コンフィデンスウーマンKR映画『密輸 1970』感想文

《推定睡眠時間:40分》

海女映画にハズレなしと言えるほど海女映画観てはいないがかつては新東宝あたりで海女もののエロ映画が量産された時期もあったというし海女映画のおそらく最高傑作『人魚伝説』は俺が日本映画史を編むなら確実に残したい1本、ということで生計手段を失った韓国の海女さんたちが密輸に手を染める映画と聞けばそれは面白いものしか想像できないわけだが、期待が大きすぎたためか後半にあったらしい室内乱戦を寝てて見逃しているためか、なんかそんなでもなかった。

海岸沿いに建てられた化学工場だかの海洋汚染により海女さんが獲るアワビなどがほとんど全滅しという導入部は社会派犯罪映画っぽいがこれはガチに単なる書き割り背景に過ぎないので一切そのへんは掘り下げられることなく、以降は密輸ギャングや税関などが絡む無邪気なコンゲームの様相を呈し、似ている映画といえば俺の感覚では『コンフィデンスマンJP』であった。あれぐらい軽くてテレビ感覚の映画。テレビドラマの総集編のようなポップコーンとスマホ片手に観たい気楽な映画だったのだ(上映中のスマホいじりは迷惑なのでやめてください)

韓国海女さん版『オーシャンズ8』というネットの声もチラホラ見るがいやいやそんな大層なもんじゃないだろう。まずだってメインキャストであるはずの8人ぐらいいる海女さん1人1人の端的な人物紹介ができていない時点で『オーシャンズ8』ほど映画作りが出来てないもの。この海女さんたちの何人かが最初にちょっと出てくるだけですぐ退場するとかならそれもわかるがみんなキッチリ最後の方まで出てきて活躍するわけである。だったらかなり最初の方でそれぞれのキャラがどんな人かわかるようにそれとなく説明しないとダメだよな。

最初の方、といえばこれは蛇足というか、頭だから蛇頭というべきかもしれないが、このへんの意味の無い長さ。海洋汚染どうのは書き割り背景と書いたがそれならわざわざ10分も20分もかけて海女さんたちが密輸やらんくならなくなる過程を描いたりしないでよろしい。そんなもんはバッサリ省いていきなり密輸してるところから映画を始めてもいいぐらいだ。どうせ人物紹介もやらないのだし、海洋汚染の話もろくにしないのなら、そんなものは登場人物に二言三言台詞で説明させりゃあいいのです。

テレビドラマの総集編のような、というのはそのへんの取捨選択の下手さとストーリーテリングの手際の悪さに由来する。いちいち見せなくてもいいところをわざわざ長々と見せることで「これまでの展開は…」感が出てくるのだ。こういうのは基本的には脚本が悪いが、たとえば部下から密輸をもちかけられた船長が「そんなもんはイカン! 苦労しても真面目に働くべきだ!」と言った次のシーンは海女さんたちと一緒に密輸をしているシーンなので、なんだかんだ船長や海女さんも背に腹は代えられずと折れたわけだが、もしも俺が監督なら略してもし俺なら船長の「そんなもんはイカン!」と怒った顔をアップで撮った後、この船長がションボリした顔で漁船に乗ってる密輸シーンのやはりクロースアップに繋げ、その変化でちょっとした笑いを狙いつつ「ま、いろいろあったんだね」と観客を納得させようとすると思う。

それはきわめて単純な小手先の編集かもしれないが、ともあれこういう単純な面白味の積み重ねが映画を作るんじゃあないだろか。そしてこの映画はそういう小さな映画的オモシロの積み重ねをやっておらず、基本はマスターショットで、とはつまりそのシーンに出てくる役者だいたいをフォローできるような位置からの、安定的ではあるが面白味のないショットを繋げる編集になっていて、これはおそらく舞台の多くが海だから背景合成の都合上…というところもあるのだろうが、そんなもん観てるこっちは知ったこっちゃない。ともかく脚本が良くないだけでなく撮影や編集に関しても精彩を欠いて、そんな中にもたまにある面白いシーンは、たとえば捕まった海女さんたちが刑務所で過ごす年月を疑似ワンカットで表現したシーンとかなのだが、そんな物語的に大した意味の無いところでテクニックを使ってどうするんだとか思ってしまう。

1970年代が舞台とあってファンキーな衣装はとくに主演のキム・ヘスの七変化っぷりなど見所ではあるけれどもテレビ的コスプレ感を隠す気がサラサラない開き直りっぷりにむむむとなり緩急もなにもなくただ当時の歌謡曲と劇判をポンチャック的ノンストップで垂れ流し続ける芸の無いサントラ演出にもむむむむむとなる。そして結果「あ、これ観たな」となるのだ。韓国ケイパー映画の快作『10人の泥棒たち』とかではない。長澤まさみ主演の『コンフィデンスマンJP』なのである。伏線のないどんでん返しを多用する安易なウケ狙いの感じとかキャラの薄っぺらさとかよく似てる。

でも『コンフィデンスマンJP』もポップコーンとスマホ片手に観れば面白い映画なので(上映中のスマホいじりは迷惑なのでやめてください!)『密輸 1970』もそれぐらいの感じの映画と肩肘張らずに観ればかなり楽しめるんじゃないだろうか。『コンフィデンスマンJP』にはアクションとかサメは出てこないのでアクションとサメが出てくる分だけ『コンフィデンスマンJP』よりも面白いかもしれない。『修羅の華』の時もちょっと篠原涼子みたいだったキム・ヘスもやっぱり篠原涼子みたいでカッコいいしな。最後はなんというかああいう経験をした人の物語の結末としてあれでええんかとか思ったりもするが真面目に考えたら負けって気もするので考えません。

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