HENTAIオタク必見映画『マンティコア 怪物』感想文

《推定睡眠時間:30分》

事実は、いや現実は小説より奇なり。この映画『マンティコア 怪物』は心の中に犯罪的な変態セックス願望を秘めたひょろひょろのゲーム・クリーチャー・デザイナーの男が主人公なのだが、なんとも奇妙なノワール・ファンタジー『マジカル・ガール』でお馴染みの今作監督カルロス・ベルムト、今年の1月にスペインの新聞にいわゆるひとつの文春砲的な感じで告発記事を書かれてしまった。

それが→Three women accuse Spanish film director of sexual violence(EL PAÍS)なのだが、ありがとうGoogle翻訳で記事を読むに、告発したのは3人の匿名のベルムト関係者の女の人で(現在更に3人増えたとか)、当時はそう思ってなかったしベルムトを訴えると仕事に差し支えがあるかもしれないので刑事告発もしなかったが、今になって考えてみればあれは性的暴行だということで新聞告発に至ったらしい(今も刑事告発はしてないらしいが今後民事裁判をするのかどうかは不明)。まぁ詳細はリンク先の記事を読んでみてくださいだが、さしずめスペインの園子温事件といったところ、ベルムトの方は乱暴なセックスはしていたが常に合意はあったと言っているので、部外者としてはこれ以上この件についてああだこうだと言えることはない。民事訴訟やれば社会的に白黒ついていいのでやればいいんじゃないすかとは思いますが。

ともあれサドっ気の強いセックスがベルムトの趣味らしいのは本人そういうセックスしとったと認めてるので事実認定してよいだろう。こういう問題の争点は合意の有無であってサドっ気の強いセックス自体は当然ながら犯罪行為では別にない。首締めセックスなどと聞けば純粋な人はなんとおそろしいと震え上がるかもしれないが、まぁそういうことをするのが気持ちいいというサドい人もいればされるのが気持ちいいというマゾい人もいるのが世の中というものである(ソースは女王様にそういうことをされたい俺である)。いや、それはいいのだが、そういう願望を心に秘めた人が他言無用の犯罪的な欲望を秘めたひょろひょろ内気なクリーチャーデザイナーのお話を撮る…うーん、なんというか、なんというかである。

しかもこのクリーチャーデザイナーが恋仲になるのはウォン・カーウァイの映画に出てきそうな小柄童顔のある種漫画的な女の人なのだが、上のEL PAÍS砲記事によればベルムトの好みは小柄で歳下の女の人だという。この映画と現実のリンクっぷりよ。それがこの映画を味わい深いものにしているのは、映画の中には主人公の加虐願望だけではなくかなり濃いめの被虐願望が仄めかす形で描かれているからだろう。

小柄童顔の少女みたいな女の人に身も心も支配されて好きなようにされてしまいたい…マゾ心を真に理解するのはマゾではなくサドなのだ、というようなSM業界の格言があるが、魔法少女に中年男がてんこまいなベルムトの前々作『マジカル・ガール』やこの映画を観ればそのことがよくわかる。ホンモノのサドはいつでもマゾされたいと実はうずうずしているものであり、逆にホンモノのマゾはサドしたい衝動もこっそりと抱えているものなのだ。その意味でこれは山本英夫の『殺し屋1』とかタランティーノの『デス・プルーフ』とかと並ぶSMガチ勢っぽい人の映画と言えるだろう。山本英夫やタランティーノがどんなセックスライフを送っているのかは知らないが。

決定的な出来事をフレームの外に置いて何が起こったのか観客の想像に委ねるベルムトの作風はここでも健在ということで、実際に何が起こったのかは不明瞭という点でも現実とリンクしてしまって面白い(不謹慎と言われようが面白いものは面白いのだから仕方がない)この映画だが、そうした演出やラスト20分ぐらいまでは事件らしい事件も起こらず普通の慎ましい恋愛が描かれるだけのシナリオからすればアート系っぽいものの、主人公のクリーチャーデザイナーは日本のオタクカルチャーが大好きで初代『魔界村』のステージBGMをスマホの着メロにするほどのボンクラなので、内容的にはむしろアートとは全然無縁のアニメイトとかとらのあなが主たる餌場というHENTAIオタクの諸兄諸姉に向けられている。

かつて「妄想にタブーなし」と『危ない一号』で宣言したのは90年代悪趣味カルチャーを牽引した村崎百郎と青山正明だが、そうですね、まぁたとえ犯罪であっても妄想ならば、あくまでも妄想ならば人に迷惑もかけませんし自由です。絵とか小説とかで紙に出力したら…まぁそれも個人でやる分には自由だし、そういうものを置いてもいいよというお店に置いたりするなら別に問題ありませんよね。しかし犯罪を三次元に移して実行してしまうとそれは単なる犯罪になってしまいます。HENTAIオタクのみなさんの魑魅魍魎渦巻く犯罪系の変態欲望は妄想か二次元かまぁ三次元だとしてもせいぜい映画やドラマなどフィクションに留めておいて、相当に特殊な合意ありのプレイなどでなければくれぐれもリアルで実行はしないように。

マンティコアとは俺が言うまでもなくゲームとかによく出てくるからみんな知っているだろうが顔は人間で身体はライオンさらにコウモリみたいな翼を持つというキメラ的な神話生物。クリーチャーデザイナーにして日本的HENTAIオタクの主人公がその絵を見てクリーチャーは俺自身だったんだ…と悟る場面は痛ましく切ない。今頃、ベルムトもそんなことを考えていたりするのだろうか?

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