《推定睡眠時間:0分》
この映画は絶対に観に行こうと思ったのは去年の11月末ぐらいのことじゃないかと思うが新宿ピカデリーのロビーに設けられたポスタースペースを二面も使ってこれのポスターが掲示されているのを見たからで、11月末といえば時の流れが俺より一足も二足も速い世間的にはもうクリスマスだしお正月じゃないですか。シネコンのポスタースペースにだって普通はクリスマスとかお正月公開の集客力のある大作メジャー作なんかのポスターが掲示されてる。ところが新宿ピカデリーはこの『BAD CITY』だったわけですよ。主演の小沢仁志の顔が新宿ピカデリーの真っ白なロビーと浮かれる客どもに睨みを利かせていたわけですよ! BAD CITY新宿のど真ん中で! それは観に行かなきゃってなるでしょ。こんなどう考えても観る層の限られてる映画をそれでも都内メイン上映館としてしっかり推す新宿ピカデリーの心意気に。
でも実際観たらねそんな観る層を限る映画じゃなかったよ。OZAWAこと小沢仁志はVシネのスターだしそのOZAWAを囲むのが加藤雅也、山口祥行、壇蜜、かたせ梨乃…ともう物凄いVな面子(小沢和義と中野英雄もカメオ出演)なのだが、アクションを除けばやってることはテレビの刑事ドラマと同じようなもので、Vシネマといえばやはり疲れたオッサンの娯楽の印象が強いが、この映画はわりと老若男女誰でもウェルカムな感じである。
最近さ、とくにサブカル系の人に多いですけどポリコレばかり気にしていると映画はつまらなくなる! とか、コンプライアンスなんてクソ食らえ! みたいなことを鼻息荒くして言う若い映画関係者っているじゃないですか。そう言いたくなる気持ちもわからんことはないけど、でもお前らOZAWAを見ろやと思ったね。OZAWAが製作と主演に加えて脚本まで担当しているこの『BAD CITY』、ヤクザと暴力刑事が殺し合いばっかりしてるのに勧善懲悪、これ見よがしの残酷描写やエロ描写、それに犯罪を助長するようなシーンは全然なく、男も女もヤクザも刑事も日本の人も韓国の人もみな平等な人間としてそれぞれの信念に従って戦うポリコレ&コンプラ完備っぷり。たとえ世界が腐っていても義理と人情と正義を信じて生きていけと観客を啓蒙までする正しさである。
その正しさによって映画がつまらなくなったかと言えば否、そんなことはないですから。むしろ逆に、この映画にはなかなかそこらへんの日本映画が達成できない本気のアクションと、それが喚起する映画的興奮があった。ポリコレやコンプラに従っていては描けない表現があることは俺も喜んで認めるが、そうした表現でしか映画が面白くできないと考えるなら、その人はたぶん映画作りの才能と熱意が足りない。ヤクザの出てくる映画にばかり500本ぐらい出ているのに露悪や反社会性で観客の耳目を集めようとはせず、あくまでもドラマとアクションの面白さで勝負しようとするOZAWAのアッパレな映画作りに、どうせアウトローになんかなれないのにアウトローを気取るサブカル人種は大いに学んでほしいものですよ!
と虎の威を借ってここぞとばかりに説教したもののそんなに持ち上げるほどの映画かと言えばそんなことはなく先に書いちゃったけどテレビの刑事ドラマなんだよなこれ、やってることは。韓国マフィアとコネのある財閥の人(リリー・フランキー)が街の再開発で悪さをしようとしていてこの人は検事総長まで金と権力で抱き込んでる、ってんでその悪事をなんとしてでも暴きたい検事長(加藤雅也)は超法規的に活動する特捜班を組織、その班長が殺人のかどで服役していた元アウトロー刑事のOZAWAなのであったというのがざっくりしたあらすじだが、陰影の濃いコリアン・ノワールを意識している風のOZAWAシナリオに対して『ハードリベンジミリー』『ベイビーわるきゅーれ』などのアクション監督を務めた園村健介による演出の方はテレビ的に平板で、照明はガンガン当てるからムードは出ないし役者の顔のアップとアップを繋ぐドラマ部分は安っぽい。なにもテレビ的な演出がすべて悪いとは言わないけれども、まぁでもこういう役者でこういうシナリオの映画ならそのへんやっぱマイナスなんじゃないだろうか。
そのマイナスを補うのは園村健介の本分であるアクションで、還暦のOZAWAが鉄バット片手にヤクザに殴りかかるのはまぁわかるが、関節技を決めにかかるあたりエエッと思ってしまった。還暦なのに総合格闘技なの? だが拳で戦うのはOZAWAだけではない。韓国マフィアの冷血漢・山口祥行、その部下の不気味な殺し屋TAK∴(記号読みにくすぎるので改名しないでほしかった)、特捜班刑事の三元雅芸、加えてなぜか特捜班に入れられた新人刑事の坂ノ上茜も見事な肉弾アクションを披露して、街の暴れん坊たちの入り乱れる集団戦闘はまるで懐かしのカンフー映画の世界。ドスとかズキュみたいな時代がかった打撃効果音が使われているためになんとなく迫力が出ないのはもったいない気もしたが、とはいえアクション自体はリアルヒッティング路線の本格派で、華やかさでは『HIGH&LOW』シリーズに圧倒的な完敗だとしても、熱量では決して負けてはいない。
正直こういう映画だとは思わなくてもっとこう暗い、ハードボイルドな、やはりVな感じの映画だと思っていたものだから多少戸惑ったところもあるのだが、坂ノ上茜や勝矢などの準主役級に留まらず脇を固める諏訪太郎らベテラン勢にもしっかり見せ場を作るから絵面は安いがゴージャス感もあり、観客を楽しませよう楽しませようというサービス精神が嬉しい、強面の見た目に似合わず間口の広いアクションエンタメって感じで良かったですねこれは。
【ママー!これ買ってー!】
OZAWAもともと室賀厚のオマージュ特盛り犯罪アクション『SCORE』でデビューしたアクション俳優だからむしろ『BAD CITY』みたいなアクションエンタメの方がヤクザVシネよりもOZAWAらしさが出ているのかもしれない。