《推定睡眠時間:50分》
開幕早々どこかの海辺で拳銃を口に咥えて自死しようとしている男が絶叫しているので只事ではないがなぜそんなことになったのかはよくわからないままおそらく物語はその十数年後へ。なんの説明もこの時点ではないので確たることは言えないがどうもこの男は死のうとしたがなんとか助かったらしく、今は地下鉄の運転手をしているそうな。洗面台に滴る血。そこにいるのはこの男なので誰かを殴るか殺すかでもしたのかと思ったが、どうやらこれは目から血が流れてくるという病気か、もしくは拳銃自殺未遂の後遺症のようだった。
さてこの男がいつも通り始発電車を走らせ始めると幸先の悪いことに電車投身自殺的なものを試みる若者に遭遇してしまった。咄嗟の緊急停止により若者は轢かずに済んだが、不思議なのは轢かれなかったにもかかわらず若者は死んでしまったらしいことである。警察によれば若者の腹には銃創があったとのこと。じゃあそれによる失血死だろう。話によれば強盗事件に関与した疑いがあるというこの若者であるから、きっと仲間割れでもして銃で撃たれ、ほうほうの体で地下鉄まで逃げてきたがついに力尽きて…とかそんなことだろう。
わりあい納得感の高い警察解釈であったが若者の身元が判明すると事件はにわかにノワールづいてくる。この死んだ若者、例の地下鉄運転手の息子だというのだ。なぜ運転手は警察が来た時にそのことを言わなかったのだろう(いずれわかるのに)。運転手は線路に横たわる息子に駆け寄って何か話していたようだが…もしかしてその時になにか聞かされていないか? ということでアウトロー気味の刑事は主人公の運転手に疑いの目を向ける。一方そのころ、死んだ息子からなにかを託されたらしい主人公はたぶんだが復讐行脚に出ようとしていたかもしれない…。
ひじょうに曖昧な書き方になっているのはこのへんで睡眠に入りエンドロールまで起きられなかったためであるが、しかし、ここまででも充分おもしろい映画であった。運転手が家に帰ると待ち伏せしていた何者かが運転手襲撃、しかし運転手は謎の実践的格闘スキルでこいつを撃退し、更には普通なら警察に通報するところだが、むしろ逆に襲撃された事実を隠すために慣れた手つきで証拠隠滅さえするのである。いったいこの男は何者なのだろうか? エンドロールまで寝ているためその正体は今も不明のままだが、あえて劇映画的な緩急をつけないセミ・ドキュメンタリータッチの演出は次に何が起こるかわからない緊張感を保ち続け(ていたはずであるたぶん)ミステリアスな展開を盛り上げることなく盛り上げていた。無駄な台詞なんぞなくパッパッパとシーンが変わるのでテンポもよく、これは面白い。ただ、音楽とかほとんどないので眠くはなる。
まぁそれ以上のことは言えないが、この襲撃シーンの出来は見事だったのできっと最後までイイ映画ではあっただろう。実際の裏社会の殺し合いとかこんなだろうなというリアリティがここにはある。具体的には、狭いアパートの台所で襲う方も襲われる方もあっちこっちにドタンバタン体をぶつけながらもみ合うのをカットを割らずに撮るのだが、その中で主人公の方はガラスを割って水を張ったシンクに入れ、襲撃者の手首をそこに押しつけて大量出血ボーナスを狙ったりするのだが、こんな渋い殺し方(未遂)を映画で見たのはかなり久しぶりだった。銃でバンバン撃ち合うとかではないし頭をバットで殴るとか腹をナイフでぶっ刺すとかそういうのではないのだ。そういう派手な殺し方は知らないが現実では案外できないものなんである。それも、裏社会系の人が相手なら尚更である。
はたしてこの殺し慣れした主人公の地下鉄運転手は何者で何が目的で何をしようとしているのだろうか? その答えはみなさんが劇場で確認してきてこっそり俺に教えて下さい。
ティアーズオブブラッド
こんにちは。
50分も睡眠されてたなんて、半分見てないじゃないですか!
ではこっそり、ストーリーをお教えいたしましょう。
ナゾの地下鉄運転士の身元調査をインターポールから拒否された女刑事。ははあ、この運転士は元デカ、だと観客(私)は推測する。
女刑事の父は職場の上司(警視)で、調査中の事件から手をひけ、と再三彼女に進言する。ははあ、警視はこの事件に何らかの関係がある、と観客(私)は推測する。
父の警告を無視して女刑事は捜査を続行するが、突き止めたアジトで運転士、警視、女刑事が遭遇することとなる。ははあ、事件の黒幕は警視で、実はかつて運転士と警視は同僚であったのだが、ある捜査で警視は昇進したが運転士はそのドロをかぶって失脚(偽名での生存保証と引き換えに)、ここで娘が、捜査中の事件と過去の因縁とのつながりを暴き、父と運転士のあいだで苦悩する、と観客(私)は推測する。
…如何でしょう?信じる信じないは、貴殿次第!
え、そんな話だったのか!なんか殺し屋とかかと思ってましたがもっと入り組んだ渋い話だったのですねぇ…