これこそ贅沢なんだ映画『ポーカー・フェイス/裏切りのカード』感想文

《推定睡眠時間:0分》

ラッセル・クロウの初監督作かーと思って観に行ったしそう思ったまま観終わったが今映画サイト見たら2014年にも『ディバイナー 戦禍に光を求めて』という映画を撮っているのでこちらは監督2作目らしかった。全然知らん。それ劇場公開されたの? 役者としては近年『ヴァチカンのエクソシスト』などの華やかな役もあったが基本的にはロバート・デニーロのように渋い役を好んで演じるいぶし銀の重量級、その監督作もまた『戦禍に光を求めて』というサブタイトルを見る限りではかなり重量級で、ラッセル・クロウほどの知名度を誇る役者の監督作なのにキャッチーさが皆無なので一般の映画ファンから光を当ててもらえないというあたり、結果論かもしれないがこの人のキャラに実に合った映画といえるのかもしれないかった。

ということでその監督第2作目もいやまた渋い渋い! なにせ題材がポーカーと来た。カーチェイスなし、爆発なし、銃をちょっと撃つところはあるが銃撃戦という感じではなく、基本はポーカーをやるために集まったかつての仲間たちと主催者ラッセル・クロウの会話劇。これは渋い…斜陽の気配が漂っているとはいえ派手派手しいアメコミ映画がアメリカ映画を席巻し、非アメコミ映画でも『バービー』とか『オッペンハイマー』とかセンセーショナルな題材・演出を取る映画がハリウッドの主流という文化の退廃状況にあって、別荘でポーカーをやりながら旧友と話をするノワール映画だなんてあまりにも渋すぎるだろう。日本の観客はもとよりこれでは本国アメリカの観客にも見向きもされないに違いない(※オーストラリア映画でした)

だがしかし、その客に媚びない映画作りは俺のようなひねくれ映画ファンにはたいそう好感の持てるものだ。各キャラクターの背景を掘り下げればいくらでも長くなりそうなところをバッサリ切って上映時間94分。まずその潔さがイイ。そのうえ演出は奇を衒ったところのない正攻法で、はっきり言ってしまえば凡庸だししかもちょっと下手な感じである。それもまたイイのだ。才人気取りで変な演出をやってみるというのも別に嫌いではないが、俺の考える映画、俺が観てきた映画とはこういうものだという演出を武骨にやる。上手い下手を超えて、その姿勢には何かグッとくるところがないだろうか? ないと言われたら結構おっきい声で「そうだね!」って言います(一人で)

観ていて感じたのはまるで1940~1950年代のB級ノワールのようだということだった。RKOとかが作ってたやつ。一応大金持ちの超豪華別荘が舞台にはなっているが主な舞台はそこだけなので、見た目のゴージャスさに反しておそらくこれは結構な貧乏映画のはず。1940~1950年代のB級ノワールというのもB級というぐらいだから金なんか全然ない。金なんか全然ない中でどのように工夫して面白い映画を作るか…そうした映画職人たちの創意工夫がこの時代のB級ノワールに後年のノワールとは異なる特異な相貌を与えているが、その感覚が『ポーカー・フェイス/裏切りのカード』、ちょっとあったね。

金持ちの別荘の、それもほとんどポーカールームだけを舞台に、どう面白く映画を作るか。94分の上映時間を保たせるか。ラッセル・クロウはそこにちょっとしたサスペンス、ちょっとしたミステリー、ちょっとしたアクション、ちょっとしたどんでん返しと、ちょっとしたホロリイイ話感を手際よく加えて、あの時代を感じさせる職人的ノワールを作り上げた。ちょっとしたものでもたくさん集まればお腹いっぱい。いや、腹八分目ぐらいかもしれないが、ある意味ではそれこそがこの映画の美点であり美学だろう。語るべきことだけを語りそれ意外は観客の想像に委ねる。こんな風に観客の知性と良心を信じる映画は、今も昔もハリウッドには多くない(※もう一度書きますがオーストラリア映画です)

古くさいと言われればそうかもしれないし地味と言われてもそうかもしれないし物足りないと言われてもきっとそうだろう。けれども、だからこそこの映画にはアメリカン・ノワール黄金期の豊穣な空気が少しだけある。最近ではやたらと値段の高い映画館のシートがたくさん売られているが、こんな小さな映画をゆったりと小さな映画館で観ることこそ、本当の意味で贅沢な映画体験なんじゃないだろうか。好きな映画だな、これは。

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さるこ
さるこ
2024年3月8日 8:18 AM

こんにちは。
〉※オーストラリア映画でした
はっはっは!私も何度も思いました!
地元の人はこんな映画をフラッと見に行くんだなぁ、とゆるく感動していました。貴殿が早速レビューされててほっこり(?)しました。
ワタクシ的には美術オタクの盗賊がツボでしたー。

ガイ・リッチーの『コヴェナント』のレビューも…期待