《推定睡眠時間:15分》
面白かったんですけどこういう映画にはもう何を言ったらいいかわからない。原作漫画がヤンジャン連載なわけじゃないですか。それで連載漫画って週刊でも月刊でもとにかく毎回なにかしらの見せ場があって面白くないとダメなわけじゃないですか。連続ドラマとかと一緒だよね。毎回面白いから視聴者は見続けてくれて、たとえそれがストーリーを語るために必要であってもつまんない回があったらもう続きを見てくれない。だから連載漫画とか連続ドラマは毎回ぜったい面白い。少なくとも作り手の狙いとしてはそう。
それを2時間の映画に落とし込むとなるとなにやら漫画原作ものの脚色翻案についてネットというか主にツイッターがかまびすしい当今ですがまぁ基本的には無理がでてくる。映画は2時間とか長くても3時間で起承転結全部やらないといけないわけじゃないですか、娯楽映画の場合なんかは。連載漫画とか連続ドラマってそうじゃないわけですよね。映画に比べてストーリーの分量が単純に多いから面白ければいくらでも寄り道していいしどんどん引き延ばすこともできる。映画は起承転結を意識してシナリオを組みますけど、連載漫画とか連続ドラマはその場その場でのオモシロが最優先だから全体的な起承転結ってあんまり意識しないっていうか、映画が起承転結なら連載漫画とか連続ドラマは初回に起を描いたら後はずっと承転承転承転承転承転承転って続けてく。そういうものを原作にして2時間の起承転結に収めようとしたらそれはイビツにもなりますよ。
でもイビツになるのって逆に言えば起承転結にしようとするからでしかないってのがこのあいだの『沈黙の艦隊』とこの『ゴールデンカムイ』を観てよくわかった。起承転結の作りにさえしなければ映画でもイビツにならないし承転承転承転の連続で毎回毎回必ず面白い原作の良さが実写映画でもちゃんと出せる。原作は読んだことないですけどこの映画は2時間ずっと面白かったからたぶん原作の良さちゃんと出てると思います。キャラも良いしアクションも良いしギャグもまぁ今回はわりあい控えめですけどちゃんとあるし。戦間期日本の北海道でアイヌ埋蔵金を巡るクセモノどもの殺し合い? イイじゃない、いまだ追随者が出ていないコリアン・ウエスタンの傑作『グッド・バッド・ウィアード』みたい。ゴルカム原作者の野田サトルって人ぜったいこれ観てると思うな。『グッド・バッド・ウィアード』が下敷きにしたマカロニ・ウエスタン『続・夕陽のガンマン』も。ってかマカロニ・ウエスタン全般好きだと思うわ。
起承転結を作ろうとするから原作もの映画はイビツになる。ということでこの映画には起承転結がない。起承はあるけど転結はない。すなわち、キャラクター紹介編。というわけであと何作かはわからないが『キングダム』(トリアーじゃないほう)みたいに年一ぐらいのペースで今後も続編が作られ続けるかもしれないし、実写映画版『沈黙の艦隊』は実は今やってる配信ドラマの短縮版的宣伝ムービーのようなものだったらしいが、これも続きは配信ドラマかなんかでやるのかもしれない。なんにせよ、この映画がこれ一本では何も完結していないことだけはたしかである。
面白いけどこうなるともう映画ってなんだろうみたいな感じにちょっとなってくるな。まぁ別に映画は2時間で起承転結をやらないといけないなんてルールはないんだし、そのむかしは連続活劇といって今で言うテレビドラマのようなものを映画館で流してたこともあるわけだから、ある意味こういう続編を前提とするどころか続編が作られないとストーリーが成立しないような映画というのは、娯楽映画の原点回帰とさえ言えるのかもしれない。
でもなんかイヤだわ。だってシネコンでやってるのそんなんばっかなんだもん。『キングダム』も三本ぐらい続編やってそろそろ飽きてきたけど全然終わる気配ないし、『沈黙の艦隊』にはえー俺ちゃんと金払って映画館行ってきたのにあれドラマ版の予告編みたいなもんだったのーなんか騙されたわーって思うし、『ジュラシック・ワールド』はやっと終わったかと思ったらまだ続くらしいし、そういえば『デューン』も前編がマジで前編で今度公開される続編で本当に終わるのかよくわかんないし、アメコミ映画は関連作観てないとなにやってんのかよくわかんないのに関連作がとにかく無駄に多すぎるし、だから俺はマーベル映画とかでもソニーがやってる『モービウス』みたいな単品作が好きなのに、なんか知らんが単品作は軒並み評価が低いし。
もうなんかそういうの疲れたんだよ。年に何回かしか映画館に行かない人はいいかもしれないけど俺は週に5回ぐらいは行くんだよ。それでまぁシネコン映画に限ればですけれども毎回毎回はい続編に続きまーすまた来年お金を払ってねーの商売をやられたらげんなりさせられますって。観終わった後の映画観たなっていう充実感もないし。でもそんな充実感なんか今のシネコンの観客は別に求めてないのかもしれないな。求めていないというか、そもそもそういう充実感を映画館で体験したことがないのかもしれない。
まぁいいや。連載漫画的な意味で面白かったから別にいいです。演技とかも漫画の演技だしリアリティラインも漫画。漫画の実写化なんだからそれも正しい選択なんじゃないですかね。キャストは舘ひろしみたいな大物よりも中堅どころの充実っぷりが良し。演技の幅が広くカメレオン的にどんな役でもこなしてしまうためか漫画原作映画でやたら顔を見る「バイプレーヤー界の山﨑賢人」こと矢本悠馬も網走死刑囚・白石の役で結構活躍して俺満足。ちなみに白石と一緒に登場してすぐ死ぬ人も実写版『忍者じゃじゃ丸くん』などに出ていた実写版役者だった。
原作をまともにやるとしたら単純計算であと9本ぶんほどこの承転承転が続くってことになるからここから先はどれだけ切り詰められるかがキモのひとつであり原作ファンはこの最初の1本の再現度が高い!とか喜んでる場合じゃないよなあというのが憂いなんだけど杞憂に終われば目出度いなあ…
まあ漫画の実写化の再現度が高いってことがそこまで重要なのかというのがそもそも疑問ではあるけど
映画会社の方としてはむしろ伸ばせるだけ伸ばして客から金を絞りたいはずなので、客と映画会社の利害が一致してしまっているのが今の時代の不幸なのかもしれず、でもそれで損をしている人は文句ばかり言ってる俺みたいな逆張り映画オタクぐらいなので、逆に幸福なのかもしれません・・・まぁ、現代の寅さんシリーズとでも思えばいいんでしょう・・・
こうきたね…
https://kamuy-movie.com/drama/index.html
承転の連続ならまぁたしかにドラマ化のほうが映画より合ってるのでいいんじゃないでしょうか!観ませんが!