《推定睡眠時間:40分》
全世界にケンカを売った前作『プー あくまのくまさん』から1年ぐらい、まさかのシリーズ第二弾が登場してしまった。ディズニーアニメの『くまのプーさん』ではなくあくまでもその原作の著作権が切れたことで生まれた『プー あくまのくまさん』はあのプーさんを殺人鬼にしたら面白いだろという全然面白くない発想のみを武器とした出オチ映画であった。いや、出オチというか、ぶっちゃけ映画が世に出る以前の予告編の段階で、もっと言うなら「あのプーさんがスラッシャー映画になるらしいwww」というネットニュースとかまとめサイトの好きそ~な一報がネットの世界を駆け巡った時点でもうオチてた。
言うまでもなく完成した映画は完全なる出オチで息切れがあまりにも早く最初はちょっと面白いがあとは『ザ・ミューティレーター/猟奇!惨殺魔』みたいな感じでとくに盛り上がり無く間延びしたたまにある心ない惨殺シーンだけが見所の凡作スラッシャー。しかし、あえて言うがその「映画を面白くする意志のなさ」はアメリカン・ホラーの作り手がどいつもこいつも小賢しい真似をしやがる現代においては貴重であり、世間的には大不評だが普段カスみたいな映画ばかり観ているので精神のぶっ壊れた映画病院入院患者のわれわれの心には不覚にもグサッと刺さってしまった…。
スラッシャー映画なんだから人が死ねばそれでいいんだろと言わんばかりの無愛想な作りには、ホラー映画の作り手が映画を単なる金儲けとしか考えていなかったアメリカン・スラッシャー全盛期1980年代の空気があった。むろん面白いか面白くないかで言えばそんな映画は面白いわけがないのだが、その空気が放つ郷愁には抗いがたい魅力を感じてしまわないこともないのもまた事実。とはいえそれはあくまでも前作の話である。おそらく話題が冷めないうちに低予算でさっさと撮られたことによるその殺伐とした中の奇妙なノスタルジアは偶然の産物だろうと思われ、前作の大不評と反比例する興行的成功(結局人間はつまらないとわかっていても「観たい!」という欲には勝てないものだ!)を受けて製作されたこの殺人プーさんシリーズ第二弾は予算も倍増ということで、前作が始まる前から既に出し尽くしていたネタをこれ以上引っ張れるわけもなく、きっと前作に増して面白くない上に今度は謎の郷愁もない単なるつまんない映画になっているであろうことは想像に難くないのであった。
そうとくれば逆に観に行かないわけにはいかないので観に行ったらやっぱり面白くない! 予算倍増の効果は序盤から丸見えであり、なんと今回は全然意味も無く殺人プーさん一味が森の中のキャンピングカーを横転させ火をつける。こんなに意味も無くお金のかかる撮影は前作なら決してできなかったはずであり、観客にこれが意味もなく予算のかかった映画であることを印象づけるが、以降は殺人プーさんの誕生悲話を探りつつ主人公クリストファー・ロビンのドラマをやたら長い台詞で見せるというマジでどうでもいい展開に寝ていたからよくわからないがなっていたはずであり、予算を増やした意味が全然感じられない…! そのくせとくに意味の無い捻りの加わえられた冒頭の状況説明は結構長い手描き調のアニメで安上がりに済ませる前作同様の手法で金があるのかないのかよくわからないのはなんなんだ。
前作はプーさんの二次創作というよりも単なるかぶり物をした殺人鬼の出てくるスラッシャー映画にしか見えなかったが今回はスラッシャーというよりもプーさんズの造型が無駄にパワーアップして誰が誰だかわからないためエイリアン・ホラーやクリーチャー・ホラーの観で、相変わらずプーさん原作をまったく生かせていないのだが、それはまぁ誰も期待してないと思うし俺も期待してないのでいいとしても、懸念した通りやはりジャンルが微妙に変化したことにより前作に漂っていた「あの頃」感は失われていた。というわけで『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』、単につまんないだけの映画である…と切り捨てたかったのだがあぁまたしても! またしても…不覚にも心にグサッと刺さってしまった。
これが予算倍増の主な効果なのだろう、ゴア特殊メイクは現代の劇場公開アメリカン・ホラーとしては『テリファー』シリーズに次いで激しく、画面外処理されるところもまぁまぁ多いとはいえ、まぁ何の罪もない人たちが残虐に殺される殺される、その具体的描写を見せる見せる。やはりこの映画最大の、というかそこだけかもしれない見せ場は終盤のパーティ大虐殺、このシークエンスではすわ『クロムスカル』かッ! というとくに頭部に集中した人体破壊・獣体破壊が画面を彩り、その明らかに大人として間違った予算の使い方に、なんて正しく間違ったことをしているんだろうと一抹の感慨すら覚えてしまう。
たしかにこの映画は面白くない。だがしかし、映画を面白いとか面白くないとかで判断するようになったら人として負けなんじゃないですか!? つまんないがグッとくる、つまんないが学びがある、つまんないがなんだか妙に忘れがたい…それこそが映画を「観る」ということじゃあないんですか!? うんそうではないかもしれないねそうではないかもしれないけれども出てきたそばからショットガンで頭部をすっ飛ばされるピグレットの不遇な扱いや最終的にチェーンソーを手に取ってレザーフェイス化するもとくにチェーンソーを使った見せ場はないプーさんの持て余し感などをその雑さとはかなり不釣り合いな気合いの入ったゴア描写なんかと併せて観てるとですねなんかわからんなんかわからんがやはり、ただの面白くない映画では済ませたくない気がしてしまう、してしまうんだよ! そんな映画でした『プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち』は!!!
同スタッフで『シン・デレラ』ってシンデレラが復讐鬼になるスプラッターもやるようですが、
どちらかと言えばマッドハイジ路線?
『マッド・ハイジ』は普通に面白い映画ですけど、たぶん『シン・デレラ』はつまんない芸のないスプラッターだと思います笑