リアルリアリティショー映画『ザ・ウォッチャーズ』感想文

『ウォッチャーズ』といえばスティーヴン・キングと双璧を成す米国モダンホラー小説界の人気作家ディーン・クーンツの小説の方が頭に浮かぶ世代であるが(そうでもない)これはその『ウォッチャーズ』ではなく別の『ウォッチャーズ』らしく舞台はアイルランドのどこか、自分のせいでお母さん死なせてもうたんやないかと母の死から何年経っても罪悪感を感じている主人公のペットショップ店員ダコタ・ファニングがペットを届けに車を出したら変な森に迷い込んじゃった。

どうやらその森にはウォッチャーズと呼ばれるリアリティショーを生で見たいという謎の欲望を持つ生物なのかなんなのかとにかく何かが棲んでおり、リアリティショーのスタジオとなるハウスから夜に外出したりハウスの周囲何キロとかから外に出るとこの凶暴な視聴者にぶっ殺されるので、主人公も仕方が無くリアリティショーに出演することになる。ペットを売っていたはずの主人公が謎の貪欲視聴者によってペットにされる。皮肉ですな。

さてそれからどうなったか。俺は大いに焦った。なぜならこの映画、細かい生活描写などは抜きでポンポンポンと話を進めていく好テンポ映画ではあるのだが、そのためにかえって緩急がなくなり中盤やや中だるみがあり、そこでふっと眠りに入った隙になんと主人公は魔の森を脱出してしまっていたのだ。ナニ! そ、それは映画のたぶん一番面白いところを見逃しているじゃあないか…っていうかもう終わりじゃないかそれ! やらかしたわ~うわ~やらかしたわ~これ~…だが実はそこでこの映画は終わらず、更にまた一展開あったので助かった。

たしかに主人公がいったいどうやって魔の森を抜け出したのか、ウォッチャーズ群団とはどんな攻防を繰り広げたのか、大いに気になるところではあるが、物語的なクライマックスはむしろ魔の森のリアルリアリティショーを脱してからにあったので、かなりもったいない見逃しをしたのは間違いないが、最終的にはうん映画を1本観たなという満足感。どんでん返しの天丼みたいな作りの映画は基本的に好きではないが、こういうときにはありがたいものだ。この映画の場合はゆーてどんでん返しは最後だけでそれまでは急展開に次ぐ急展開という感じだが。

しかしこう、なんというか、悪くはないが書くこともあまりない。ウェルメイドなモダンホラーという感じで登場するキャラにも状況にも演出にもすべて見覚えがある。直近の映画で言えば『ナイトスイム』が近いかもしれない。2010年代に入って以降わりとずっとそんな傾向が英語圏のホラーで続いている気がするが、主人公のトラウマ+家族愛みたいなやつ多過ぎ。それで怖いなら別にいいがなんかイイ話的にオトそうとするがために怖さ控えめになりがちというのはちょっと個人的にはご勘弁願いたい。

とはいえこの『ザ・ウォッチャーズ』の場合はホラーというよりもファンタジー性の方が強いので、途中まではホラーとはいえ怖さほどほどもまぁいいかという気にはなる。主人公の人間ドラマとしてはイイ話に着地するがそこに民話的な戒めを加えて単純なイイ話ダナーになっていない点は意外と好感度高し。大した映画ではないにしても、とくに期待せずに結構面白くて得をするみたいな、そういう午後ロー的映画といえるかもしれないなこれは。

…それにしてもウォッチャーズの鳴き声とか動きとか『クワイエット・プレイス』とよく似てる。その『クワイエット・プレイス』の怪物も既視感強めだったので、『ウォッチャーズ』の場合それが映画のコアというわけではないのでまぁいいけれども、現代の英語圏クリーチャーホラーはもう少し怪物の造型にオリジナリティを出して欲しいと思う。

Subscribe
Notify of
guest

2 Comments
Inline Feedbacks
View all comments
寝落ち
寝落ち
2024年6月25日 2:58 AM

映画にわかさんが映画のわりと大事なところで寝落ちしちゃった系感想記事、わりと好きです笑