情熱ゴア映画『テリファー 終わらない惨劇』感想文

《推定睡眠時間:20分》

スター不在の低予算ゴアホラーが単館スタートからのまさかの大拡大公開+全米興行収入ランキングベスト10入りとかいうだけでも驚きなのにそのランタイムを見て目が飛び出してしまった。138分。正気か? だってゴアホラーでしょ。殺人ピエロが人殺しまくるだけでしょ。138分て。いったい何があってそんな超大作に肥大したのか。普通の映画監督ならゴアホラーだいたい90分ぐらいだろの感覚を持っていると思われるし観ていないが前作(これは2作目らしい)もそれぐらいの尺のはずである。それを40分も伸ばすとなるとこれはよっぽどのことではないだろうか。ゴアホラーの作り手が40分もランタイムを伸ばして入れたいもの…とくればゴア描写しかない。名探偵デュパンもびっくりの超明晰理性的推理により俺の脳はおそろしい想像に到達してしまった。すなわち、この映画『テリファー 終わらない惨劇』、138分ずっと人間を解体している狂気の映画だということである。それは観たい!

でも実際観たらそんなんじゃかなりなかった。なんでこんなに無駄に長いのかというと殺人鬼アート・ザ・クラウンと戦う主人公姉弟周りの描写をものっそいダラリダラリとやっている上にあんまり意味のないカットバックとかを頻繁にやって歯切れ良く物語が進んでくれないのでそれで尺伸びました。なんだよそれ単に監督が下手だったってだけじゃないか! そんなことってあるのかよ! まぁあるだろうけどそれがアメリカで驚愕のヒットを飛ばしたっていうのが謎。映画にやさしい国民性ということだろうか。

まぁとにかく長くてタルい映画だった。アート・ザ・クラウンが人を殺しまくる部分はおそらく前作そのまま、手際よく血みどろに人体を解体してくれて(この映画に出てくる人たちは生命力が尋常ではないので頭の皮を剥がされようが手足をもがれようが死なずにずっと叫んでる)無駄がないのだが、今回は主人公側にファンタジー要素が入ってきててそれがかなりの蛇足感だ。アート・ザ・クラウンは人間ではないらしいので普通に殺そうとしても殺すことができない。こいつを殺すための特別なファンタジーパワーが実は主人公には宿っていたのだ…というプロットにすれば一行にも満たないストーリーを語るために父親の死がどうとか弟との関係がどうとかえらく迂回するんである。切れ、そんなもんバッサリと。なんか力の存在を暗示する夢でも冒頭で見させとけばいいよそれで客納得するから、ふぅんそういうもんなんだなって。

とにかく遅々として話が進んでくれない映画なので大虐殺の夜が始まるのは映画開始おそらく一時間を過ぎてから。昼間っからポチポチと殺してくれてはいるので飽きるという程ではないがドライブ感はかなり薄い。まぁスラッシャー映画はエンジンさえかかっちゃえば終わりまで一直線だからね、と思って観ていたがこれは普通のスラッシャー映画ではなく下手なスラッシャー映画なのでエンジンがかかったなという瞬間が何度も訪れては止まる。ヒドいのは主人公のファンタジー能力が開花する終盤30分である。どうせそれ以外こっちは期待してないんだから殺人鬼に出会い頭無差別殺人をしてもらえばいいのに主人公姉弟を殺人鬼が延々追う、そして何度も捕まえて叩いたり刺したりするのだが、それで死んだかと思えば姉も弟も一向に死なない。でその度に反撃をして殺人鬼の方が死んだかなと思ったらこっちも死なない。コントじゃないんだから。こうなれば緊張感もなにもあったものじゃないしゴアくもないので何がしたいんだと思う。あと主人公のハロウィンコスプレのメタル感がダサい。

でもそういうもんなのかなとちょっと思ったのがさ、俺さいきん新宿ビデオマーケットで最近のアメリカのゴア映画とかちょいちょい買って観るようになったんですけど、ああいうのって大抵緩急とか抑揚とかなくて、5分のスラッシュメタルのMVみたいなホラーイメージ映像集を引き延ばして90分ぐらいにしてる感じっていうか、MV的なイメージ先行の作り方で長編映画を作ってるんですよね。だからシナリオっていうのはあってないようなもので、様々なシチュエーションのゴア描写であるとか、それに様々なエフェクトをかけたりなんかして、「これ面白いだろ!」っていう映像をただ並べただけって印象になる。あと感性と音楽がだいたいメタル。

この映画がやたら長いのも要はそういうことだと思うんですよね。長編映画のシナリオの組み方がよくわかってないのでゴア映像×ファンタジーじゃなくてゴア映像+ファンタジーになる。ストーリーに整合性とかあんまなくて意味のわからないシーンが多い。でそれが悪いことともたぶん作ってる方はあんまり感じてないんですよね。ゴア映画の作り手がメタルに傾倒しがちっていうのはたぶん偶然ではなくて、それがポジティブなものであれネガティブなものであれ感情のストレートな発露を尊ぶって点でゴア映画とメタルって似てる。スマートに外見を整えることはしないで内面を剥き出しにして見せたがる。巧い映画ってかけ算で作られてますけど、それってスマートにやるってことじゃないですか。だからこの映画はゴア映像+ファンタジーの足し算になってると思うんですよ。自分の思いの丈を一つ残さず全部映画に焼き付けたい。それは巧い映画の作り方ではないだろうがそんなことは知ったことか! というね。情熱的なんですよゴア映画の人って。

まぁでも興味ある人の情熱なら見てて楽しいけど、あんまり興味ない人の情熱を見せられてもこれはかなり悲しいことだがぶっちゃけ逆に白けたりするからな。俺はデヴィッド・リンチの情熱が込められた18時間の映画だったら喜んで観ますけど『テリファー』の監督の情熱18時間はいや俺はいいっすわ~ってなるよ。とはいえ、この映画に関して言えば出てくるゴア描写はどれも劇場公開用映画としてはおそらく過去最高クラスのハードゴア、そのノリのまま突っ走ってくれないのでこんなにゴアいのに普通に寝てしまったが、一見の価値があることは間違いない。笑えるシーンもまぁまぁあって楽しいので途中でおしっこ行ってもロビーに出てLINEチェックしたりしてもいいからホラー映画が好きな人なら見逃さずに映画館に行っておこう。最悪ゴアだけ観ればいいから…てかそう編集してくれたらよかったのにネ!

【ママー!これ買ってー!】


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上映時間が短いからたぶん前作の方はゴア博覧会になってるんでしょう。

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