突っ走れ映画『悪魔の追跡 4Kデジタル・リマスター版』感想文

《推定睡眠時間:15分》

よりによってついに悪魔の本格追跡が始まろうとしていたそのタイミングで眠ってしまいカーチェイス後半戦で目を覚ますというおそらく呪いの力によるものであろう惨事に見舞われたのだがまぁ前にもビデオで観てるし配信もDVDもあるから観たくなったらまた観ればいいとして最近ほら鳥山明原作の『SAND LAND』っていう映画が公開されて全然ヒットしてないじゃないですか。ヒットしてないは完全に余計な一言なんですけどあれ観てさ気持ちのイイ映画だな~って思ったんですよ俺。一直線なんだよな。砂漠化した世界が舞台でその中の小さな集落を救うために水源を探しに出た保安官と悪魔くんが一直線に砂漠をずーっと進んでいってその果てに辿り着いたところで映画終わっちゃうんですよ。

もちろんその道中には行く手を阻む敵がたくさん待ち受けていて要所要所でバトルになるんですけど、回り道っていうのをしないんです。それは道程もそうだしドラマ的にも細かい悩み事なんかない。こうと決めたらこうする。そこに葛藤はあっても迷いはなくて…ということは『SAND LAND』の感想として既にグダグダ書いたのでここではそれ以上繰り返しませんけれども、とにかくそういう映画っていうのはイイ。なぜなら今の映画は俺の感覚では回り道ばかりしているし、そのために上映時間もどんどんどんどん無駄に伸びてぶっちゃけちょっとうんざりしているから。回り道をすれば作品世界が多角的かつ重層的に描けるというメリットは確かにあるし、アメリカの連続ドラマなんかに慣れたイマドキの人はそういう作劇をきっと好んでいる。

たしかスマホゲームの『FGO』だったと思うがそのクリエイターが「余白を全部埋めることが成功に繋がった」とインタビューで語っていた。余白とはつまり設定であり説明。容量的にもスマホの性能的にもゲーム性が限られているソシャゲなんか他のゲームと差別化できるところといったらキャラの設定でしかないとも言えるので、ユーザーは設定の塊をむしろゲームの核として捉えている、らしい。これはソシャゲの話であって物語の隙間を自分で想像したりはしないでとにかく全部見せて欲しい教えて欲しいという欲望が必ずしも映画の観客の欲望と被るとは言えないが、でもマーベル映画とか観るとやっぱそういう欲望を満たすように作られてますよあれは。だから最近のメジャーな映画とかっていうのは回り道の映画なんです。マーベル映画の新作を観るためにファンがどれだけディズニープラスで配信されているドラマシリーズを回り道することか!

そんな回り道映画全盛期に映画館のスクリーンをぶち破ってやってきたのがド直線映画の『悪魔の追跡 4Kデジタル・リマスター版』であった。はぁ、癒やされる。およそ半世紀の時を経て蘇った『悪魔の追跡』はなんとヒーリング映画と化していたよ。ビッグリッチキャンピングカーで休暇に出たそこらへんの成人男女が邪教の生け贄儀式を目撃、とりあえず警察には行ったしもういいか忘れよう…と休暇を続けようとするもののどうも周囲の田舎者の目線が気になり休暇を楽しめないしあと愛犬とかが殺されたり毒蛇を仕掛けられたりしていやこれ絶対あの邪教集団の仕業だろ! ということで邪教集団の魔の手が刻々と忍び寄りついにはカーチェイスにまで発展するわけだが、この絶対に休暇を楽しみたい都会の連中VS絶対に儀式のことを口外させたくない邪教集団の妥協の余地なき正面衝突っぷりが本当に一直線で清々しい。清々しかったので絶対にそんなことはないのだが映画が終わった直後は世界で一番おもしろい映画だと思ってしまった。

はたして邪教集団の正体とは…そんなもの知らない。なぜ主人公たちはそこまで休暇をしたがるのか…そんなものも知らない。知らないし知る必要もないことだ。これは単に本来なら遭遇するはずのなかった別の文化圏に生きる人たちがもしもまかり間違って電撃遭遇してしまったら…という状況とその顛末だけを描いた映画だし、すべての映画がそれでいいとは思わないがアクション映画とかホラー映画なんかぶっちゃけそれだけでいいよと思う。逆にそれ以外に何が必要なのだろう? 邪教集団の背景なんかくどくど描いてしまったらせっかくの不気味ムードが台無しじゃないか。コワイものはたいていの場合その正体がわからないからコワイのだ。夫婦二組計四人の主人公たちに家庭内不和がどうとかみたいなドラマなんかホラー映画を観に来る人は本当に見たいのか? そういうのが観たかったらちゃんとそれをテーマにした人間ドラマの良作秀作が今は常時映画館でやってると言っても過言ではないのだから、そっちを観に行けばいいのだ。

事件に次ぐ事件、不穏に次ぐ不穏、その頂点で爆発する荒々しいカーチェイスの興奮と、そして突然の幕切れがもたらす虚無的なカタルシス。ピーター・フォンダ×ウォーレン・オーツのニューシネマな顔合わせにはシナプスがプスプスと繋がり様々な映画の記憶が呼び起こされるが、それはそれで楽しいとしても、主演二人の役名が「ロジャー」と「フランク」とかいう3秒で考えた名前としか思えない映画になにか深い意図などないだろうから、あまりあーだこーだと語っても虚しく上滑りするだけだろう。これは単にコワイことが起こるだけの映画で、それ以上の何物でもない。だからこれこそがホラー映画だぐらい言いたくなるし、世界で一番面白い映画だとも、たとえ束の間の迷妄であったとしても、ついつい思いたくなってしまうのだ。

【ママー!これ買ってー!】


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この「深く考えて撮ってないけどなんかヤバイの撮れちゃった」感は『悪魔のいけにえ』とも通じるところがないでもない。通じるというか便乗作なのだろうが。

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