これがアメリカの砂漠だ映画『アステロイド・シティ』感想文

《推定睡眠時間:50分》

今ウェス・アンダーソンの映画っていうと映画好きな人の多くはシンメトリーで人工的でカメラの動きは直角的でみたいなのイメージすると思うんですけど昔のウェス・アンダーソンの映画って別にそんなじゃなかったよね。なんかもっと普通の映画の撮影スタイルで撮ってて映像美がどうとかっていうよりも何らかの才能はあるんだけどその他の部分がわりとダメな愛すべき天才バカたちのやりとりの可笑しさで見せる映画だったじゃん。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』とか。

それがどっかからか変わっちゃって…どっからかっていうかたぶん転機は『ファンタスティック Mr.FOX』なんですよね。これでウェスアンはじめてストップモーション・アニメ撮ってみて、そしたらそのスタイルがめっちゃ気持ちいいことに気付いちゃったのか次の『ムーンライズ・キングダム』もストップモーション・アニメみたいなセットとかカメラワークで撮って、それで役者の芝居とかもその前はもっと人間的な動きがあったのに全員常時無表情になっちゃって、それが今に至るまでどんどん極端になっていってっていう。だから「ウェス・アンダーソンといえば!」みたいな感じで今のスタイル出されると俺まだピンと来ない。別に『ファンタスティック Mr.FOX』以前のウェスアン映画にも思い入れとかないんですけど今のスタイルはもっと思い入れない。キッチュになったロイ・アンダーソン映画でしかないじゃんぐらい思うもん。

そんなわけだから「ウェス・アンダーソンといえば!」のスタイル全開でお出しされたこの『アステロイド・シティ』、退屈したとは言わないがとくに面白くもなかった。なんか近くに核実験場のあるネバダ砂漠のどこかに仮設の町みたいのがあってそこで天才コンテストとかいうのがやるっていうんでいろんな人が来たりなんかしてそしたら宇宙人も来て軍が出てきてみたいなことになるらしいですけど大半寝てたからよくわからん。核とか宇宙人とか出てくるからアメリカ人がアメリカの砂漠というものに対して抱くイメージを凝縮した映画ということだろうか。ラストにはカギカッコ付きのカーチェイスもあった。砂漠を爆走するボニー&クライド的ななにかとそれを追跡するパトカー。ロードランナーもバタバタ走ってミッミッて鳴いてる。本物のロードランナーもあんな風に鳴くんだろうか。しかしそれにしてはラスベガス的ギャンブルとネオンが一切ないのが不思議な気もする。

そのような書き割り的舞台を眺めるのは絵本のようで楽しくはあるが前作『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』のようにオムニバス形式で舞台がコロコロ変わるわけじゃないのでわりと最初の方で飽きてくる。天才ダメ人間の滑稽ドラマも天才コンテストやってるぐらいだからあったのかもしれないが登場キャラクターたちはみな砂漠の風景と同じようにフラットに扱われるのであまり吸引力を持たない。よく考えたらアメリカ人の持つ砂漠イメージを凝縮したところでなんなんだろうという気もしてくる。それに対する考察というか批評のようなものが物語にあればまだわかるが、これではちょっとだけ動くイラスト地図のようなものではないか。イラスト地図を見るのは楽しいけれども。

というわけで寝た。大きな音などあまり出ないしスクリーンの明度もあまり変化しないので気持ちよく眠れる映画だった。快眠映画・リラクゼーション映画としてはそれなりに優秀だが、ウェスアン映画これからずっとこの路線なんだろうか。そのつもりならもういっそのこと人形アニメとかにしちゃえばいいのではとか思うのだが。マネキン置いて『オー! マイキー』みたいな感じで。そういえば今度『オー! マイキー』の石橋義正の新作映画ひさびさにやるらしいよ。

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しかしこのへんのウェスアン映画観ると本当今の路線とまあ共通するところもないではないけど少なくとも絵面的には全然違うよねぇ。

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