《推定睡眠時間：40分》
なんと！ いったいどういうわけか団地の外に世界が…な、無い！ 外に出ようとすると姿が消えて二度と戻って来れなくなるから誰も団地の外に出ることができなくなってしまった！ とかいう過去8万回観た設定のホラーだが団地住人が外に出られない怪現象に動揺しているところで眠ってしまい起きたらなんか殺し合いの感じに発展してたというこのパターンは似たようなストーリーの『ディヴァイド』と同パターン。『ディヴァイド』は怖かった。寝て起きたらさっきまで普通人だった人たちがみんな『ドラゴンヘッド』みたいに狂ってたので俺がいない間にいったいお前らに何があったのか！？ と不意打ち発狂に俺のマインドは大いに揺さぶられたのであった（当然ながら本当はちゃんと順を追って発狂しているので全然不意打ちではない）
でもこの『ザ・タワー』は目が覚めたら殺し合いという状況でも怖くなかったな。なんか最初から団地住人たちのガラが比較的悪く仲もあんまよさそうじゃなかったので意外性がなくて。とはいえそこがこの映画の眼目ではないのかもしれない。殺し合い事件が勃発しほほうこれは様々な人種や宗教の人が住むフランス団地のことであるしこれからもっと凄惨な殺し合いに発展していくのであろうと眺めていると画面が暗転し「2ヶ月後」のテロップ。あれ、一気にそんな飛ばしちゃうの？ 飛ばしちゃうのであった。もろもろ飛ばして最終的に団地の外に出られない現象発生の5年後まで行く。密室サスペンス・ホラー的に始まるがその後の展開は終末年代記といった感じで、あっちの勢力が権力を握って今度はこっちの勢力が権力を握ってそのうち変な宗教が起こったり衰退したりなんかしてとまぁそのような、世界終末期の主要な出来事をスクラップブックにしたような映画がこれなのであった。
製作年は2022年だそうなのでコロナ禍のロックダウン状況から発想された映画であることはほとんど間違いないだろう。このままコロナ禍が永遠に続いたらわしらどうなるんじゃいというロックダウン下の不安が、人種や宗教などさまざまな緊張を孕む現代フランス社会の風刺と共に、おそらくここには込められている（ロックダウンが世界的に解除された2024年現在の方が世界情勢は超悪化しているのが皮肉である）。それはいいが問題はあんまり面白くない。まず年代記スタイルを取っているので緊張感が持続しないし、外の世界が消滅しているので水は小便などを濾して再利用し食料はGの養殖で得ている（『スノーピアサー』と同じやつだ）らしい映像が出てくるが、いくらなんでもそれで5年は保たないだろうと思われるのでコロナ禍の寓話だとしてもストーリーに説得力がない。そしてその説得力がないストーリーはなんか知らんが外に出られなくなって大変みたいな感じのコロナ禍系密室サスペンス映画でわりと色んな国の人がやってるので目新しさもない。みんなこれぐらいのストーリーは考えるんである。
そんなわけで見所はかなり乏しくまぁ別になにか期待したわけでもないがちょっと残念な感じの映画であった。ただ閉塞感溢れるダークなムードは良い。このへんフランス団地映画の特徴なのだろうか、『呪術召喚／カンディシャ』というフランス製の団地ホラーもそんなに面白くはないが薄暗く殺風景な団地のロケーションが良かったなとふと思い出す。そういえば『ディヴァイド』も監督はフランスの血みどろ監督ザヴィエ・ジャンだ。案外フランスのホラーというのは陰気なのかもしれない。そういうのが好きな人、具体例を更に挙げると格差社会トリクルダウン戯画映画『プラットフォーム』とか団地不条理劇『恐怖ノ黒電波』なんかが好きな人は、この『ザ・タワー』もとりあえず雰囲気ぐらいは楽しめるんじゃないだろうか。なんだかんだ俺もそういう暗いやつは好きなので、面白くはないが別に嫌いというわけでもない『ザ・タワー』なのであった。あ、それからあと『ディヴァイド』な！ 『ディヴァイド』が好きな人はこれも楽しめると思う…が、なんでこんなに世間の評価が低いんだ『ディヴァイド』！ 実に救いがなくてスバラシイのに！
※ところで全然関係ないのですが次世代SNSのBlueskyでポストの埋め込みが可能になりましたので記念に貼っておきます。俺はSNSはツイッターからBlueskyにほぼ完全移行しました。Blueskyたのしいのでみなさんもぜひおいでください。フォローはしてくれないでいいです（Blueskyはカスタムフィードという高度な検索システムが実質的にフォローの代わりになっている点が大きな特長なので）
ウーパールーパーの学名アホロートルというらしいが、なんかかなりパンクな名前だ
— 映画にわか (@niwaka-movie.com) Apr 16, 2024 at 18:09