正しすぎるサメ映画『エア・ロック 海底緊急避難所』感想文

《推定睡眠時間:70分(1回目)》
《推定睡眠時間:15分(2回目)》

夏だ! 映画だ! サメ映画だ!!! ということで今年初開催の東京国際サメ映画祭でプレミア上映されたサメ映画が満を持して一般公開されたので観に行ってきたらサメが出てくる前に入眠してしまった。なにかと疲労のたまる夏である。暑いなか映画館まで行ったはいいがそこで力尽きてしまうという俺のような人はみんな言わないだけで結構いることだろう。いやそう思いたい。そう思わなければなんか俺がアホみたいだからである。

でも起きて観てた部分はそんな面白くもなかったしほぼ寝てるがまぁいいかと思っていたところ観たかった別の映画のチケットが完売になっていたことを知る。困ったナァ、仕方がないそれなら今からなんか別の映画でも観るか…と近場で今から観られる映画を探したところ待ち時間もなくちょうどこれから始まりそうだったのが『エア・ロック 海底緊急避難所』であった。じゃあもう1回観るしかないじゃん。なんと同日に『エア・ロック』を2回も観るという偉業を達成してしまったよ。まぁ今年は胸糞サスペンスもしくはブラックコメディの『胸騒ぎ』でも同じことをやってるけどな。

だが2回観て判明したのはやっぱりそんなに面白くない…という身も蓋もない事実。序盤はいい。パニック映画の定石で同じ飛行機に乗り合わせる様々な人々を描写して、これからその飛行機は海に墜落してサメの餌場となることを観客のこっちはポスターとか予告編とかから知ってるわけだから、誰がサメに食われるんだろうなぁとか不謹慎にもワクワクしながら思考を遊ばせたりするわけである。この人は良い人だから生きててほしいけどでも良い人だから逆に食われそうだなぁ、この人はなんかどうでも感じの扱いだから食われそうと見せかけて実は火事場の馬鹿力を発揮して助かったりするのかなぁ、てなもんである。

そして案の定の飛行機墜落。ここは迫力があった。徐々に機体が剥がれていく様子が実にサスペンスフル、ついに機体に穴が開いてからも空気圧で外に吸い出されないよう必死に席に掴まる人なんかをじっくりと描写して助かるかなぁ助かるかなぁああダメだったやっぱりねとまぁ結果は予想できるとしてもハラハラドキドキ。本筋はあくまでも飛行機が海底に突っ込んでからのサバイバルなんだから飛行機墜落シーンなんかカットしちゃってもいいぐらいだし、マッツ・ミケルセン主演の『残された者 北の極地』とかリーアム・ニーソン主演の『THE GREY 凍える太陽』みたいなちょい地味ではあるがA級っぽいタイトルでもそういう手法を取っていたのに、それらに比べて明らかに予算がないと思われるサメ映画の『エア・ロック』では本格的な飛行機墜落シーンがある!

でもそこが頂点だったね、面白さの。海底に飛行機が墜落してからは空気が残ってて浸水してない機体後方のトータル十畳ぐらいのスペースだけで物語が進行するので結構つらい。なるほど極小スケール版の『ポセイドン・アドベンチャー』という感じでサバイバル型のヒューマンドラマとしては丁寧で破綻なく悪くないとは思う。しかしですよ、サメ映画っていうから観に行ったのに…まぁ言われなくても飛行機が墜落する映画は面白いはずだから行ったかもしれないが…そのサメがとくに異常能力のない普通のサメだからそんなに攻撃を仕掛けてこないし、また生き残った人たちも普通の知性と理性を持っているので水に入るとサメに襲われると知って全然水に入ってくれない。

ということでみんなトータル十畳ぐらいのスペースに固まってとくにサメに食われることなく刻々と機体が沈んでいく中であれこれ話し合って生存の策を45分ぐらい練る。緊急時の行動としては理想的と言えるほど正しいかもしれないが、問題はそれがサメ映画としてはかなり致命的に正しくないということだろう。まぁ考えたらそうだよね、サメってほら普通は海の中に入らないと人間を襲わないし、そもそも平常モードのサメはそんなに人間を襲ったりしないらしいから、真面目にサメの出る映画を作ろうとしたら人がバクバク食われるような展開にならない。サメ映画の元祖にして真面目なサメ映画の代表選手たる『ジョーズ』でさえサメの生態とサイズを相当に歪曲&誇張して終盤はわざわざオッサンたちが完全アウェーな海の上でサメと戦おうとするという冷静に考えればかなり無茶な展開の映画である。それ即ち無茶をしないとサメ映画にならないということだろう。

この映画は登場人物にも登場サメにも無茶をさせないのでこの手のパニック映画にしてはなかなかリアルな感じであった。がそのためにスケールはリアルに小さくなって見栄えがしない。予算は少ないだろうとしても決して安い映画ということはなく序盤の飛行機墜落シーンを筆頭にどのシーンもちゃんと撮っているし少ないながらもサメ襲撃シーンだって本格派なのだが、結果としてなんだか昔のテレビ映画みたいになってしまった。まぁテレビでこれ観たらそこそこ楽しめると思うし、映画館で観てもまぁまぁ楽しめるとは思うが、サメ映画に限らずやっぱり人が死ぬ系の映画にはどんなものであれ多少の飛躍が必要なんだなぁとか思わされる、そんな『エア・ロック』なのだった…。

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