記憶障害サスペンス映画『リピーテッド』を観た!(※ネタバレなし)

ある日ニコール・キッドマンが目覚めると、見知らぬ部屋にいた。
隣には見知らぬ男が眠ってる。
いったい、コレは…。
目覚めた男が、キッドマンに言う。彼女は事故に遭って、以来眠る度にそれまでの記憶が無くなってしまうのだと。そして自分は夫なのだ、とも。
突然のコトに動揺しつつも、必死に受け入れようとするキッドマン。
だが、担当医を名乗る謎の男が彼女の前に現れて…。

記憶障害の映画っつーと『メメント』(2000)とか思い出すが、ハナシの作りもマァ似た感じだった。
『リピーテッド』のニコール・キッドマンも『メメント』のガイ・ピアースも新しい記憶が獲得できないんで、同じ日々を延々と繰り返す。
どんなイヤなコトあっても翌日にはキレイさっぱり忘れてんので、見ようによっちゃ幸せかもしんないナァ。
でも一度自分が円環に囚われてるコトに気付くや、無間地獄と化すのだった。

男が円環に囚われる、とゆーアメリカ映画は結構あるが、『リピーテッド』は珍しい女性の円環映画。
記憶を保てないキッドマンは前日(眠って記憶を失う前)に録画した自分の動画を頼りにアイデンティティを保とうとするが、そのあたり分身映画的でもある。

『メメント』は失われる記憶をタトゥーとして体に刻む、とゆー苦痛に満ちたプロセスを通して無理やりアイデンティティを保つ。
記憶を失う前の自分の、その分身としての記憶を失った自分に罰を与えて包摂する、とゆーワケだったが、キッドマンは素直に動画の中の昨日の自分(分身)に従う。
過去の自分を受け入れるコトで楽しく生きようとするワケで、過去の自分に対する復讐心に囚われた『メメント』と違って、コチラは未来志向なのだ。
ソレがトリックになってて、ラストにも繋がる。
イイ脚本だナァ。

http://heartattackannex2011add.web.fc2.com
http://heartattackannex2011add.web.fc2.com 『フェイシズ』
http://www.fanpop.com
http://www.fanpop.com 『シャッフル』

そういえば『フェイシズ』(2011)って映画もわりにこの映画と近い感じだった。
『フェイシズ』は主人公のミラ・ジョヴォヴィッチが相貌失認(人の顔が判別できなくなっちゃうヤツ)ってのに罹っちゃって、殺人事件を目撃したショックでそーなったが、やがてその犯人がミラを消しに来る…ってハナシ。
で、ミラは相貌失認なんで自分が目撃した犯人の顔が分からず、周りの誰もが怪しく見えて、疑心暗鬼になんのだった。
このあたり『メメント』も同じだが、脳障害ものサスペンスはこう書きなさいってゆー教科書でもあんのか、『リピーテッド』もやっぱそーゆー展開になんのだ。
(マァ原作ものですが)

あるいは『シャッフル』(2007)とかも近いかなぁ。コッチは別に脳障害映画とかじゃないが、やってるコトは同じようなもんだった。
主人公のサンドラ・ブロックの夫が事故死。悲観に暮れる彼女だったが、翌朝目覚めてみると、何事もなかったかのように夫が現れる。
ワケが分からないサンドラだったが、やがて恐ろしいコトに気付く。どうも時間がグチャグチャになり、彼女の生きる一週間がシャッフルされちゃったらしいのだ…。
どーしてそうなったかっつーのはネタバレになっから書けないが、しかしハナシの作りは脳障害ものサスペンス。
崩れた現実を、悲しみの中で必死に紡ごうとする映画。

マァ記憶が無いと身近な現実は一気に異界と化すんでしょうよ。
SF作家のフィリップ・K・ディックなんかはそういう小説ばっか書いてるが、どれも異界の中で主人公は困惑するばかり。
そして円環もの分身もの含む現実崩壊映画なんてどいつもこいつも主人公が情けない根暗のダメ男ばっかだが、女の現実崩壊映画はそうでない。
ニコール・キッドマンもミラ・ジョヴォヴィッチもサンドラ・ブロックも、幸せになるために崩壊した現実を取り戻すべく闘うってなワケである。
男みたいな迷いが無く、そのあたり女は強い。
っていうか強そうな女優さんばっかり。

http://variety.com
http://variety.com 今度『アリスのままで』(↑)っていう認知症の映画やるらしいが、印象的にはサスペンスっちゅうーかソッチ系のヒューマンドラマ。

登場人物が五人くらいしかいないんで、『リピーテッド』はとても地味な映画だったりする。
でも脚本(原作は読んでないから知らん)よく練られてんで、楽しく観れたナァ。
テンポもイイし、ネタバレになっから書かないが、トリックも「わー、そうだったのかー!」って感じ。
いや大したトリックでもないが、トリックで引っ張るっつーよりキッドマンの心の揺れ動きがメインの映画なんで、別に気になりゃしない。

そのキッドマン本人もイイが、周りの役者さんが良かった。
キッドマンを献身的に支える夫にコリン・ファース。真面目で穏やかな感じの人だが、毎朝毎朝記憶を失う彼女にとてもストレスを感じてるらしく、それを必死に表に出さないようにしてる感じが却って恐い。
んでキッドマンの記憶障害を治そうとする医者がマーク・ストロング。この人、すげー冷徹で悪い顔してんだよなぁ。感情も表に出さないで、実験動物を扱うみたいに彼女に接する。これも恐い。

そんな恐い男二人がお互いに違うキッドマンの過去を話し出したりして、キッドマン大混乱。
記憶を失った彼女には、コイツらが自分に都合のいい過去を語ってるように見える。そして自分に都合の良い女にしようとしてるように思えてくるが、そのあたりフェミニズム的な視点もあんのだ。

http://nypost.com
http://nypost.com 毎日見知らぬ他人が夫であるコトを聞かされるキッドマンもタイヘンですが、毎日自分の嫁さんに忘れられるコリン・ファースもタイヘンです。二人ともイイ感じの演技で、その苦しさがよー伝わってくる。

突然(と本人には感じられる)の記憶喪失と現実の崩壊。
愛が信じられなくなって(記憶に無い男なんて愛せる?夫だとしても)、人も信じられなくなる。
キッドマンはその悲しみに打ちひしがれるが、そんなコトにゃめげないで信用ならない男どもと闘う。

闘うが、別に殴り合いとかじゃない。
ひたすら幸せを望むコトで闘う。
自分と自分の過去を受け入れるコトで闘う。
誰かを愛するコトで闘う。

そーゆー闘争の手段は男の円環映画に決定的に欠けてるが、往々にしてソレが無いから男は円環から出られない(『プリデスティネーション』とか)
でもキッドマンはそうして、円環の中だろうと外だろうと、ちゃんと幸せを掴むってなワケである。

サスペンスありヒューマンドラマあり大人のラブストーリーありで、タイヘン地味だがナカナカ面白い映画だったナ、コレ。
マァ、寝たんだけど。

【ママー!これ買ってー!】


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主人公の置かれた状況は『メメント』も『リピーテッド』もほぼ同じですが、処し方が違う。
アレだな、いつミューな記憶障害とか認知症になったりすっか分かんないんで、そうなった時のためにも『リピーテッド』は観とくとイイかもしんない。
実用性って意味じゃ『メメント』は全く役に立ちませんが、仕掛けがいっぱいあって面白いです。

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