《推定睡眠時間:10分》
コロンビア旅行に出た母親とその再婚予定相手が行方をくらましちゃったってんで残された一人娘がそのGoogleアカウントにどうにかこうにか侵入して居場所を突き止めようとするくだりが序盤にあるのだがそのシーン見て俺なんか怖くなっちゃったよ。うわーGoogleみたいなネットサービスをフル活用してる人ってここまで筒抜けなんだーみたいな。ロケーション履歴とかやべーって。俺おもわずさっき自分のアカウントのロケーション履歴がひっそりとオンになってないか確認しちゃったよ。
娘が失踪したお母さんと一応その再婚予定相手もついでに探すシーンなわけだから基本的にはこれ良くないけどやむにやまれぬイイ行為として劇中では描かれてるわけじゃないですか。でも引く。それはもうそっとしとけよって思う。親とその再婚予定相手とはいえプライバシーってものがあるじゃない。だから二重に怖かったね。Googleみたいなサービス事業者に対するプライバシーの筒抜けっぷりも怖いし、それを善意から容赦なく暴く娘も怖い。その怖さって作り手はあんまり考えてないだろうから、なんかそういうズレが面白かったなこれは。
娘のサーチ行動って実はあんまり事件の解決に関与しない。本当はただ警察に任せておけばいいだけで自分でやる意味なくて、でも他人のプライバシーを暴いていると次々に自分が知らなかったその人の顔が見えてくるからそこにサスペンスもサプライズもミステリーも生まれる。急展開に次ぐ急展開の連続だから面白いんだけど、最後まで観たらめっちゃ徒労じゃん感すごかった。どうなんでしょうね、そこにあまり批判的な眼差しは感じなかったけど、ネットにかじりついて見なくてもいい情報をわざわざ自分から見てしまい、そうして生じた不安を解消するために更なる情報をネットで漁る悪循環に陥りがちな現代人に対する警鐘とか風刺とかが幾分かここには含まれていたりするのだろうか。それとも単に展開を面白くするためにそうなってるだけなのだろうか。どちらにせよそういうズレがこの映画にはあって、ストレートなミステリーだった前作(でもないのだが)とは同じようでいてまた違う印象になっていたのはよかったと思います。
さてティムール・ベクマンベトフがプロデュースしている全編PC画面のみで進行する「スクリーン・ライフ」シリーズの最新作であるこの映画、いやー、もうスクリーンライフ映画でできることは大抵やりきったんじゃないのこれでっていう感じがあるね。『アンフレンデッド』二作と前作『search/サーチ』との大きな違いはこれらが劇中時間と実時間が基本的に一致するリアルタイム制を採用しているのに対してこちら『search/#サーチ2』は大胆にも編集でガンガン時間を飛ばす。そして画面もこれまでの(ベクマンベトフの)スクリーン・ライフ映画は主人公の視点でPC画面を見る一人称だったのに対してこちらは主人公のPC画面だけではなく他の人のPCやスマホ等のデジタルデバイス画面にガンガン切り替わったりする。
うん、もう限界を感じたんでしょうね。一人称リアルタイムでPC画面ばっか見ててもぶっちゃけ面白くないというスクリーン・ライフ映画の最初からわかっていた限界に今回の作り手はぶち当たったのでだったら一人称でもリアルタイムでもなくせばよくない? という答えに行き着いたようなのですがいやもうそれならスクリーン・ライフじゃなくて普通の映画でよくない? ってなるのでたぶんこれがベクマンベトフのスクリーン・ライフ映画の終着駅。
なるほど最終回としてはコロンビアロケ(※スマホ撮影)なども敢行し前作の出来事は実録ドラマとしてNetflixかなんかで映像化されたというメタフィクショナルな設定で一般のフィクション映画的な場面も登場し(それを主人公がPCで見てるという強引さ!)誠におめでた感のある賑やかな映画になっておりよかったかと思います。それでその展開から導き出される結論は「ネットだけで事件の捜査をするのはやっぱ無理」なのだからなんだか作り手の心情がそこに透けて見えるようだ。めでたい上にメタい映画である。
わたしはロボットではありませんでお馴染みGoogle reCAPTCHAの写真パネル選択で車のパネルだけ選べとあるがこのバンパーがちょっとだけ本当にちょびっとだけ突き出したこのパネルはこれ車パネルかそうじゃないのかどっちなんだよ的な絢爛たるネットあるあるに彩られた素人捜査パートは起こっている出来事はシリアスなのだが存外ユーモアが随所に配され、緊急事態にも関わらず海外のネット派遣捜査員を買い叩く主人公など良い意味で思わずガクッとくるシーンも少なくない。このへんも前作とは異なるところか。その一方で『アンフレンデッド』二作の成果が生かされたと思われるホラー調のシーンもあって硬軟自在、前作以上に娯楽性が高くて面白かった。
面白かったけど、でももうスクリーン・ライフ映画これで最後でいいと思います。
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『2』の方はあんまりそういうところがなかったのだが『search/サーチ』は主人公ジョン・チョーの一人芝居がなかなか見事で一人芝居映画として面白かったりもした。