できることからコツコツと映画『言えない秘密』感想文

《推定睡眠時間:30分》

ポスターがキラキラ映画っぽかったのでキラキラかなと思ったら同名台湾映画の日本リメイクらしく、台湾映画リメイクといえば少し前にも『1秒先の彼女』『1秒先の彼』として日本でリメイクされたりしていたが、2020年公開の『1秒先の彼女』に対して『1秒先の彼』は2023年の作、ところがこちら『言えない秘密』はオリジナル版が2007年の作でリメイク版が今年2024年と実に17年も間が開いているのだから、なぜそこまでして今更リメイクを…とか思ってしまう。でもYUIが主演した2006年の映画『タイヨウのうた』が2018年になって突如『ミッドナイト・サン 〜タイヨウのうた〜』としてアメリカでリメイクされたりしているので先例がないわけではない。ティーン恋愛映画はちょいちょい時を超えるらしい。

さてリメイク版『言えない秘密』の主人公は海外留学帰りの音大生(楽器はピアノ)。留学していたぐらいだし将来を嘱望されていたはずの彼なのだが「海外留学の成果見せてよ!」とか軽はずみに言われるとなぜかどんより気分で「弾きたくないんだ…ほっといてくれ…」みたいなことを言うしピアニストの夢も断念するつもりらしい。実際に弾けばさすがに巧いのだがなぜ彼はピアノを弾きたくなくなってしまったのであろうか。その理由はまぁなんとなくわかると思うが留学先で『セッション』のJ・K・シモンズみたいな鬼指導教官にシゴかれてすっかり自信を喪失してしまったからであった。そんな彼がある日耳にしたのは聴いたことのない美しいピアノのメロディ。これはなんという曲だろうか、どこから聞こえてくるのだろうか。主人公がピアノの音色に導かれて向かったのは取り壊し予定の旧学舎にある音楽室。そこにいたのは一人ピアノを弾く謎の少女・古川琴音であった。

ということで二人は交際を始めそのうちに古川琴音の秘密が明らかになっていくといういつものパターンなわけだがこの主人公ときたらかなりグイグイ来てる古なじみらしき同級生女子を無視したり邪険にしたり疎んだりしまくるので好感度はかなり低くこれが『ときめきメモリアル』だったら爆弾爆発してるだろと思わざるを得ない。古川琴音は独特の雰囲気を持つ人だから他にはない魅力を感じ取って靡くのはまぁわからないでもないとしてもポっと出の知らない人とチャラチャラとデートなんかする一方で付き合いが長いのでそれなりに主人公のことを知っていて帰国してからどうも様子がおかしいことを心配してくれている同級生女子になんだお前その態度は。人としてどうかと思いますよ私は!

この映画が仮にキラキラ映画であればキラキラ映画とは恋愛映画の形を借りたビルドゥングスロマンであるからしてそんなダメな主人公の成長が描かれるわけだが、主人公が男子という時点でキラキラ審査対象外のこの映画ではさしたる成長もなく、物語はティーン恋愛映画から古川琴音の正体を巡るファンタジックなミステリーへとスライドしていく。その正体は寝ていたため完全にはわからないがたぶんあれみたいなあれということだろう。もしかするとオリジナル版にはそのベースに台湾の民間伝承とかがあったりするのかもしれないがこちらは国を変えてのリメイクだしそんな気配もなく、なんか安いヤングアダルト小説みたいという感想になってしまった。

監督の河合勇人は『貴族降臨 -PRINCE OF LEGEND-』『ニセコイ』など主にネタ系のキラキラ映画で辣腕を振るうキラキラ職人の一人だが、シナリオはあくまでもシリアス路線のこの映画ではそのマンガ的誇張表現や記号的キャラ描写がだいぶスベっており、とくにエルヴィスみたいな格好のお調子者同級生男子がロケンローと歌い大学生男女カップルたちが大麻はおろか酒の一滴も飲まずに西部開拓時代のサルーンみたいに踊り散らすクリスマス・ギグは冬の季節感演出なんか微塵もなかったのに体感温度が3度くらい下がった気がする。『ニセコイ』ならそんなシーンがあってもまぁジャンプマンガの映画版だしなで済むが、この映画の場合は完全に演出ミスだろう。っていうか何歳ぐらいが対象年齢なんだこの映画は。

よいところを挙げれば古川琴音は役柄が役柄なのでそのちょっと妖怪めいた風貌が役柄に説得力を与えていてよかったとかあとはなにいろんなピアノ曲が出てくるところ? それもたしかに見所なのだがここで爆弾著述をしてしまうがピアノとか音大という題材と古川琴音の正体はあんまり関係ない。関係ないというか、関係はあるが、そうである必然性がない。だから印象が弱い。

これが音大ではなく高校を舞台にしたもう少しコミカルな路線の映画であれば具体的にどうとは言いにくいがもう少し「高校ならこういうことあるよね~(?)」みたいな感じで物語に説得力が出たり映画としての面白味も増したと思うが、たぶんあまり考えなくオリジナル準拠で音大ものにしてしまったんじゃないだろうか。主人公も海外留学という背伸びをして大いに後悔することになるわけですが、やはり自分のフィールドで出来ることからコツコツやっていくのは大事だなという映画には微塵も含まれていないそんなメッセージを勝手に受信してしまう『言えない秘密』であった。

※ところで河合勇人の監督作には『初恋ロスタイム』というキラキラSFの隠れた佳作があるが、その中にオリジナル版『一秒先の彼女』と似たようなシチュエーションの場面が出てくる。どうせ台湾映画のリメイクをやってもらうなら『言えない秘密』じゃなくてコミカルな『一秒先の彼女』の方を監督してもらった方がよかったんじゃないだろうか。

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