竜巻破壊指令映画『ツイスターズ』感想文

《推定睡眠時間:60分》

『ツイスター』といえば俺が小学生ぐらいの頃に大きな話題となった映画で今思えばなんであんなに話題になっていたのかよくわからないが(まぁ当時最先端のCGがすごいとかそういうことなんだろうたぶんきっと)竜巻に巻き上げられた牛がモーと鳴いているシーンは至る所で擦られたものであった。そして俺の周辺の友達とか親とかの評価はどれも「つまらない」というものであった。俺も映画館に観に行ったと思うがあまり記憶にないのでつまらなかったんだと思う。

そのつまらない『ツイスター』が20年以上の時を経て続編化されスクリーンに帰ってきたというのだからハリウッドのネタ切れ感は相当なもの、このままでは『シンドラーのリスト2』とかガチでやりかねねぇぞスピルバーグ関連では『カラー・パープル』もリメイクされたしとか思うがまぁそんなことはいいですね、『ツイスターズ』は『ツイスターズ』、ハリウッドのネタ事情とかそんなものは映画館の座席に座ってのんびりと大破壊を眺めたい我々無責任な観客には関係ないのだ!

うん今回もつまらなかったよ。当たり前だろ前作の時点で面白くなかったんだから! いや、もしかするとそれはちょっと違うのかもしれない。小学生の時分の俺のハートに『ツイスター』がヒットしなかったのはあれがパニック映画っぽい見てくれをしつつも本質的には竜巻のプロたちの仕事っぷりを見るお仕事映画だったからではないかと今となっては思う。基本的に舞台は荒野だから大規模なパニック描写とかもなければ人死にもない、それに怪獣みたいにわかりやすいフォルムとか行動もなく自然現象なんだから当たり前だが子供頭脳にはなんとも捉えどころがないのが竜巻である。その捉えどころのない竜巻の挙動を解析しようとするプロたちの人知れない地味な戦いを描いた映画、それが前作『ツイスター』であった。とすれば年齢だけ大人になった今観直せば結構面白いかもしれない。

ところが今回の『ツイスターズ』はその逆であった。竜巻は最新CGによって怪物化され冒頭から素人の学生たちが自分たちで考えた竜巻撃退作戦を実行すべく無謀にも竜巻に突っ込んでいって案の定自爆と人死にもパニック要素もある、終盤は竜巻が小さな町を襲うスペクタクルだ。竜巻と戦うのはプロではなく理論よりも実地での実験というか無謀な特攻作戦を恐れない田舎のあらくれ共和党支持者っぽい人たち。プロたちの地味なお仕事映画から一転、二十数年ぶりの続編であるコチラはなんか俺言うところの共和党アクションと化していたのである。

たぶんこれは逆に小学生の時に観てた方が面白かっただろうな。わかりやすい見せ場もあるし竜巻撃退チームが命知らずの特攻野郎どもというのもアツイ(小学生メンタルには)、竜巻撃退作戦の中身も吸水材を竜巻の中に入れて竜巻内の湿度を下げれば竜巻は消えるというとてもキャッチーなもの。だが曲がりなりにも大人になってしまった俺は残念ながらそれをキャッキャと楽しむことができなかった。なぜならまず、俺の理解するところでは竜巻は地上近くの空気の渦と上昇気流のセットによって生じる現象なので、竜巻内の湿度を下げれば竜巻は弱体化するという仮説の意味がよくわからなかったからだ。

吸水材を竜巻が巻き上げればやがて上空の積乱雲に到達すると思われるので積乱雲中の水分子を吸水材で吸い取れば積乱雲が消え、積乱雲によって生じた上昇気流もなくなるため竜巻が弱まるとかそういうことだろうか。なるほど…なんて共和党アクションらしいざっくり理論だ! まぁ共和党アクションはコンピューターの問題は再起動すれば全部直るし再起動ボタンはなんか非常ベル的な赤いやつになってるとかそういうのが普通だからな。『ジオストーム』とか。

そういう意味で共和党アクション全盛期だった1990年代のハリウッド製ディザスター映画を思わせるこの映画はたしかに午後ローで40分カットされたやつを吹き替えで観るには楽しいに違いないが、まぁ、随所に竜巻大破壊なんかがあるとはいえこれで122分は長いよ。こういうなんていうかちゃんとしてない映画は90分ぐらいでいいっていうかその尺だからこそくだらねーって思いながら観れるみたいの、あると思います。まぁ中盤50分寝ている俺にとっては実質的にそれぐらいの尺の映画となったのでそういう感じで観られましたけれども。でもフルだったら122分あるんだよなって思ったらやっぱなんかつまんない感じになる。

共和党アクションらしい大雑把さなので終盤の竜巻襲撃大パニックでは町の映画館が『ブロブ 宇宙からの不明物体』みたいに襲われてぶっ壊れるのですがその町はかなり小さい規模だったのでいまどき映画館なんてあるのと思うし、上映されているのはなぜかユニバーサル版の『フランケンシュタイン』。こんな小さな町でユニバーサル版『フランケンシュタイン』なんか上映しても商売になるわけがないと思うのでここの支配人はよほど強い信念に基づいてこの映画館を経営しているのだろう。しかも竜巻で映画館の屋根が引っぺがされても上映を中断しない不屈っぷり。中断したくなくてもそこまでの状況なら普通プロジェクターっていうか電気止まるだろ!

という諸々は俺が小学生なら気にならないところだったのだろうから、映画というのは内容は変わらなくても観るときの精神状態ひとつでガラリと姿を変える不思議なものだ。これも、最初からハリウッドのいつものあれ的なやつを観に行くつもりで観に行けばかなり面白い映画なんじゃないだろうか。俺もそういうのは好きな方なんだがまぁなんか今回はあんまノれなかった。とりあえず『ツイスター』、今の目で観たらどう見えるのか、今度再見してみようとおもいます。

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