【つべ】短編映画『ミッドナイト』感想文(監督:三池崇史)

《推定ながら見時間:2分》

このあいだiPhoneで撮ったというK-POP人気ユニットNewJeansのMVも観たが最近のAppleは自前で広告を作るのではなく著名なクリエイターなんかにこことここが新製品のセールスポイントなんでそれを生かしたやつにしてくださいみたいな注文をつけてある程度お任せで広告を作ってもらうということをしているらしく、そういえばAppleといえばリドリー・スコットによる『1984』オマージュのCMがコマーシャル・フィルム界の伝説となったわけだし(このCMは1984年に放送されたので今年で40周年である)腕のあるクリエイターのセンスに良く言えば任せる、悪く言えば乗っかるというのがお家芸なのであった。

というわけでiPhone15 PROのコマーシャル・フィルムであるこの『ミッドナイト』は手塚治虫の同名漫画を原作に三池崇史が監督を務めて全編iPhone15 PROで撮影されたらしいが…これは俺としてはかなり悔しいことなのだが素直に「こんなにフィルムっぽいルックで撮れるのかッ!!!」と驚いてしまった。何世代前の機種かは知らないがたしかiPhoneのカメラは庵野秀明も『シン・ウルトラマン』で一部使っていたはずで、あの時はいかにもなデジタル質感とノイズがあえてだったのかそれとも技術不足だったのか知らないが残っていて、通常の映画カメラで撮られたと思われる他のカットとのチグハグさが目立っていたが、あくまでも『ミッドナイト』を観る限りではなのだがiPhone15 PROはもう一般的な映画カメラとほとんど遜色がないように思える。こんな高性能動画カメラが十何万とかで手に入ると言われればガラスケースを破ってでも欲しくなってしまうからCMとは恐ろしいものだ(強盗は絶対にしないでください!)

内容に関しては19分の宣伝用短編ということもあり手塚漫画が原作なのにストーリー面でとくに言うこともないというか面白い点はないのだが、映像面でいえば、三池崇史が監督ということで夜の新宿大ガードから始まる冒頭であるとかトラックドライバー役でカメオ出演している三池本人の姿とかニヤニヤしてしまうのだが、いやそんなことはどうでもよく、カーチェイスの場面が本格的で驚いた。夜のアーケード街を爆走するデコトラとか商店街の歩道に乗り上げての改造タクシーとバイクの『ヤッターマン』的な戦闘とかこれもしかして昨今の日本映画の中でいちばん意欲的な日本で撮られた(どうも道路使用許可のとても下りにくいこの日本で撮っているようなのである!)カーチェイスだったんじゃないのか。たかだか宣伝用の映像なのに!

エンドロールを見ると19分のコマーシャル・フィルムとは思えぬぞろぞろスタッフでまぁ要するに一般的な日本映画一本分か二本分ぐらいの予算をAppleさんからもらってたんだろうな、そのお金の大部分をカーチェイスを撮るためにつぎ込めたから実現したんだろうな、とか切ない大人の事情も頭をよぎるが、しかし、それ以上に感じさせられたのは日本映画でもやろうと思えばできる! ということであった。やろうと思えばできる! 観客・出資者・制作者・出演者、みんなで一丸となって「こんな迫力あるアクションが映画で見たいよな!」と思えば、日本映画でも韓国映画みたいな面白いアクションとかカーチェイスとかガンファイトがきっと撮れるのだ! それが出来ていないということはつまりみんなそういうものはアメリカ映画とか韓国映画ですごいのが観られるから日本映画では別にやんないでいいよと半ば諦めてしまっているからだろう…まぁそれもそうかもしれないが…(でも『ゴールデンカムイ』のアクションはよかった)

三池崇史は最近ショートフィルムのコンテスト「三池崇史の26秒のカーニバル」を主催したりAI映画制作プロジェクトに参加したりと一般映画から少し距離を置いて実験的な試みに色々と手を出してるので、この『ミッドナイト』もそのひとつということだったのかもしれない。そういえば堤幸彦も最近は一般的な商業映画から離れて実験的なプロジェクトばかりやってるので、1990年代に強烈な世界観で映画界に殴り込みをかけて2000~2010年代には有名原作もののメジャー邦画監督へと成り上がったもののやがて一般人気が翳ってきて…という鬼才監督のひとつのパターンなのかもしれない。堤幸彦もiPhone撮影とかAI映画とかたぶん絶対好きだろう。

三池崇史にも堤幸彦にもまた観客の度肝を抜くような強烈映画を撮って欲しいと常日頃思っている身としては保守的な邦画界がこうした時代の先端を求める鬼才監督を持て余している現状にむむむなのだが、まぁでも三池崇史に関してはコマーシャル・フィルムという形であっても未だ映画への熱意もセンスも衰えずということが窺える『ミッドナイト』だったので、ひとまずこれで良しとしよう。いや、変に「おっ」と思わせるところがある出来だったからこそ、これを長編映画でやってくれ、邦画のお金を出す人たちは三池崇史にこれを映画でやらせてくれ…! と逆に思うのだが…。

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