《推定睡眠時間:0分》
前作がどんな終わり方だったのかもう忘れちゃってるので映画開始即(といってもその前にこれまでのダイジェストが数分間流れます)合戦中に主人公率いる隊が謎の男とバトルという出会って何秒でシリーズみたいな展開になり最初からクライマックスだなーと思うなどするが状況はイマイチわかっていない。しかしこの謎の男がめちゃくちゃ強いことは間違いない。なぜならめちゃくちゃ強いからである!
めちゃくちゃ強いのでじゃあ今回はこのシリーズの最終章らしいので主人公の人がこいつを倒して終わりなのかな中華統一の足元にすら達していない気がするがと思っていたが実はこれは主人公が憧れている王騎将軍の宿敵、ふたりとも同じ形の名前を知らないがでけぇ鎌みたいな武器を持っているのでその詳細を語られるとも二人の間に因縁があるのは明らかである。なので今回は前半が主人公の敗走編で後半は王輝将軍に主役の座をバトンタッチしての王騎将軍宿敵と戦う編、実はもうひとつ意味があるがそんなわけでこのシリーズ最終章のサブタイトルは『大将軍の帰還』なのであった。これまでのシリーズ作では王騎将軍のアクションが描かれることはほぼなかったが、今回はついに王騎将軍が本格的にバトるというわけである。
山﨑賢人演じる主人公以上に強烈な存在感を放っていた大沢たかお演じるフリーザ様みたいな口調の王騎将軍。シリーズ最終章というがこれまでの展開からいってこれ一本で中華統一まで話が進むわけもないのでまぁなんか王騎将軍のアクションだけ観られればいいやと思って観に行ったので内容に関して不満とかはないのだが(橋本環奈が単なる置物とか一作目以来の再登板となった長澤まさみが一切アクションはせずただマッチョを従えて王宮でちょっと話すだけの『エクスペンダブルズ』1作目におけるシュワルツェネッガーのポジションとかそんなのは想定内である)、それにしてもこの「第一部・完」感はどうなんだ。
いやその俺の予想だと中華統一までは全然行かないが最後に「それから秦国はあーなってこーなって中華統一を果たしましたが紀元前何年に滅亡しました」みたいなテロップが出て主人公たちの行く末を想像させて終わりみたいな感じだったのだがそんなこともなく登場人物たちのその後が説明されることもないので最終章と聞いていたがなんだかまだまだ続編で儲けようとする気が満々にあるようなラストだったのだ。たしかに物語としては区切りよくかつ盛り上がるところで終わったのだが、それはあくまでも第一部の、ということで、これをもってシリーズ閉幕と考えるとなんだかずいぶん中途半端な終わり方じゃあないだろうか。
まぁでも原作単行本は70巻とか出てるぽいので『男はつらいよ』みたいにポコポコと毎年続編を実写映画で作っていたらいつまでも終わらないしスタッフもキャストも撮ってるうちにどんどん老化して死んでいってしまう。釈然としなさは残るがこれでよいか。「完!」ではなく「第一部・完!」ではあるが、たしかまだ見つかってないからネットで怒られてないだけで見つかったらネットでめちゃくちゃ怒られる木多康昭の『幕張』も「第一部・完」みたいな終わり方をしていたがその後第二部が描かれることはなかった。そして『幕張』は「第一部・完」でもちゃんと面白かったのである。
アクションの良さは言うまでもない。思えばシリーズ第一作目の予告編を映画館で観たときには(10年ぐらい前な気がしていたが5年前であった。間にコロナ禍を挟んだから遠く感じられるんだろう)日本でもこのスケールとこのレベルのアクション映画が作られるようになったのか! と興奮させられたものだった。とはいえ本編を観てみれば戦闘シーンは局地戦のみだったのだが、続く『キングダム2 遥かなる大地へ』では合戦がメインで描かれパワーアップ、清野菜名という当代屈指の日本人アクション役者を得て殺陣もより気合いが入ったものとなった。今回は集大成なので殺陣も集団戦も存分に楽しめるが、オッと思ったのはこれまでのシリーズに比べてドラマの演出がちょっと巧くなっていたことだった。
前半と後半に作劇上の連続性がない二部構成は前作『キングダム 運命の炎』とあまり変わらないのだが、今回は回想を入れるタイミング等シーンの切り替えが今までよりもスマートで効果的、単に物語の背景として必要だから入れてるんですみたいな感じじゃあなく、回想はちゃんとバトルを盛り上げる形で挿入され、シーン替えはテンポよくサクサクとされるようになったので叙事文学性が強まった。シリーズ通しての監督である佐藤信介といえばアクションシーンは迫力があって面白いが人間ドラマの演出がクサくて観てられたもんじゃないというのがそれはもう2001年のSF版もしくは釈由美子版の『修羅雪姫』からの傾向で『いぬやしき』なんか実にヒドかったと思うのだが、今回はそうではなかったので、大人になっても人間は成長するものだなぁとか変なところで感心させられてしまう。
これまでわりと「戦じゃー!」一辺倒だったのが今回は敵に敗れて仲間が次々と死んでいったり敗走したりっていう戦争の負の側面もちゃんと見せてたのも物語に深みを与えていてよかったな。橋本環奈は単なる置物だが様々なキャラに一通りの見せ場がある『帝都物語』的お祭り感覚もよかった。コスプレ的な雑さを感じる部分もないでもないが、前作『キングダム 運命の炎』が俺の中で結構ダメな映画だったので、難点はありつつもキッチリ締めた「第一部・完」の映画として『大将軍の帰還』、悪くなかったんじゃないでしょーか。橋本環奈は単なる置物だが…。