友達ゼロ探偵奮闘記映画『#スージー・サーチ』感想文

《推定睡眠時間:40分》

昨日迷惑系配信者が幽霊屋敷で自業自得と言うほかない目に遭う『デッドストリーム』という映画の感想を書いたが俺がこれを観た新宿の映画館シネマカリテではこの『#スージー・サーチ』もやっててこちらもやっぱり迷惑系とは違うが『デッドストリーム』のバカ配信者とは別方向で人にとんでもない迷惑をかける配信者が主人公だったのでじゃあということでその感想なのだがいや~誰が犯人なんだろうと思って観ていたから終盤の展開にびっくりしちゃったよ!

そんな映画ではないはずなのだ! なぜならはっきりとしたことは言えないが俺が寝ていた中盤40分で事件の真相は明らかになっているはずだから! でもそこを寝ていたから誰が犯人なんだろうな~って観ててエッお前が!? っていうね。別にミステリーじゃないところが睡眠鑑賞によってこちらの頭の中で勝手にミステリーとなってしまい勝手に真相を知って驚くというセルフサプライズ。こういうこともあるから寝ながら観るのは楽しいことだ。

その事件というのは瞑想系動画で人気の学生インフルエンサー(『ヘレディタリー』やシャマランの『オールド』で強い印象を残したアレックス・ウルフ)が突如失踪したというもの。未解決事件の謎を推理する視聴者数0~1人の自主番組を配信しているインフルエンサー志望の学生スージーちゃん(カーシー・クレモンズ)は偶然にも失踪した学生が同じ大学に通ってる人だったってんでコナン君化、この事件の謎を解いてワシもインフルエンサーなったるで! と怪気炎を上げるのであった。

なんといってもこの映画のよいところは主人公のスージーちゃんが可愛いところである。この人はなんというか賢いバカ、学校の成績は悪くないのだがその活かし方が斜め下を行ってしまっているのでせっかくの頭脳の持ち腐れで、そのズレっぷりがなんだか『ベティ・サイズモア』の勘違いウェイトレスを思わせキュートなのである。風貌も行動も大学生にしてはちょっと幼いのだが本人はそんなこと全然気にしないでというか気付かないで突っ走り、イタイ、ぶっちゃけイタイ人ではあるのだが、これが俺の偏愛する『オブザーブ・アンド・レポート』だったら痛々しい笑いになるところ、こちら『#スージー・サーチ』は無能中年が主人公だった『オブザーブ』と違い女子学生なのでギリで痛々しくならず可愛いな~と観ていられる感じなのだ。

そのへんはポップな映像や主人公の人物像をあまり深掘りしない脚本のためもあるだろう。主人公スージーちゃんがこうなったのは無駄に賢かったがためにうまく同世代の友達を作ることができなかったというのが言動の端々からは察せられるのだが、あくまでも察せられる程度でそれを人間ドラマとして見せるということをしない。心理描写も最低限でスージーちゃんの家庭が下流の上ぐらいのシングルマザー世帯であるのに対して失踪した瞑想インフルエンサーは学生の分際で瞑想なんかやってるぐらいなので超お金持ちの家庭の子、そうした立場の違いからは底辺配信者であるスージーちゃんが失踪事件の報道を知り何を思ったか察せられるが、こちらもあくまでも察せられるだけで、具体的にその心の内が描写されることはない。要するに重くなったりシリアスになったりしそうなところはおそらく意図的に省いているので、まぁまぁな事件が画面の中では起こったりもするのだが、終始スージーちゃん可愛いな~スージーちゃんがんばってね~とのほほん気分で観ていられるのである。

もしかするとそうした作りは現実の様々な問題と向き合おうとせずポップでカラフルでどこまでも表面的なSNSの世界に逃避するスージーちゃんの見ている世界を観客に体験させるための仕掛けだったのかもしれない。この映画がミステリーとして薄っぺらいとすればそれはスージーちゃんの把握する世界が薄っぺらいからなのだ。実際スージーちゃんは自分で未解決事件に挑む的な動画を配信してるにもかかわらず劇中でろくに推理なんかしていない。それっぽい形だけあって中身はなんもないというSNS時代のアメリカン学生の空虚な肖像。そのように観ればポップでキュートな見た目に反してなかなか薄ら寒いところのある時代批評的な映画なのであった。

ラストはまるで『サブウェイ・パニック』、もしくは『刑事コロンボ』。はい、こうなっちゃダメですよ~というSNS教材としても使えそうな1本であった。

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あおず
あおず
2024年8月25日 1:01 AM

>スージーちゃんの把握する世界が薄っぺらい

ハッとしました!鑑賞後、なんだこれって思ってましたが、腑に落ちて満足です