッコミとか入れながら観まーす、これが入れ子の外側。その設定の上でスタジオの面々は坂谷一郎のミッドナイトパラダイスというかつて放送された深夜番組の映像を観るわけですが、この架空の深夜番組にはビデオ投稿コーナーがあって視聴者から色んなビデオが送られてくる。で、その一つに心霊的なものが映り込んでいたことから坂谷一郎らレギュラー陣は少しずつおかしくなっていき、やがていとうせいこうら『このテープ』の面々までおかしくなっていく…というのがあらすじ。最後まで書いちゃったけどいいよね別に。どんでん返しがどうのみたいな番組じゃないし。

番組は30分1回として全3回、俺は配信で観てしまったがテレビ放送された際は3日間に渡って放送されたらしい。フェイク・ドキュメンタリーを3夜連続放送というのもチャレンジングなことだなとその点は大いに買うが、これをフェイク・ドキュメンタリーと言えるかどうかは1夜目にして既に怪しい。どう観てもフェイクにしか見えないフェイクなのだ。実際のニュースフィルムに嘘ニュースを混ぜた視聴者提供の昭和ニュース映像を観ようのコーナーはいかにもフェイク然とした映像になっているとしてもカラーをモノクロにしレトロライクのエフェクトをかけることで一応視聴者を騙そうとする意志ぐらいは感じられる。

しかし坂谷一郎のミッドナイトパラダイスになると…もう、出だしのコンパニオンガールの顔からして騙そうとする気がない。この嘘番組の時代設定は80年代前半だが、その化粧や髪型はどう見ても現代の女の人でしかないのだ。ミッドナイトパラダイス本編に入ると更に露骨で、言葉遣いやイントネーションが完全に現代そのままだし、だいたい化粧がどうとかイントネーションがどうとか以前にこの嘘番組に出てくる嘘出演者たちときたら『TRICK』に出てくる人みたいな芝居をするので、これではセットを組んだコントにしか見えないだろう。この映像で視聴者を騙せる率はゼロである(と思いたい)

ただ穿った見方をすると、それは制作者のセンスの無さというよりはむしろ、本当に本物の番組に見える偽番組を作ってフェイク・ドキュメンタリーであることを隠して放送したら視聴者からクレームが来るかもしれないしネットで炎上するかもしれない…みたいな局側の不安を取り除くための配慮だったのかもしれない。随分前のことではあるがPS2ゲーム『SIREN』の怖いCMがテレビで放送されたら怖すぎるじゃないかと視聴者から苦情が来て放送中止になったとかならないとかいう話もあり、ホラーは怖ければ怖いほど良いとついつい考えてしまう俺のような健全人間にはわからないことだが、世の中にはどうもホラーが怖いと怒る人というのが存在する。どう見てもフェイクとわかる演出が施されていればそんな人からの怒られは発生しないだろう…という狙いが仮に制作陣にあったとすれば、その現実の方がよっぽどおそろしい。

フェイク演出のダメさはそのように忖度するが、しかし構成については擁護のしようもなくダメ。というのもこの番組、一夜で提示される番組コンセプトは「視聴者から寄せられた色んな昔の番組を見てみよう」であるにも関わらず、昔の番組として流れるのは全3回通して偽ニュースおよび坂谷一郎のミッドナイトパラダイスだけ。全然色んな昔の(偽)番組を見る構成になっていないのだ。これでは二重の入れ子構造になっている意味がほとんどないし(たとえば、様々な番組をまたいで同じ怪異が映り込んでいたりしたら怖いじゃないですか!)、三夜続けて同じ偽番組を見ていたらさすがに飽きる。俺は第一夜に番組名のみ登場する「武田鉄矢の泣いて笑って武者修行」が超観たかったのに!

坂谷一郎のミッドナイトパラダイス内の投稿ビデオ(という体)は出来不出来はあるがとくに第一夜のものはほんのりした不気味さでよかったものの、それを受けて壊れていくスタジオの面々の狂気の表現は長々とやるわりには稚拙なもので、台詞にしても想像力が乏しい。こうなればこちらとしては『TRICK』風のコントとして受け取るほかない。そして『TRICK』風コントとしては別に出来が悪いわけではないので、まぁ、何が悪いかって、結局取るに足らないコンテンツを過剰に持ち上げていちいちお祭り騒ぎをしたがる暇なネットの連中が悪いんだよ。番組制作者としてはバズってにんまりでしょうけれどもさ。

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りゅぬぁってゃ
りゅぬぁってゃ
2023年1月24日 12:31 PM

YouTubeあたりにいる「フェイクのレトロ映像クリエイター」のクオリティの高さを改めて認識しました。

かもめーる
かもめーる
2023年1月24日 4:20 PM

SNSで流行する初めの方(多分)に見ましたが、フェイクドキュメンタリーでなく本当にこの手の番組であるという先入観を持って見てしまったので夜中に見た第1夜で滅茶苦茶ビビってしまった口ですw
第2、第3夜で段々と稚拙になっていったので回毎にインタビュー番組やドキュメンタリー番組等の方向性を変えてくれてたら陳腐化もある程度抑えられていたんじゃないかなとは思います。

aipen
aipen
2023年1月29日 2:36 AM

私もさわださんと大体同じで、昭和のテレビの「昭和っぽさ」の作り込みが甘いのも、支離滅裂な言葉の羅列で狂気を演出しようとする「いかにも感」にもちょっと白けてしまってイマイチ入り込めなかったですね。

あとネット上でなんか考察(笑)みたいなことしてる人がいるみたいですけど、こういうのって意味がわからないから怖いタイプのやつな気がするので、
謎解きにしてしまうと理に落ちちゃって面白くないじゃんと思ってしまいます。
制作側がギミック仕込んでるとしたらなおのことつまらないですし。

匿名さん
匿名さん
2023年2月26日 11:12 AM

これと同じ系統・同じテレ東制作で「Aマッソの奥様ッソ」という企画があったんですが“真相”がどれも安いエログロ映画から取ってきたようなものばかりで、これまた安っぽかったですよw
真相が安いエログロ映画なもんでメインの一般女性役もやたら美女が多くリアルさに欠け、肝心のモキュメンタリーとしての質が下がっているという残念具合
「このテープ」も「奥様ッソ」とはまた少し別の方向で安かったですねえ

匿名さん
匿名さん
2023年8月28日 1:56 PM

「ながら見ならこういう感想になるかな」という記事ですね
もう一度見る機会があるなら是非集中して見てください
と言っても再配信やってたの昨日までなんですよね…

匿名さん
匿名さん
Reply to  さわだ
2023年8月30日 3:45 PM

ばーか