監禁教育映画『デスNS/インフルエンサー監禁事件』感想文

《推定睡眠時間:0分》

果たしてどれだけの人が映画を観る前に気付いていたであろうか。『デスNS』。デスはわかる。しかしNSは? その謎は声に出してこの邦題を読んでみた時に改名された。ですえぬえす…デスエヌエス…デスNS!!! インスタっぽい何かのインフルエンサーらしきチアリーダー女が仮面の男に拉致監禁され〇時間以内に〇〇バスらないと即死亡! という映画の内容に合わせたSNSもじり邦題なのであった。

舐めるなと言いたいところだが映画を観ればそんな気力は雲散霧消。これはすごい。上映館であったヒューマントラストシネマ渋谷では一ヶ月前まで未体験ゾーンの映画たちというDVDスルーの映画を一挙劇場で大公開という年初の恒例企画をやっていたが、一般劇場公開が叶わずDVDスルーということはすなわち「これは映画館で公開しても売れないだろうな~」みたいな映画ということである。噛み砕いて言えばそんなに面白くないし基本的に安っぽいということだが、その二軍映画(※ただし中には異能すぎて一軍に入れてもらえないだけでポテンシャル的にはメジャーリーガーという映画もある)の列には加わらずに単独で一般劇場公開となった『デスNS』、予告編はちっとも面白くなさそうだったがまぁでも未体験ゾーンに回らなかった映画だしなと思って臨んだところ未体験ゾーンの映画のどれよりも安くつまらなく観客を舐め腐ってました。

人間とは不思議なものだ。つまらない映画を観るとムッとして文句を言いたくなる。しかし超つまらない映画を観ると文句を言ってもしょうがないしなとむしろ心に余裕ができてしまう。ダメな子ほど可愛いとはよく言ったものだ。子供じゃなくて大人が作ってるはずなのにこの映画は全面的にダメである。まず怖いシーンが一個もない。血は缶コーヒー半分ぶんくらいだけ出る。アクションとかもない。エッチなシーンとかもない。ストーリーは面白くない。カメラワークは死んでる。役者の人は全員演技に緊迫感がない。お金がないのでスマホの画面とかを作れずSNSがテーマのはずなのにSNSが一回も画面に出てこない。主人公はフォロワー数10万ぐらいのインフルエンサーらしいがまったくそう見えない。オチは酷すぎる上に途中で読める。良いところは一個だけあり、SNSをやりすぎるとよくないよと学べるところであるが、SNSをやりすぎたせいで拉致監禁される人は存在しないとは断言できないが基本的にいないのであんまり強めには学べないし学ぼうとする人はこんな映画観に来ない。全滅である。

だいたい開始五分でもう勝負を投げてる。俺がじゃなくてこの映画を作ってる人がである。廃工場に監禁されていることに気付いたチアリーダーに仮面の拉致監禁犯が迫る。「どうせ殺すんだろ! さっさと殺せ!」とチアリーダー。「そんなことはない。私の用意したインスタでバズりまショーのゲームをクリアすれば解放し」と拉致監禁犯が言い終える前に「どうせ殺すんだろ! さっさと殺せ!」勇敢なのか無謀なのかよくわからないが定番の命乞い展開を思わぬ角度から回避してきたチアリーダーに拉致監禁犯はうろたえてしまう。「君、私がなぜマスクをしていると思うのかね」「きったねぇ顔してるからだろうがこのクソメン!」「確かにイケメンではないがそうではない。君は私の声とか背丈を知っている、ということは顔まで見られてしまったら解放した後に警察に話されて私は逮捕されてしまうではないか。私が仮面を被っているということはすなわち君を解放する意志があるということなのだ」

明らかに拉致監禁およびデスゲーム主催者に向いていない犯人であった。「くっくっく…トイレが欲しいかね…あちらを見るがよい。バケツが見えるだろう。あれが諸君のトイレだ」「覗き見趣味かよこの変態野郎!」「くっくっくっ…安心したまえ、プライバシーを確保するためにバケツトイレの置かれた場所はちょうど監視カメラの死角になっているから私から見えないのだ」。下手したら日本の入管収容施設より収容者に優しい犯人である。「おっと、そこに落ちている鉄パイプなどを拾って私に襲いかかるのは得策じゃないぞ。それよりも大人しく私の言うことに従い、ご飯と八時間の睡眠をしっかりとって明日に備えた方がいいのではないかな? くっくっくっ…」絶対こういうデスゲームパロディのギャグ漫画あると思う。

犯人の優しさは留まるところを知らずチアリーダーの要求も留まるところを知らない。「おいホイップクリーム買ってこいよ! ホイップクリームないとバズれねぇよ!」「く…仕方が無い、買ってくるから10分待ちたまえ」。ちなみにチアリーダーは結局ホイップクリームとくに使ってなかった。「おい! タンポン買ってこい! タンポン分かるかタンポン! この童貞野郎!」「く…仕方が無い、買ってくるから10分待ちたまえ」「ハァ!? おめーの都合で10分ロスするんだったらバズり制限時間10分プラスしろよ!」「いやしかし…わかったよ! 10分延長すればいいんだな! 10分程度では結果は変わらないと思うがね、くっくっくっ…」監禁映画史上最弱の犯人じゃないだろうか。

こう書けばコメディとしか思えないがその演出はあくまでも真面目であり、SNS依存の危険性を訴えるメッセージもちっともこちらには響かないが本気である。チアリーダーは666をチームロゴとするデビルスとかいうチームのチアをやっていて監禁中はずっとその服を着ていたので、もしかするとキリスト教系の団体か信心深い個人が作ったホラー風味の啓発映画なのかもしれない。まぁ、なんでもいいよ。度を超えたヘッポコっぷりについつい頬が緩んでしまう、これは映画というよりマッサージなのかもしれないね。誰が観ても絶対にまったく少なくともホラー的な意味では面白くないという点を除けば悪い映画ではなかったよ。

【ママー!これ買ってー!】


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SNSにハマりすぎると危ないぞという啓発ホラーといえばこんなのもありましたね。こっちは『タクシードライバー』というか『キング・オブ・コメディ』の系譜の映画でちょっと面白い。

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