でもやるんだよ映画『DOGMAN ドッグマン』(2023) 感想文

《推定睡眠時間:50分》

原題も邦題もまったく同じ『ドッグマン』(こちらは英語を並べているが)という映画が何年か前にあってそれがなかなか面白い変な映画だったのでこの映画『DOGMAN ドッグマン』とは一切関係がないのだがタイトルだけ挙げておくとしてさて『DOGMAN ドッグマン』の方ですがわんちゃん! わんちゃん! わんちゃんパニック!

あるところに何十匹もの犬と一緒に暮らす女装家の男がおったそうな。なんでもこの男、わんちゃんと心が通じており、法の力の及ばぬ問題などを解決してほしい時にはお願いしに行けばわんちゃんパワーで解決してもらえることもあったりするのだという。わんちゃんだからとナメではいけない。わんちゃんが本気を出して矢のように走ればチカーノギャングの下っ端どもなど敵ではなく、下っ端どもがポカンとしているうちにチカーノ親分のキンタマに噛みついたりしてやっつけてしまうのだ。それはでかいわんちゃんの話だろうと思われるかもしれない。しかし、小さいわんちゃんでも充分に人間殺傷能力があることはこの映画の終盤のバトルシーンを見ればわかる。チワワなど愛玩犬として愛でる人はこの現代日本には多いだろうがあれは実は逆なのである。チワワちゃんも本気を出せば飼い主など簡単に殺れる。しかし、飼い主人間はチワワちゃんに存在を赦され生かされているのである。

映画はこの必殺わんちゃん仕事人の男が呆気なく警察のお縄を頂戴するところから始まる。どうも尋常ではない様子なので事情を訊くために精神科医が派遣されたところこの男ドッグマンが語り出したのはわんちゃんたちと共に過ごした驚愕の半生…と言われてもである。これはリュック・ベッソン監督最新作ということでベッソンが脚本も書いているようだが、昔から別に上手い脚本を書く人ではなかったとはいえ、やはり構成に少し難があったんじゃないだろうか。だってドッグマン生きてるわけでしょ。そこがメインといえるかどうかは結構微妙なのだが一応チカーノギャングとドッグマンのバトルとかも描かれるので、そうなるとさぁ…え、でも勝つんでしょ? みたいなさ。結果がわかってるわけだから緊張感がないよな。

しかもこれ最近のツイッタートレンドに乗って「犬は無事です」っていうのを大々的に打ち出していて。どれぐらい大々的って映画館に置いてあった宣伝のスタンディに「犬は無事です!」ってでっかく書いてあったもん。俺わんちゃん大好きですけどそれはネタバレじゃない!? いや、世の中には映画の中とはいえわんちゃんが死ぬのは観たくないっていう人もいるから、そういう人に配慮してる&そういう人にも観に来てもらいたいのはわかるんですけど…だってそしたらさ、ドッグマンも死なないことが回想形式によってわかってるし、ドッグマンが使役するわんちゃんも死なないことも事前に公式ネタバレによってわかっちゃってるわけじゃん。それはバトルシーンとかになっても興が乗らないじゃないですが…一方的に敵の方だけわんちゃんにやっつけられるのあらかじめ知ってるんだもん…セガール映画かドンソク映画かよって思うよ…。

そりゃそういうネタバレがあったとしてもコメディ調の映画ならいいですよ。実際チカーノ群団とドッグマン&わんちゃんズのバトルは人が何人も死ぬ『ホームアローン』という感じのブービートラップを駆使したもので、撮り方によってはコメディと見えなくもない。コメディならこれはコメディだからわんちゃん死なないだろって思いながらこっちは観るわけで、事前に犬は無事ですと言われてても別に見る目変わんないすよね。でもこれ普通にサスペンス調のアクションとしてバトルを撮ってるからさぁ。そういう映画だったらやっぱりどっちが勝つのかなとか思いながらドキドキして観たいじゃん。

だから気が抜けちゃったなそういう意味で。ってかどうせ映画であくまでも作り物なんだから変な配慮しないで普通にわんちゃんの一匹や二匹ぐらい悪者に殺させてくれ。わんちゃんを殺すような恐ろしくそして許しがたい相手だからこそバトルも盛り上がるってもんじゃないのかね? 俺なんか最後のバトルシーン見てたらむしろチカーノの方に同情しちゃったよ。かといってチカーノをぶっ殺していくわんちゃんたちはみんな健気でかわいらしいのでわんちゃんコワイとなることもまったくなく…微笑ましく感じながら見るシリアスなバトルシーンってなんだよ!?

まぁそれ以前の話として単に小さなエピソードの数珠つなぎにしかなってないから30分のテレビドラマを何話か続けて見てる感じになるみたいな問題もあり、お世辞にも出来の良い映画とは言えないのだが、ただドッグマンを演じたケイレブ・ランドリー・ジョーンズの妖艶にして『ダークナイト』のヒース・レジャー・ジョーカーを思わせる怪演は一見の価値ありだし、なによりもわんちゃんである。大型犬、小型犬、狩猟犬、愛玩犬、その数十数種類と思われる多種多様なわんちゃんたちが己の個性を生かして悪者たちをやっつけるサマは痛快だしだいたいかわいすぎるだろ。わんちゃんがかわいい映画は悪く言うことはできない。いや、すべてのわんちゃんはかわいいのでわんちゃんが登場する映画を悪く言うことはできない。クッ…なんて卑怯な! 卑怯だが、わんちゃん好きなら必見の映画である!

※でもドッグマンは足が悪くて車椅子生活なのに一人で何十頭ものわんちゃんを世話してるのであれ絶対それぞれのわんちゃんの体調変化とか把握出来てないし糞尿の清掃とかもできてなくて飼育環境的には根本敬の「でもやるんだよ!」おじさんの犬舎とそんな変わんない多頭飼育崩壊状態と思われます。わんちゃん好きなみなさんは決して真似しないでください!

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