俗悪系キラキラ映画最新作『恋わずらいのエリー』感想文

《推定睡眠時間:20分》

コロナ禍以前から減少傾向にあったキラキラ映画はコロナ禍が本格化すると年1~2本程度と本数が激減、ジャニタレの宣伝映画としてのみかろうじて生き延びているという状況であったが、そんな中で勃発したジャニーズ・スキャンダルと実質的な事務所解体により、もはやキラキラ映画は死んだかと思われた…が、キラキラ×特攻隊という一見ゲテモノのような取り合わせの『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』が昨年まさかの大ヒット、現在も上映されているほどのロングランとなっており、思いがけないところからキラキラ映画復調の兆しが見えてきた。こういうことがあるからキラキラ映画とは面白いものだなとつくづく思う。つくづくは思わないか…。

さて『あの花』ブームの追い風を受けたラッキー状態で公開されたこのキラキラ最新作『恋わずらいのエリー』だが、一般的にアイドルやモデル出身役者の宣伝と演技修行を兼ねているキラキラ映画としては珍しく、主演二人が若手とはいえいずれも既にそれなりの演技経験を積んでいる点が特徴的。イケメン役の宮世琉弥はテレビドラマを中心に活動する人だが、2022年には社会派映画『渇水』に出演、昨年は『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』の吹き替え版でレオナルドの声をアテるなど活動と演技の幅を広げている。イケジョ役の原菜乃華はおそらくポスト千眼美子といっていい現在もっとも勢いのある若手女優の一人であり、『すずめの戸締まり』でタイトルロールの声を担当、大河ドラマ『どうする家康』では千姫を演じ、昨年の邦画大ヒット作『ミステリと言う勿れ』では物語の中心人物を演じていた。

こうした演技実績のある役者を主役に据えて監督はキラキラ映画の代表監督の一人である三木康一郎。俺はかつてキラキラ映画職人だった三木孝浩と区別するためにダメな方の三木と呼んでいるが(呼ぶな!)、この布陣で失敗するはずはないだろう。映画を観ての第一印象は安定感がすごいということであった。学内イケメンを取り囲む追っかけ女子や定番過ぎて逆に最近のキラキラ映画ではほとんどやらなくなった壁ドンなど、これぞキラキラ映画というシーンの連続。原菜乃華のコロコロと表情を変えるコメディエンヌっぷりも宮世琉弥の性悪イケメンっぷりも堂々たるもので、キラキラ役者らしい生硬さが感じられない点は逆に新鮮なほどである(といっても2010年代後半のキラキラ女王・土屋太鳳などは演技巧者であったが)

その安定性は言い方を変えれば保守的ということでもあり、キラキラ映画の本質はビルドゥングスロマンにありと俺は毎回キラキラ映画の感想で書いている気がするが、この映画は恋愛を通しての原菜乃華の成長を他のキラキラ諸作よりもいくぶんわかりやすい形で強調しており、原菜乃華の妄想シーンをバラエティ的に見せるポップな演出も、キラキラレジェンドである月川翔の『センセイ君主』以降のキラキラ映画の手法を踏襲しているだけで、そこに新しい発想は見られない。つまり子供の成長を促すという教訓的な内容の面でも、それを楽しく見せるための演出の面でも、まるでキラキラ映画のパロディとして作られたのではないかと疑ってしまうほどに、この映画は「いつものあれ」なのである。それをどう受け取るかがこの映画の評価を分かつところだろう。俺は若干退屈でした。まぁ、ダメな方の三木だし…。

ただし、脚本を担当したおかざきさとこのカラーなのか、一般的なキラキラ映画よりもわりと下品な台詞回しや描写が多かったのは多少の新味を感じるところで、これはいわゆる俗悪系キラキラなので直接的なシーンはないとはいえセックスの存在を隠さず、台詞というかテロップなのだが原菜乃華の心情として「ムラムラしてます!」と出したり、そのキャラクターも早くセックスしたいので流れで半ば強引に宮世琉弥にヤられちゃっても別にいいですという今の邦画の主流女子高生キャラからはわりと離れる、真面目な人からはちょっと怒られそうなものであった。脚本が下品なので演出もあえて上品に撮ることなどせず、宮世琉弥がろくに会話をしたこともない原菜乃華に壁ドンしてキスを迫るという強制わいせつ事案のシーンでは、宮世琉弥くん口を開けているのであった。お前それ舌入れる気じゃねぇか。相手が誰であれ風俗以外の初キスで舌を入れるな。

そのような雑味というか下世話さが『恋わずらいのエリー』を他のキラキラ映画と区別するところで、下品なのに無邪気でポップ、ちょいエロなのに原菜乃華はコミカルで可愛い、というのはよくよく考えてみればプラトニック・ラブの志向が強いキラキラ映画界、というか邦画メジャー映画界には案外ないものかもしれない。これを欲望に忠実で下半身管理の雑なそこらへんの女子高生に近いものとして捉えるか、それともエロオッサンの妄想する女子高生だキモイ! と捉えるかは人によるだろうが、まぁ好き嫌いはともかく、やはり女子高生を主要観客とするキラキラ映画はビルドゥングスロマンという意味で保守的でありつつも、反面でその女子高生に飽きられないよう時代の先端の感覚を(成功しているか失敗しているかはともかく)画面に収めようとするキラキラ映画は、なんだかんだ新しい面白さをいつの時代も持っているものだなとか、なんかそんなことを思わされる『恋わずらいのエリー』なのであった。主題歌歌ってるNiziUもカメオ出演してたし。

※あと一点だけ頭の片隅に引っかかって離れない面白ポイントがあって、原菜乃華が学食で妄想するシーンでその後ろに映り込んでいる学生服を着ているがひげ面の人。どう見てもオッサンじゃねぇか誰だよ!

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